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壮絶! 映画作りに賭ける情熱「ロスト・バイ・デッド」インタビュー

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8/30シネマ下北沢にて公開

恋人を自殺に追い込んでしまったロックバンドのボーカリスト、アキラ(辻岡正人)。孤独で空虚な気持ちを埋めるようにドラッグに溺れ、自暴自棄になっていく……。

恋人の自殺をきっかけに、周囲から孤立し不安と苛立ちの中で破滅に向かって暴走していく青年の姿を描いた『ロスト・バイ・デッド』。本作でなんと監督・脚本・主演・撮影・編集・照明・美術・録音・効果・製作と常識を超えた1人9役を務めたのは、『バレット・バレエ』『自殺サークル』などで異彩を放つ若手俳優・辻岡正人。映画製作初挑戦となる彼をサポートし、自暴自棄になった主人公を気遣うバンド仲間の1人も演じた上田和孝は、監督の中学時代からの友人。2人ともホーム・ヘルパー2級の資格を持つという意外な面があったり、撮影中は3日に2食しか食事をしなかったり…、取材で2人の口から出てきたエピソードは驚きの連続だった。映画さえ作れれば他に何もいらない…そんなひたむきさが、ひしひしと伝わってきた。

 役者はノーギャラ。だけど、途中でメインキャストが金を払えと言い出して降板

―今回お2人が一緒に映画を作ることになったいきさつは?
上田和孝(以下U):2人とも大阪出身、中学時代からの同級生なんですよ。中学の時はさほど仲が良かったわけではないんですが、高校で急に仲良くなって。2人とも何か面白いことをやりたい気分があって、彼がそれなら芸能界がいいんじゃないかと言い出したんです。彼は高校を中退して俳優養成校に行き出し、僕はそのまま高校に3年間通いました。卒業後1年お金を貯めて18歳ぐらいかな、僕も上京して彼と会って話しているうちに、映画を撮りたい想いがある、一緒に映画を撮ろうかという誘いがきたというのが発端です。

―映画を撮りたいと思ったのは、『バレット・バレエ』に出たことがきっかけなんですか?
辻岡正人(以下T):直接的にはそれもあるんですが、元々小さい頃から空想癖があって物語なんかをよく書いてたんです。ずっとマンガとかゲームを見ながら育ってきた影響もありつつ、『バレット・バレエ』の現場で映画作りを間近に見たのが重なり合ったということでしょうね。


―あらゆる点で「初」づくしだと思いますが、本作で初めての映画作りを経験した感想、撮影中の印象に残ったエピソードはありますか?
T:撮ってみて思ったのは、撮る前は自分である程度の予想をたてていたのが、実際には想像していたのとは全く違うアクシデントが沢山ありました。まず、スタッフが全然集まらない。映画に出たいというキャストは多いのに、裏方に回って作品を支えていこうという人はたった4人しかいませんでした(笑)。


まず1人目は彼で、もう1人が降幡君。上京した当時俳優養成校に通っていて、そこで出会った俳優志望の降幡君をスタッフに巻き込みました。小浜さんは、スタッフ&キャスト募集の際スタッフとして唯一来てくれた女性。彼女も僕達も皆、映画作りの流れすら分からないし、アドバイスしてくれる人もいませんでした(笑)。

U:ただ映画が好きな人たちが集まっただけ。何かしたいという想いが映画という方向に向かっていて、それで最後までやれたんだと思います。

T:ノーギャラだったので、途中でメインキャストの1人があと1シーンでその場面が終る時にギャラを払えと言って降板し、もう1度キャストを探して全部のシーンを撮り直したこともあります。

 

 アルバイトは身障者と老人介護のヘルパー

―「ヴォーグ HOMME」のモデルやホームヘルパー2級の資格など変わった経歴ですが、そのいきさつは? 
T:「ヴォーグ HOMME」の場合は、東京のギャングという設定で、モデルのりょうさんと『バレット・バレエ』の若者軍団を塚本晋也監督が撮影して、10ページぐらいの写真を物語的に構成したものなんですが、それに出ないかと『バレット・バレエ』の製作会社の怪獣シアターの方から電話を頂いたのがきっかけでした。
身障者のホームヘルパーは、アルバイトで6月初めまで続けていました。実は上田君も同じくホームヘルパー2級を持っているんですよ。

U:僕は老人介護を。彼がそういうことをやっているということを聞いて、それもやりがいがあると思って始めました。今はこの映画のために休ませてもらっていますが、宣伝活動が明けたら復帰も考えています。基本的にはアルバイトとしてですが。

―お2人の本来のスタンスは?
T:映画を作っていきたい、映画製作です。


U:これをやるまではずっと俳優志望で、事務所を回ったりオーディションに応募したりしていたんですが、一通りやって少し心境が変わっているところです。俳優として出るだけというよりも、1つの作品に表も裏も関りたいという方向ですね。

―これまでの出演作を見ていると、一般受けするというよりはカルトっぽい作品が多いように思いますが、作品選びのこだわりなどはあるのでしょうか?
T:こだわりはないんですが、相手が求めてくるものに対しては、なんでもやらせていただきたいという姿勢でいます。ただ求められるものが、ああいうカルト風なものになっていて……(笑)。


