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新星・奥平大兼が初めて泣いた瞬間 長澤まさみと共演で開眼

映画『MOTHER マザー』より。奥平大兼演じる17歳の周平
映画『MOTHER マザー』より。奥平大兼演じる17歳の周平 - (C) 2020「MOTHER」製作委員会

 長澤まさみ主演の映画『MOTHER マザー』(7月3日公開)で人生初のオーディションで選ばれ、俳優デビューを果たした16歳の新星・奥平大兼。長澤演じるシングルマザー・秋子の歪んだ愛で育てられた息子・周平役に抜てきされた彼は、演技初経験とは思えぬ表現力で本作に命を吹き込んだ。劇中、長澤から平手打ちを受けるシーンもあったが、いかにして撮影を乗り切り、俳優として生きていく覚悟を決めるに至ったのか。「初めはわからないことだらけだった」という波乱万丈の撮影を振り返った。

【動画】『MOTHER マザー』息子バージョン新予告

 本作は、『新聞記者』などを手掛けたスターサンズの河村光庸プロデューサーが、実際に起きた「祖父母殺害事件」に着想を得て、『タロウのバカ』『まほろ駅前』シリーズなどの大森立嗣監督とともにフィクションとして製作した作品。その場しのぎで生きてきたシングルマザーの秋子(長澤)が、実の息子・周平(奥平)に異常な執着を見せながら、内縁の夫でホスト・遼(阿部サダヲ)との逃避行、予期せぬ妊娠、路上暮らし、児童相談所による保護生活と明日をも知れぬ日々を過ごし、秋子と周平はやがて犯してはならない領域へと足を踏み入れていく。

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■初めは演技が楽しいと思えなかった

奥平大兼
メイキングより。大森監督(右)から演出を受ける奥平

 奥平は中学1年生の冬休み、渋谷でスカウトされて芸能界入り。最初は力試し程度の心持ちで演技のレッスンに励んでいた奥平だが、本作のオーディションに合格したことから、運命が一気に動き出す。「1か月半くらい、大森監督のワークショップに参加して、前半は演技の基礎中の基礎を勉強させていただきました。後半は映画のワンシーンを実際にやってみて、勉強の成果を試したのですが、これがまったくうまくいかなくて。決められたセリフをロボットみたいにただ読んでいるだけで、気持ちをうまく乗せられないんです。演じることを楽しいと全然思えなかった」と述懐する。

 ワークショップでは共演者に代役を立てての芝居だったが、本番では長澤が相手。奥平は大きな不安とプレッシャーを抱えたままクランクインを迎えることに。「演技がまったくできない上に、目の前には長澤さんがいる……。もうどうしようって感じですよね。でも、そんな気持ちを察してか、大森監督が、『シーンごとに自分が思ったこと、感じたことを、素直に表現してくれればそれでいいから』と言ってくださって。その言葉に助けられて、何とか気負わず撮影に入ることができました」と笑顔を見せる。

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■長澤まさみのビンタで初めて演技で泣けた

奥平大兼
劇中より。長澤まさみ演じる母・秋子(右)

 撮影を重ねるごとに「こんな自分でも通用するところがあるんだ」という成功体験も生まれ、徐々に演技の楽しさに目覚めていった奥平。そんなとき、あるシーンで長澤から強烈な洗礼を受ける。「逃亡生活の途中、長澤さん(演じる秋子)と僕(周平)が言い合いになるシーンがあるのですが、そこで思いっきり引っぱたかれたんです。確かに台本にも書かれてはいたんですが、叩くフリだけして、あとで音入れするのかなと思っていたのでびっくりしました」と苦笑い。

 長澤も、のちのインタビューで自身も無我夢中だったことを明かしているが、奥平は「確かに一瞬混乱はしましたが、長澤さんが(母として)言っていることがすごく心にしみてきて……それまで演技で泣くことができなかったのに、自然と涙がこみ上げてきたんです。まさに、自分の気持ちが芝居に乗った瞬間でした」と忘れられない衝撃を振り返る。

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奥平大兼
劇中より。木野花演じる祖母・雅子(左)

 撮影はほぼ順撮りで行われ、母親に翻弄されながら大きな事件を引き起こす最難関シーンも乗り越えた奥平。「あのシーンは壮絶でしたね。カット割りがいくつもあって、そのたびに最初から最後まで通しで演じなければならなかったので、体力的にも精神的にも限界でした。最後までやり遂げることができて本当によかった」と語るその目には、「すべてを出し切った」という充実感がみなぎっている。

 デビュー作でハードルの高い作品に挑んだことに対して、「今となっては、いいスタートが切れたと思っています。最初は正直、演じることが苦痛でしたが、この作品と出会ったことで、俳優としてやっていきたいという思いが強くなり、いろんな役をやってみたいという欲も生まれました」と言葉を弾ませる奥平。長澤、そして阿部という大先輩から、「相手を動かす演技のすごさ」を間近で学んだという16歳。あの本気のビンタが、若い才能に火をつけた。(取材・文:坂田正樹)

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