庵野秀明、エヴァからゴジラへ創造の裏側5 ~シン・ゴジラを作った人々 - 329人の同志
『シン・ゴジラ』レア資料公開!
東宝製作による約12年ぶりの日本版『ゴジラ』シリーズ最新作にして、大ヒットアニメ「エヴァンゲリオン」シリーズの庵野秀明が脚本・総監督を務めた『シン・ゴジラ』。特撮ファンはもちろん、多くの「エヴァ」ファンからも注目を浴びる話題作に、庵野総監督はどう立ち向かったのか。数々の資料写真や庵野総監督を支えた盟友たちの証言を追いながら、『シン・ゴジラ』の裏側を探っていきます。(取材・文:入倉功一)
■野村萬斎(ゴジラ)
日本で初めてフルCGで表現されたゴジラの姿を描く『シン・ゴジラ』は、現実離れした“巨大不明生物”の出現により日常を破壊された、この国に暮らす人々の戦いを描いた群像劇でもある。
メインキャラクターは、内閣官房副長官・矢口蘭堂(長谷川博己)、内閣総理大臣補佐官・赤坂秀樹(竹野内豊)、米国大統領特使のカヨコ・アン・パタースン(石原さとみ)の三人だが、庵野総監督が仕上げた脚本は、彼らだけではなく、さまざまな形でゴジラの脅威に直面する人々の視点にも重点を置いた、濃密な人間ドラマだった。
その脚本を形にするために集結したキャストは総勢328名。プロデューサーチームや庵野総監督、および樋口監督、尾上准監督による話し合いで、膨大な数の配役が決定していった。山内章弘エグゼクティブプロデューサーは、「特に多くの俳優を集めよう、という発想で企画が始まったわけではありません。多くの視点で展開する庵野脚本を実現する為にはこれだけのキャストが必要だった、ということです」と述懐する。
■日本から、俳優が消えた日
文字通り、世界に誇る日本のエンターテインメントの一つである『ゴジラ』。それだけに、オファーをしたキャスト陣には「ほとんどの方に快諾していただきました。逆アプローチをしていただいた方も多かったです」(山内)といい、結果として、「ゴジラの現場以外、日本から俳優が消えた」と言われるほどの豪華キャストが集結した。
その顔ぶれは、矢口を献身的に支える内閣官房副長官秘書官[防衛省]・志村祐介を好演した高良健吾をはじめ、対ゴジラの要となる「巨大不明生物特設災害対策本部」こと「巨災対」メンバーを演じる市川実日子(環境省自然環境局野生生物課長補佐・尾頭ヒロミ)、津田寛治(厚労省医政局研究開発振興課長・森文哉)、塚本晋也(国立城北大学大学院生物圏科学研究科准教授・間邦夫)、高橋一生(文科省研究振興局基礎研究振興課長・安田龍彦)など個性的な面子が集合。
また政府内関係者に目を向けても、大杉漣(内閣総理大臣・大河内清次)、柄本明(内閣官房長官・東竜太)、國村隼(統合幕僚長・財前正夫)、平泉成(農林水産大臣・里見祐介)、松尾諭(保守第一党政調副会長・泉修一)、渡辺哲(内閣危機管理監・郡山肇)など、こちらも実力派が勢ぞろい。各キャラクターの役職も細かく設定されており、政府関係者への徹底取材を敢行した庵野総監督のこだわりが見てとれる。女優の余貴美子ふんする女性防衛大臣・花森麗子など、現実を予感したかのような役どころにも注目だ。
■贅沢なカメオ出演者たち
4月に発表されたキャスト陣には、主要メンバーを演じる俳優以外にも、数多くの著名人の名前が挙がった。その中には、ほぼ1カットしかスクリーンに映らないカメオ出演者も数多い。
わかりやすい例では、ゴジラ侵攻の中で住民に避難を呼びかける消防隊員役で小出恵介が出演。
ゴジラに立ち向かう第1戦車中隊長の池田役に斎藤工、タバ作戦戦闘団長・西郷役にピエール瀧、さらに古田新太(警察庁長官官房長・沢口)、光石研(東京都知事・小塚)、松尾スズキ(フリージャーナリスト・早船)など人気俳優が顔をそろえる。
そのほか第2戦車中隊長役でミュージシャンのKREVA、芦田第2飛行小隊第1小隊長役で石垣佑磨なども出演。ゴジラの生態について見解を述べる識者たちに映画監督の犬童一心、原一男、緒方明をそろえるなど、ジャンルを超えたキャストが名を連ねた。トンネルから避難する人々の中には、前田敦子の姿も確認することができる。あまりに贅沢で膨大なキャスティグに奔走する日々を山内は「プロデューサーチーム、キャスティングプロデューサーで手分けをしながらオファーしました。壮絶な数のオファーでした(笑)」と振り返る。
■329人目の出演者
フルCGでゴジラを描くにあたって、肝心のゴジラのアクションには、俳優の演技をキャラクターに反映させる技術、モーションキャプチャーが用いられた。およそ12年ぶりに復活する怪獣王を演じる329人目の出演者として白羽の矢が立ったのが、狂言師・野村萬斎だ。
「無機質で、かつ神々しさを持つ動き、そして12年ぶりに蘇るジャパンゴジラという意味を持つ存在を演じる存在として、まっさきに挙がったのが萬斎さんのお名前でした。そこで、『のぼうの城』ですでにご一緒されていた樋口監督から直接お話していただき、ご快諾いただきました」(山内)
ただ、歩く。それだけで、荒ぶる神のごとく日本を蹂躙するゴジラ。圧巻の存在感を発揮した野村へのオファーを樋口監督は、後に「CGでやるとなったとき、どうゴジラにするべきか? と考えて『やるなら萬斎さんでやろう』と思いました。受けてくれるかどうか、すごく高いハードルを乗り越えるつもりで、こちらが思っていることを伝えたんです。これは神様です、とか……。そうしたら、(萬斎が)その打ち合わせの席で『それはこういうものですか?』って、立ちあがって振り向いたんですよ。そのとき、そこにゴジラが現れるという稀有な体験をさせてもらいました」と振り返っている。
野村の出演については、公開まで長くかん口令が敷かれた。ようやく迎えた発表の日、映画公開初日に野村は「日本の映画界が誇るゴジラという生物のDNAに私が継承しております650年以上の歴史を持つ狂言のDNAが入ったという事で非常に嬉しく思っております」と感慨深げに語った。
映画『シン・ゴジラ』は全国公開中