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ぐるっと!世界の映画祭

若者たちは混沌とした時代をどう見つめているのか!?国際平和映像祭

ぐるっと!世界の映画祭

【第95回】(日本)

 毎年9月21日は、国連が定めた国際平和デー。その時期に合わせて、2011年に学生が対象の短編映像祭として、横浜で国際平和映像祭(UNITED FOR PEACE FILM FESTIVAL、以下UFPFF)がスタート。11回目の今年はコロナ禍を鑑みてオンライン開催となった。受賞作はUFPFF公式サイトで無料配信中。世界の若者たちは何を見つめ、映像を通して何を伝えようとしているのか?  彼らの目線で、世界の「今」に触れてみたい。(取材・文:中山治美、写真:国際平和映像祭)

オンライン開催
オンライン開催となった今年の映像祭。(写真提供:国際平和映像祭)

国際平和映像祭公式サイトはこちら>>

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映像で世界を変える!

2015年のUFPFF
2015年のUFPFFの様子。(写真提供:国際平和映像祭)

 UFPFFは学生を対象とした短編コンペティションで、「平和やSDGsをテーマとする5分以内の映像作品」が条件。主催は一般社団法人国際平和映像祭で、その代表理事および発起人を務めるのは、ドキュメンタリー映画『もったいないキッチン』(2020)や『戦火のランナー』(2019)など社会問題を取り上げた作品を配給・制作している映画会社ユナイテッドピープル代表取締役の関根健次さん。

 映像祭の趣旨について、関根さんは「平和構築のために映像という手段を使っています。学生の映像作家たちが切り取る世界を知ることで、わたしたちは世界観を広げることができます。そして、感動した一人一人が、何とかしなければならないと感じ取れば、行動します。映像がただ単に世界の出来事を知ることのみならず、行動のきっかけになればと願い開催を重ねています。また同時に映像作家や来場者、関係者が会場で出会い、つながり、友人になっていくことが、平和の礎になると考えており、出会いの場を大切にしています」と話す。

 2017年からは国連関連機関のUNAOC(国連文明の同盟)などとパートナーシップを結んでおり、2019年からは国連広報センターが後援となっている。

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グランプリはBLMがテーマ

 2021年は過去最多の45か国から応募があり、ファイナリスト10作品が映像祭でオンライン上映された。

 「海外作品は、コロナ禍に関連して病院を舞台にした作品が複数あったことが印象に残っています。日本国内は平和に限らず、プラスチックごみや水問題といったSDGsに関わる作品が多かったです」(関根さん)

 受賞結果および監督、審査員によるコメントは以下の通り。

●グランプリ(副賞:現金10万円)

ブラック・フューチャーズ
『ブラック・フューチャーズ』より。

『ブラック・フューチャーズ』
監督:ジャスミン・スクリーヴェン(アメリカ・イサカカレッジ)
大学の授業の課題として作った作品です。日々さまざまな差別や偏見に直面している若い黒人として、この映像作品を作らなければいけないと強く思いました。

審査員:丹下紘希(人間/映像作家/アートディレクター)
黒人差別反対運動のスローガン、BLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動は日本でも大きく報道され、わたしたちもこの問題について深く考えなければと思っていました。今の人々は、(デモなど行動を起こすことは)平和を乱すことだと勘違いしやすい。でも「平和のための戦い」というのがあり、その一歩を自分は踏み出せるかどうか? それこそが本作のテーマかなと思います。動かない理由は自分の中からいくらでも出できます。劇中、「戦うことが虚しく思えることもある」というセリフがありましたけど、平和への道も簡単ではありません。それでも自分の殻を破って、一歩踏み出すことの重要さを伝えてくれる、示唆のある作品だと思いました。

●準グランプリ(副賞:現金3万円)

