『ハードロマンチッカー』松田翔太&永山絢斗 単独インタビュー
神経に伝わるような痛みをリアルに感じた
取材・文:斉藤由紀子 写真:奥山智明
山口県下関を舞台に、暴力に身を投じることしかできない若者たちの日常を描いた映画『ハードロマンチッカー』。『THE 焼肉 MOVIE プルコギ』の鬼才グ・スーヨン監督が、自身の半自伝的な小説を映画化した本作で、誰ともつるまない高校中退のフリーター、グー役に挑んだのは、松田翔太。そして、突発的に人をあやめてしまうグーの後輩・辰を、注目の若手俳優・永山絢斗が熱演。喧騒(けんそう)の渦に巻き込まれていく男たちの心の痛みを体現した二人が、テンションMAXで臨んだという撮影のエピソードを明かした。
下関の町に存在した男たちの物語
Q:お二人は、どんな思いでこの衝撃作に出演されたのでしょう?
松田翔太(以下、松田):この作品には文学的な世界観があるわけではないし、グーも伝えたいメッセージがある男ではない。暴力だって「彼が手を出したくなる環境がそこにあった」というだけなんです。だから、何か意図をつけようと考えることもなく、単純に下関という町にグーが存在している姿が撮れたらいいと思いました。撮影の仕方もドキュメンタリーのような感じだったので、僕は髪とまゆ毛を金色に染めて、グーの衣装を着て、そのまま現場にいた感じです。
永山絢斗(以下、永山):僕は台本を読んだときに、どこの環境にもある人と人との距離というものを、すごく身近に感じたんです。辰という男も、ただ必死に生活していただけで、人を殺そうという明確な意識があったわけではない。そういったことをグ監督と事前に話し合っていたので、特に悩むことはなかったです。
Q:グーと辰の刹那(せつな)的ともいえる生きさまに、共鳴する部分はありましたか?
松田:グーは落ち着くところがないから、いつも居場所を探している。常にニュートラルで、そこはすごく共感できましたね。僕も生きている中で、“流れに乗っかる”という感覚があるので。
永山:この映画に登場する男たちは、みんなトゲトゲしいんだけど、その中で、辰とマサル(柄本時生)だけは……。
松田:アホ(笑)。
永山:そう、出てくるとなんか笑っちゃう。見せかけだけのワルというか、痛くないトゲを持っている男なんです。とても狭い世界で生きていて、自分がやったことも覚えていないくらいのアホなんだけど、その場所で生きていくために、頭よりも先に体が勝手に動いてしまう。それってすごいことですよね。でも、僕には彼の気持ちがよくわかるような気がしました。
男同士の熱い現場でテンション上げまくり!
Q:ケンカシーンの迫力はすさまじかったです。撮影もハードだったのではないですか?
松田:グ監督からなかなかカットの声が掛からなかったので、殴られているシーンはずっと殴られっぱなし。でも、放っておいてくれたから、撮影中に自分の時間が流れるんです。撮られているという意識がなくなって、アクションの痛さではなく、神経に伝わるような痛みをリアルに感じました。映画でも、その痛みを伝えたかった。あらがえない世界の中で不良たちがメッセージを叫ぶのではなくて、その場で感じた痛みとか、人をあやめてしまったむなしさとか、そういったものが真剣に伝われば、それだけでいい。セリフも少ないけど、このくらい不親切な映画があってもいいんじゃないかな。
永山:僕はこういった作品には出たことがなかったし、殺陣も初めてだったので、アクションはすごく楽しみでした。「男なら殺陣がやりたい!」という気持ちがあるんですよ。
松田:そう、ワクワクするよね! 現場に入る前から、男としてのテンションが上がりました。男同士って、女性がいるときとは別のテンションがあるんです。そのテンションを上げまくって撮影に臨みました。現場では照明さんが怒鳴り散らしているんだけど、それすらも“雄たけび”に聞こえてくる。
永山:スタッフさんも職人気質というか、男気のある方ばかりでしたよね。
Q:グ監督も、男気にあふれた方なんでしょうね。
松田:そうですね。現場ではナアナアな雰囲気は全然ない。ただ、キャストもスタッフもライブ感覚で盛り上がっているのに、監督だけはなぜかのってこないんです。
永山:そう、どこか力が抜けているというか、常に自然体でしたね。辰が「やべえっ」と言うシーンがあって、最初は深刻な感じで言ってみたら、「もっとポップにやってみて」と監督に言われて、「やべ!」みたいな軽い感じに変えたんですけど、それがなんとも面白くて。
松田:監督は、熱くなっている役者の気持ちをわざと抜くんだよね。そこがいいんです。
松田翔太は、海で遭遇したサメのようだった!?
