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荒木哲郎監督「進撃の巨人」からの進化 爽快アクションの秘訣とは?

荒木哲郎監督の最新作!『バブル』
荒木哲郎監督の最新作!『バブル』 - (C) 2022「バブル」製作委員会

 アニメ「進撃の巨人」のアクション映像で世界中を驚かせた荒木哲郎監督。「魔法少女まどか☆マギカ」の虚淵玄、大ヒット漫画「DEATH NOTE」の小畑健とタッグを組んだ長編アニメ映画『バブル』では、これまで培った技術とアイデア、そして情熱を注ぎ込み、美しいラブストーリーとスリリングなアクションが融合したフレッシュな1作を完成させた。「新しいアニメ表現を生み出すことができた。まだ僕にはいろいろなことができるのかなと感じることができて、すごくうれしかったです」と完成作に胸を張る荒木監督が、俳優が声優を担うことの良さや、「進撃の巨人」からの進化を語った。

【動画】最高峰のクリエイターが集結!『バブル』本予告映像

荒木監督の新たな挑戦「明るくてカラフルな画面を作りたい」

バブル
荒木哲郎監督

 世界に降り注いだ泡(バブル)によって重力が壊れ、ライフラインが断たれた東京を舞台に、未知の生態と遭遇した少年ヒビキと、言葉を知らない謎の少女ウタの運命の恋を描く本作。「進撃の巨人」や「甲鉄城のカバネリ」で知られる荒木監督が「あらゆるチャレンジを込めた作品」と語る力作だ。

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 企画の成り立ちについて、荒木監督は「これまで赤黒いイメージの作品をやることが多かったんですが」と破顔しながら、「より幅広い層の方に届けられる作品に挑みたいと思っていました。そこで青春ラブストーリーを作ろうと思い立ち、“近未来の廃墟に佇む人魚姫”という企画を出しました」と回想。さらに「虚淵さんが『人魚姫が泡の知的生命体だったら……という話にしてはどうだろう』とアイデアを出し、少年と泡の知的生命体のラブストーリーという形で、現代版の人魚姫を作るという骨組みを考えてくださいました。こういったシンプルながら強固な構造を作れる人は、この世に何人もいないと思いますね。引っ張りだこになるのも納得ですし、虚淵さんはやっぱり天才なんだと思います」と脚本を担当した虚淵の力量に舌を巻く。

 制作は「進撃の巨人」の WIT STUDIO が担った。「WIT STUDIO のアニメーターさんたちの技が生きるのは、やっぱりアクション。アクションが売りになる作品にしたいという思いはあった」という荒木監督だが、「その上で今回は “明るくてカラフルな画面を作りたい”と考えていました。そこで東みずたまりさんというアーティストさんに、全編のカラースクリプトをいただき、背景とキャラクターを合わせたトータルの色のコーディネートをしてもらいました。その工程をたどるのは初めての試みです」とコメント。

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 その言葉通り、空や海、木々や花々など、色鮮やかに描かれた世界が目の前に広がる。荒木監督によると、これまでの作品の中でも使った色数はナンバーワンだそうで「夕方の場面ならば赤と黒のグラデーションだけで作ることもできますが、そこに青を入れてみたり、紫を入れてみたり。いかにひとつの画面に多くの色を入れられるのか、どうしたら美しい映像を作れるのかと考えながら作業を進めていきました」と語る。

志尊淳のアフレコ秘話、俳優だからこそ表現できた生っぽさとは?