75年前の僕ら
『75年前の僕ら』より。

『75年前の僕ら』
監督:飛川優(東京・工学院大学附属高等学校)
1年前に祖父の戦争体験談を聞いたことがきっかけで、戦争体験者の取材を始めました。それまでも自分では戦争の恐ろしさや、戦争をやってはいけないということを理解していたつもりでしたが、実際にお話をうかがって、当時を生きた方がどういった状況で生活し、戦争に対してどういう思いを抱いていたのかを理解できたような感覚がありました。その感覚を少しでも多くの方に共有できたらと思い、1年間で23人の方にインタビューさせていただきました。映像を通して「あの当時、自分が生きていたら?」を考えていただけたらと思います。

審査員:サヘル・ローズ(俳優)
この作品を観たとき、涙が止まりませんでした。生き延びた方々が背負ってしまった苦しみ、ずっと抱えてしまったトラウマはいくつになっても癒えません。しかし戦争を体験した当事者はどんどん減っていますので、わたしたちに「生きた声」はなかなか届きません。ですので、こうして若い世代があえてそこに飛び込み、彼らの声を伝えることで、今ある平和に慣れてはいけないこと、次の世代のためにも同じことを繰り返してはいけないことをわたしたちは強く感じることができます。これは平和を知るための「生きた声」です。この作品を多くの人に観ていただきたいし、わたし自身、今ある命を大切に噛みしめていきたいと思いました。

●審査員特別賞

血だらけのブーツ
『血だらけのブーツ』より。

『血だらけのブーツ』
監督:レイラ・アハン(イラン・テヘラン芸術大学)
この映画は貧しい経済状況に抗議する平和的なデモで、ネットが遮断される中で、支配体制によって暴力的に若い男女が殺害されていく様子を描きました。座った猫のようなイランの国の形と、軍服を着た政権からインスピレーションを得ています。抑圧されている人々の声を世界に伝え、人権機関にこの地域に注目してもらうための試みです。わたしはアフガニスタンがタリバンに支配されている今、中東とその他の地域に平和が戻ってくることを深く願っています。

審査員:高橋克三(一般社団法人国際平和映像祭 理事)
アニメーションも素晴らしいのですが、最後に映し出される路上の風景を写した一枚の写真が印象的で、その道の風景が世界につながっていくと感じました。なぜなら、香港やミャンマーをはじめ、世界では今多くの人が路上に出て世の中を変えたいと行動しています。本作はイランのガソリンの値段を変えたいという小さなことですが、世界の普遍的な問題につながっていると思いました。

●AFP通信賞(副賞:AFP写真年鑑 2021)※該当なし。奨励賞として授与。

記憶とユートピア
『記憶とユートピア:時間の概念としての都市』より。

『記憶とユートピア:時間の概念としての都市』
監督:チャオ・ガオ(中国・南寧師範大学)
人工的な都市を大小の視点から見つめて、共通項を探ってみました。都市が新鮮に映れば幸いです。

審査員:加来賢一(AFP World Academic Archive ディレクター)
この賞は、フランスのAFP通信のデジタルコンテンツを使用して作品を作るのが前提だったのですが、今年はその応募がなかったので、該当者なしとしました。しかしファイナリストの10作品を拝見して完成度が高かったので、奨励賞として一番印象に残った作品を選出させていただきました。

●CyberLink賞(副賞:動画編集ソフト・PowerDirector 365、写真編集ソフト・PhotoDirector 365)

さようなら地球
『さようなら地球』より。

『さようなら地球』
監督:アミル・フセイン・ホッセイニ(イラン・チャムラン高校)
コロナ禍の外出制限中に、スマホで撮りました。材料費はわずかで、特別な機材も使っていません。初めての短編で思い入れがあります。

審査員:今澤浩之(サイバーリンク株式会社 シニアマーケティングマネージャー)
わかりやすくシンプルな表現と構成でメッセージを伝えていました。小さな子供でも理解できるような映像が好印象でした。

●LIFULL賞(副賞:現金10万円)

タグ
『タグ Tag』より。

『タグ Tag』
監督:ジーイー・ワン(アメリカ・コロンビア大学)
この作品は卒業制作で、現代社会への皮肉を込めています。舞台は架空の世界で、他人への偏見を「タグ」で表しています。この世界では生まれたときから数々のタグが貼られていきます。点数のみによる学生の評価、職業に対する先入観などです。人々はお互いにタグを貼りあっています。誰もがタグで判断され、本当の中身は見えません。