Q:映画では先輩と後輩の関係でしたが、実際のお二人はどんな感じなんでしょう?
松田:絢斗は僕に対して先輩という感覚はないんじゃないかな。でも、僕に対する敬意は持っていてくれる。僕も年下だからどうということはなくて、絢斗だからというスタンスです。
永山:翔太さんとは、僕がこの世界に入る前から仲良くさせてもらっているんですけど、今回の現場では、今まで見たことのない顔を見せてもらいました。リハーサルを繰り返しているうちに、翔太さんの緊張感やモチベーションがどんどん高まっているのがわかるんです。目線を合わせてはいけないどころではなくて、「視界に入れちゃいけない!」と思ってしまったくらい。
松田:海で遭遇したサメみたいな感じ?
永山:そうですね(笑)。殺気のようなオーラが激しかったです。
Q:そういうときの松田さんは、オンとオフの切り替えを意識しているんですか?
松田:僕にはオフのスイッチがないですね。急にオンのスイッチが入って、だんだん消えていって、また急に入るような感じ。オフになったことが自分ではわからない。
永山:そう、本番が終わってもオンのままなので、普通にしゃべってはいるけど、ちょっと怖い感じが常に漂っていました。
松田:僕が発している緊張感を、絢斗がどう受けるのかが現場でのセッションなんです。そのまま突っ込んでくるのか、開放するのか。僕は相手が誰であろうと、混じり合わせようとはしない。自分の空気感を保ったまま現場に入って、起こったことに対して反応しているだけなので、自分がどう動いたのか覚えていないこともあるんです。ただ、絢斗の表情がすごくリアルで良かったことは覚えています。
永山:翔太さんには、主役としての説得力があるんです。現場でも、「この人について行こう!」という気持ちになる。そんな翔太さんから、いろいろと学ばせてもらいました。
どこかカッコ悪いのが“ロマンチッカー”
Q:ロマンチッカーという造語がユニークで、この映画らしいなと思いました。
松田:ロマンチッカーって、カッコつけているようでいて、カッコつかないヤツだよね。「ロッカー」みたいな響きがするけど、要するにロマンチスト。星空を見上げて感動しちゃう、みたいな(笑)。僕だってロマンチッカーですよ。人恋しくなるし、寂しがりやだし、優しさに飢えているし。
永山:この映画に出てくる男たちは、みんなどこかカッコ悪いんです。いつも悶々(もんもん)としていて煮えきらなくて。でも、それがすごく人間くさくていいんです。
松田:そうだね。そして最後に付け加えたい。この映画にはグーを含め、在日韓国人が登場するけど、韓国と日本の歴史がどうだとか、そういったことは一切関係ない。先入観を持たずに観れば、より痛みを感じやすくなるので、覚悟しておいてください!
言葉の選び方が独特で、鋭い目の光にカリスマ性を感じさせる松田。その松田をリスペクトし、何かを学ぼうとする姿勢が印象的だった永山。彼らがセッションした場面は、短いながらも物語のキモとなるシークエンスだ。映画を観た人は、二人の化学反応によって爆発的なパワーが生まれたことを知るだろう。これまでのヤンキー映画とは一線を画す、リアルでディープな青春バイオレンス『ハードロマンチッカー』。情け容赦のない痛みと切なさの砲弾が、あなたの魂を一撃する。覚悟して観るべし!
松田翔太:スタイリスト・丸山晃、ヘアメイク・伊藤聡
永山絢斗:スタイリスト・丸山晃、ヘアメイク・千絵
映画『ハードロマンチッカー』は11月26日全国公開