ADVERTISEMENT

黒澤明監督の名作『生きる』を今リメイクした意味とは

主演は英国の名優ビル・ナイ - 映画『生きる LIVING』より
主演は英国の名優ビル・ナイ - 映画『生きる LIVING』より - (c) Number 9 Films Living Limited

 映画『生きる LIVING』で脚本を担当したノーベル賞作家のカズオ・イシグロとプロデューサーのスティーヴン・ウーリーがインタビューに応じ、黒澤明監督の名作『生きる』から受け取ったメッセージや、今リメイクすべきだと思った理由を明かした。

【動画】『生きる LIVING』予告編

 『生きる』は、仕事への情熱はいつの間にか消え失せ、代り映えのしない毎日を死人のように過ごすだけになっていた男が、死期を宣告されたことで自らの在り方を見つめ直し、本当の意味で生き始める姿を描いた1952年の日本映画。若き日に『生きる』と出会って大きな影響を受けたというイシグロは、今ならその理由がよくわかると語る。

ADVERTISEMENT

 「理想に燃える若者たちが知りたがっているのは、『どうすれば人生を意味のあるものにできるのか』ということです。彼らはただ生き残り、存在したいのではなく、世界をよりよい場所にするために貢献したがっています。『生きる』は表面的には、年寄りが病気で死にかけている話ですが、こうした若者たちの問いに答えるものにもなっています。仕事を始めるにあたり、どうやってそれを意味あるものにし続けられるのか。だからこそ、若き日のわたしにとっても、とても意味のある作品だったのです。本作も、若者たちにそのように語り掛けるものになっていればと思います」(イシグロ)

 イシグロが『生きる』を観て得たメッセージは、「自分がやったことに対して、世界が賞賛することを期待してはいけない」というものだった。「あることに対して心血を注いでも、その手柄を得ることができない可能性は十分にあります。誰かに手柄を取られたり、そもそも周囲から理解されなかったり、感謝されてもすぐに忘れられてしまったり。だからこそ重要なのは、努力をして何かを達成しようとする時、“他者からの賞賛をモチベーションにしなかった”ということなのです。なぜなら賞賛を目的にしたら、常に失望させられることになります。あなたはそれを、自分の満足のためになさなければならないのです。これは黒澤映画に何度も現れるメッセージであり、わたしがこの映画から得た重要な学びの一つでした」(イシグロ)

ADVERTISEMENT
生きる LIVING
アレックス・シャープ演じる若きピーター

 オリジナル版に敬意を払った極めて忠実なリメイクのなかで、主人公のウィリアムズ氏(ビル・ナイ)に大きな影響を与える生命力に満ちた若きマーガレット(エイミー・ルー・ウッド)と、彼女の同僚ピーター(アレックス・シャープ)のラブストーリーは新しい要素といえる。「若い世代の感覚」を入れ込むためにそうしたというイシグロは、「ウィリアムズ氏が残したレガシーの恩恵を得る人たちこそ、若い世代の彼らであり、こうして現代へと続いていくのです。この映画において、“若い人々”というのがわたしにとって重要でした」と振り返った。

 一方のウーリーは、高齢化社会となった現代だからこそ、本作がリメイクされるべきだと思ったと明かす。「本作には、年を取っても変わることができるというメッセージもあります。英語には『You can't teach an old dog new tricks(老いた犬に新しい芸を教えることはできない)』という言い回しがあるように、年老いた人たちは自分のやり方を変えられない、という社会的通念があります。社会は、彼らをバカで、変わることができない人間だと思わせようとしています。しかしわたしたちは、彼らは不必要な人間などではなく、変わることもできる人々なのだと理解すべきなのです」(ウーリー)

ADVERTISEMENT

 「“わたしが良いと思っていたことは、実際は悪いことだった”というのは、イシグロの小説『日の名残り』でも重要な要素です。それを理解することは、胸が張り裂けるような経験かもしれませんが、可能なことです。わたしにとって『生きる』において重要な点は、そこでした。年を取った人が、物事を変えることができるということ。だからこそ『生きる』の物語は、現代の問題に直結していると思うのです。年齢差別は、人種差別や性差別と同様に悪です。もし彼らの意見を尊敬できなくても、もう一度考えてみてと説得することはできるでしょう」(ウーリー)

 ウーリーには20代の3人の子供たちがいるが、彼らもこの映画をとても気に入っているとのこと。「子供たちは残酷なほどに正直なのですが(笑)、この映画はすごく気に入っていました。若い世代にも伝わっているのだとうれしかったです」と喜んでいた。(編集部・市川遥)

映画『生きる LIVING』は公開中

<予告>『生きるLIVING』【3/31公開】 » 動画の詳細
  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア
ADVERTISEMENT