審査員:井上高志(株式会社LIFULL 代表取締役社長/一般財団法人PEACE DAY 代表理事)
全ファイナリストに共通していたのは、どれも素晴らしく、また一人一人の思いと行動がすごく大事だということが込められていました。その中で本作は、偏見をタグで表現し、そんなのは不必要でダイバーシティ&インクルージョンな世界を作ろうというメッセージが非常にわかりやすく描かれていた。その点を評価しました。

審査員総評:山崎玲子(国連UNHCR協会 事務局長特命・渉外担当)
審査員としてUFPFFに参加したのは3回目ですが、今年の審査が一番難しかったかもしれません。どれも受賞に値する作品だったと思います。わたしたちは新型コロナのパンデミックを経験し、日常の大切さを痛感しました。それはものすごく大きな出来事だったと思います。またそれだけではなく自然災害や紛争が激化した地域もあり、さまざまな意味を持った年だったとも思います。それが各作品に反映されていて、わたしたちが目を向けなければいけないことがたくさんあると思ったのと同時に、映像は人々の心を動かすことができるのだと確信しました。それが短くあっても。

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現場の声を聞くイベントも多彩

エイン
『エイン』より。(写真:日本映画大学提供)

 UFPFFでは上映のほか、アフタートークとして平和教育のカリキュラムを展開しているデザイン・コンサルティング会社アソボット代表取締役・伊藤剛さんをはじめ審査員による「戦争と表現あるいは映画について」が行われ、映画がかつて、戦時中の国威発揚のためのプロパガンダとして利用されていた歴史についても語られた。

 また開催前には、「ミャンマーの今とこれから」と題して、ミャンマーで拘束されている日本育ちのミャンマー人映像作家モンティンダンさんの日本映画学校(現在・日本映画大学)卒業制作作品『エイン』の上映と、ミャンマーで拘束されていたジャーナリストで映像作家の北角裕樹さんのトークイベントを開催。モンティンダンさんは今年4月に国軍に不当逮捕され、今も拘束が続いている。モンティンダンさんの友人でもあり、現地で会った北角さんによると長時間の取り調べの際に暴行や拷問が横行しており、モンティンダンさんも被害を訴えていたという。

 同じくUFPFF開催前のPRイベントの一環で行われたのが、共にUFPFFファイナリスト出身者であるドキュメンタリー映像作家・久保田徹さんとUFPFFスタッフ・Usui Kenta さんの「平和を紡ぐ映像」をテーマにしたインスタライブだ。久保田さんはミャンマー・ロヒンギャの難民キャンプを訪れて、彼らが置かれている状況の実態をつづった『Light up Rohingya』でUFPFF2016のAFP通信賞を受賞している。その後もミャンマー情勢を追い続けていることから、雨季が終わる11月に本格的な内戦に発展するのでは? と言われているミャンマーでの取材依頼があったという。それには相当な準備を要することからなかなか決断ができず、うまく事が運ばなかったことも踏まえ「人の人生や、そういう場所に足を踏み入れるということはそれくらいの重みがある。だから簡単に“映像で平和をやるぜ”とは言えない」と最前線で問題と向き合っているからこその本音を吐露。しかし現地には行けないが「自分ができる形での支援を、映像を使って行っていきたい」と語った。

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来年は長崎へ

 コロナ禍により2年続けてオンライン開催となったことについて、関根健次さんは「これまで物理的に日本に招待できなかった海外のファイナリストが参加できたことが大きな変化」と語る一方で、デメリットについて「そもそも本映像祭はつながることを大きな目的の一つとしており、直接会えないということは残念です」とも。

 そこで、おそらくリアル開催が実現できるであろう2022年は、長崎での開催を計画しているという。

 「できる限り世界中からファイナリストを招待し、長崎から平和の発信を行いたいと準備を始めています」(関根さん)

●UFPFF2021受賞作

●UFPFF過去の受賞作

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