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志尊淳が声を吹き込んだ主人公のヒビキ - (C) 2022「バブル」製作委員会

 主人公のヒビキ役には、俳優の志尊淳が抜てきされた。他人とのコミュニケーションが苦手だったヒビキが、ウタと出会うことで変化していくさまを見事に表現している。「最初は、プロの職業声優さんじゃなくて大丈夫だろうか、という心配はあった」と素直な胸の内を明かした荒木監督。「実際に演じていただいたら、ものすごく良かった」と熱弁する。

 荒木監督は「普段から身体を使ってお芝居をされているだけあって、真実味のある、立体的な表現ができる。声にすべての情報量を乗せすぎず、十分な情感がありつつも、リアルな抜け感があるという感じでしょうか。僕は生っぽい、リアルなお芝居が好きなので、志尊さんが実写で使っている引き出しを使わせていただくことができて、ものすごく助かりました」と大絶賛。

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 「今回は、志尊さんにお芝居をしてもらってから絵を作ることも多かったですね。クライマックスでヒビキが泣き崩れるシーンも、マイクを下の方に置いて、実際に志尊さんに泣き崩れてもらいました。息遣い含め、その芝居がめちゃくちゃ良かったんです。それらを反映していく形で、芝居ありきで絵を作ったりしました。これは実は、『進撃の巨人』の現場で(主人公エレン役の)梶裕貴さんにも似た事をやってもらっていて。生身でのお芝居ができる方だからこそ、やれる手法です。“ここぞ”というシーンにおいて、生っぽさや迫力を表現する上でとても効果があると思っています」とアフレコ秘話を披露した。

爽快なアクションを作る秘訣は?

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超爽快!『バブル』のアクションシーン - (C) 2022「バブル」製作委員会

 なんといっても見応えがあるのが、WIT STUDIO が得意とする爽快なアクションシーン。劇中には、建物や障害物を乗り越えながら移動するスポーツ“パルクール”が登場する。重力が壊れた世界を舞台に、ヒビキたちはビルからビルへと飛び移り、縦横無尽に東京を駆け巡るのだ。急降下、急上昇、横移動するキャラクターたちを捉えた、迫力あるカメラワークは圧巻。「進撃の巨人」では立体機動装置でのスピーディーなアクションで見る者を感動させたが、荒木監督は今作について「今までやってきたことの延長線上にありながら、その発展形にあるアクションを作ることができた」と胸を張る。

 「例えば立体機動の場合、キャラクターはカメラの前を飛び回ってはいますが、あまり建物の上を走っているわけではないんです。本作のパルクールの場合、どれくらいジャンプすればその煙突をよじ登ることができるのか、ビルとビルの間の距離はどれくらいで、果たしてそれは1回のジャンプで飛べる距離なのかなど、しっかりと考えなければ説得力あるアクションができない。キャラクターと建物との距離感をより的確に組み合わせていく必要がありました。2Dのキャラクターと3DCGを正確に組み合わせることは、大変でもあり、これまでの表現をまた一つ高めることができたかなと思っています」。

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 高揚感あふれるアクションシーンを作る秘訣はあるのだろうか。荒木監督は「自分が一番こだわっているのが、非常に基本的でシンプルなことですけど、アクションと音楽をしっかり合わせること。音楽における快楽の頂点と、作画の動きの気持ち良さの頂点を合わせていく。先に劇伴ができて、それをかけながら絵コンテを描くこともよくあります。『このアクションは爽快だ』と感じていただけたとしたら、アニメーターさんが気持ちの良い動きを作ってくれて、そこに対して音楽を気持ち良く合わせることができたということ。自分は“能力がある人”というのは、快楽を生み出せる人なんだと思っています」と常に受け手の快楽を意識しているという。

 荒木監督は「切なく美しい物語を描きたいというスタート地点から、今までにない発明をすることができたのではないかと思っています。とりわけエポックなものとしてあげたいのは、ラブの場面を描きつつ、それがアクションシーンになっているということ。少年少女の心が通じ合っている場面なのに、ビルが倒れてきたり、地面が割れたりする。風変わりで、面白いものができたなと思っています」と充実感もたっぷり。チャレンジングな姿勢が清々しいが、「影響を受けているクリエイターは富野由悠季さん」だという。「今の仕事にどういう影響があるのかわかりませんが、僕のアニメの快楽の記憶の源泉を辿ると、『伝説巨神イデオン』に行き着きます」と笑顔を見せていた。(取材・文・撮影:成田おり枝)

『バブル』劇場版は5月13日より全国公開、Netflix版は配信中

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