『キングダム 運命の炎』『1秒先の彼』など7月公開映画の評価は?
今月の5つ星
名作台湾映画の日本版リメイクから、話題のスラッシャー映画、カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作、バイオレンス実写版「アルプスの少女ハイジ」、そして『キングダム』シリーズ第3弾まで、見逃し厳禁の作品をピックアップ。これが7月の5つ星映画だ!
癒やしと共感に満ちた感動作
『1秒先の彼』7月7日公開
台湾のアカデミー賞とも称される第57回金馬奨(2020年)で、作品賞を含む最多5冠に輝いた名作『1秒先の彼女』の日本版リメイク。男女の設定を逆転し、京都を舞台にしたファンタジー・ラブストーリーだ。
幻想的なシーンや、何をするにもワンテンポ早い彼(岡田将生)と遅い彼女(清原果耶)というユニークなキャラクター設定でありながら、リアルな感情表現をちりばめたストーリーが最大の魅力。非現実的な世界は、絶妙なバランスで心地よく、パワーのみなぎる人物たちを通して、日常のちょっとした喜びや人を思う尊さを実感できる。また、時間を巧みに操り伏線を回収していくような構成は、キャラクターに感情移入させ没入感たっぷり。山下敦弘監督(『天然コケッコー』など)の演出と、宮藤官九郎(連続テレビ小説「あまちゃん」など)による脚本が見事に溶け合い、癒やしと共感に満ちた感動作が誕生した。(編集部・小松芙未)
シリアルキラー少女の極彩色な狂気に誘われる
『Pearl パール』7月7日公開
スターを夢見ながら田舎の農場で抑圧された人生を送る少女が、シリアルキラーとして花開くスラッシャー映画。老夫婦が若者たちを血祭りにあげる『X エックス』の前日譚(たん)となり、特殊メイクで殺人老婆パール役を務めた女優ミア・ゴスが、若き日の彼女を演じる。
全編出ずっぱりなミアの独壇場で、ショービズに憧れる無垢な少女の秘めた衝動と抑え続けた感情が発露するクライマックスの独白は、殺人シーン以上の迫力だ。殺人鬼であるにもかかわらず、ついパールに同情してしまう本作を観た後では『エックス』の印象もガラリと変わる。映画のテイストは『オズの魔法使』に代表されるテクニカラーのミュージカル。コロナ禍とリンクするスペイン風邪が流行した1918年が舞台なのも相まって、観ている側も極彩色で描かれる狂気に誘われる感覚に陥る。1980年代を描くという最終章『マキシーン(原題) / MaXXXine』への期待も増すばかりだ。(編集部・入倉功一)
美しくも残酷な青春の一場面
『CLOSE/クロース』7月14日公開
第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門でグランプリに輝いた本作は、トランスジェンダーの少女を描いた映画『Girl/ガール』で脚光を浴びたルーカス・ドン監督の長編第2作。心も体もぴったり、いつでも一緒だった幼なじみの少年2人が中学進学で新たなコミュニティに入り、「2人って付き合っているの?」と問われたことをきっかけに起こる悲劇を映し出す。
なにより、主人公レオを演じた子役のエデン・ダンブリンが素晴らしい。親友レミとの関係を他者の目を通して再定義された時の戸惑い、セクシャリティの揺らぎ、拒絶、再生までをみずみずしく表現しており、レミを見つめる優しいまなざしには胸を締め付けられる。ドン監督はレオの辿る旅路を色彩でも表現し、色鮮やかなダリアの花畑を2人の少年が駆けるオープニングは刹那的な美しさで、この幸せは長くは続かないと暗示する一方、季節がめぐりまた花がほころぶ春の訪れも予感させる。(編集部・市川遥)
ハイジが激変…『ジョン・ウィック』級の爽快な復讐劇
『マッド・ハイジ』7月14日公開
世界19か国の映画ファン538人が資金を調達し、日本のアニメ版でも知られる児童書「アルプスの少女ハイジ」をバイオレンスアクションとして映画化。恋人ペーターやおじいさんを殺されたハイジが、スイスを掌握する独裁者たちを血祭りにあげていく。
『マッドマックス』のような狂気に満ちたディストピア世界、『ジョン・ウィック』の系譜を継ぐ復讐劇など、名作をこれでもかと大胆にアレンジ。テコンドー黒帯所有者の新鋭アリス・ルーシーが、復讐の鬼として覚醒したハイジを体当たりで演じており、カンフーや華麗な剣技で悪人を成敗していくさまは圧巻の一言。クララやペーターも想像の斜め上をいく解釈で実写化され、原作とのギャップを比較するのも一興だ。ゴア描写が連続する中でも、名シーン再現などリスペクトも忘れず、作り手の情熱が垣間見えるエンタメ快作として仕上がっている。マーベルファンなら思わずクスリとなる、ラストの演出にも注目だ。(編集部・倉本拓弥)
戦いとは頭脳戦!心身共に強くなった信にゾクゾクさせられる
『キングダム 運命の炎』7月28日公開
原泰久の人気漫画を実写映画したシリーズ第3弾。前半では若かりしエイ政(吉沢亮)が中華統一という修羅の道を歩むことになった壮絶な過去に泣き、後半では敵国・趙を相手に無謀ともいえるミッションを背負った信(山崎賢人)の成長ぶりに胸アツの展開となる。(「崎」は「たつさき」)
敵国で人の憎悪を一身に浴びたエイ政の絶望的な孤独を体現した吉沢もさることながら、王騎(大沢たかお)、趙の副将・馮忌(片岡愛之助)ら強烈な面々の中で揺るぎない存在感を示した山崎はさすが。戦いのスペクタクルが山崎、清野菜名らキャストの神技的なアクションを交えて描かれるのがシリーズの持ち味でもあるが、原作で重視されている“頭脳戦”のスリル、痛快さもきっちり表現。それを伝える一人が軍師を目指す新キャラで、「美しい彼」で人気急上昇中の萩原利久が聡明な蒙毅にはまり役となっている。(編集部・石井百合子)