―もし、自分がアキラのような立場に陥ったとしたら、結構周りは見えなくなるタイプですか?
T:映画製作中は、まっすぐ入りこんでいる状態でした。宣伝で沢山の人たちと接する機会が増え色んな価値観に触れて、もっと自分の器を大きくしないとダメだなと気づき始めているところで。今ならアキラのような状態には陥らないと思います。


 製作費は40万円、交通費、弁当代は各自、自腹

―皆1人何役もこなしていますが、プロデューサーとして苦労したところは?
U:極端に言ってしまえば全部ですね(笑)。何をやるにしても初めてだし、右も左も分からない中でやっていくわけなんで。お金は、監督がひたすらバイトで貯めてくれました。製作費自体は40万円ぐらいで、弁当、交通費といった経費はそれぞれ自前。最終ロケは三重県だったんですが、なぜ三重かというと、東京都内では貸してくれる廃墟がないんですよ。色々探していたところ「廃墟遊戯」という写真集を見つけ、監督のイメージ的にもここがいいとなったのがたまたま三重だったわけです。


お金をかけないということで、8人乗りのオンボロバン兼ロケバスで高速にも乗らず、下道を12時間ぐらいかけて三重県まで行きました。先にスタッフ班全員が行って機材とか向こうに下ろし、ドライバーが戻って今度はキャストを乗せてきて。キャストにも廃墟に行くので危ない可能性もあるかもしれないということで、ケガとかしても一切責任は負いませんという誓約書も(笑)。自前で保険をかけてきたキャストも1人いました。12月で山の中で寒いし何もなくて、隙間風は吹くし、廃墟ですから屋根もない。夜のシーンを撮る場所なんで、6階建てくらいの高さまでシートをかぶせに行って、それから照明とかのセッティングでキャストが着いた頃には全員やつれていました(笑)。


食事は自炊のカレーなんですけど、4人とも全員スタッフなので料理番がいないんです。朝から晩までトータル3日間撮りっぱなしでカレーを作るタイミングがない。キャストは順番待ちで皆おなか空かせてるんですけど、僕も彼も出演者。耐え切れなくなったキャストが作ってくれたのを食べて、結局3日で2食かな? 1食は、キャストの1人が車でコンビニまで山の中を片道30分ほどかけて買いに行きました。

最終日の4日目は雪も降りだし、寒くて焚き火をしてたら今度は火がなくなってきて、皆凍え死にそうになっていました。結果的には死に追いやられるようなシーンなんで緊迫した空気は出てるんですけど、さすがにあれは大変でしたね。


撮影が無事に終って帰ろうかとなると、今度は荷物と人間がいっぺんには乗りきれない。そのころキャストが7人、計11人いたんで、もう8人乗りの車で容量オーバー。荷物はとりあえず置いて人間だけ乗ったら、名古屋あたりでドライバーにだれか降りてくれと言われまして。ふと周りを見ると皆が僕と辻岡君を見てるんですよ(笑)。僕ら2人が名古屋で降ろされたんですけど、血まみれ特殊メイクの汚い格好のまま名古屋を徘徊し、女子高生から汚いとか臭いとかバカにされて(笑)。お金もないし……。

 ロケバスに乗りきれなくて迎えに来てもらうまで、2日間飲まず、食わずで野宿

T:僕達は、ドライバーがキャストを東京まで連れ帰って、また機材と僕達を迎えに名古屋まで来てくれるのを2日ぐらい待ってたんですよ。2日名古屋で足止め、野宿(笑)金もないので飲まず、食わず。


―……(笑)。今回のメンバー以外に映画界で、互いに切磋琢磨しあえる仲間はいますか?

T:まだいないですね、これからです。


U:僕はやっぱり辻岡かな、他は全くいないですね。彼から与えてくれるものもいっぱいあるし、彼に与えることは分からないけども、影響しあえる仲間。映画だけに限らず、人間としてこれからも変わらないと思います。

―お2人にとって、この作品はどんな存在になりましたか?
T:僕の青春そのものなんですよ。18~21歳とずっとこの作品に携わっていたので、『ロスト・バイ・デッド』と聞けば青春のあの頃かな(笑)。


U:18、19歳の頃にやりたかったことを、形にすることができたということかな。もっと突きつめて言うならば、初め出会った時に「面白いことをやろう」といったことの延長上ですね。

 考えているだけじゃなくて、まずやってみること

―『ロスト・バイ・デッド』をジャンルでくくると、ご自身の中では青春映画なんですか?
T:宣伝をしていく上でジャンルを考えた時、暴力シーンがあるからバイオレンス、青春映画の要素もあるかと思ったりもしましたが、僕としては恋愛映画だと思っています。男同士の恋愛であったり、男と女の恋愛であったり。

―次回作の構想とかありますか?
T:まだ、具体的ではないですが、男気溢れる熱い青春映画で影響力のある作品になると思います。今後も映画監督を主体に色々活動していきたい。監督だけやってても視野が広がらないと思うので、プロモーションビデオとかドラマとかも経験して、映画監督としての容量を増やしたいですね。彼を巻き込んで(笑)。


―普段、インターネットは使いますか?

T:映画サイトとかも見ますし、掲示板に書き込んだりとか。調べものでは、雑誌よりインターネットの方が多いですね。スタッフ・キャスト募集にも使いました。


U:僕はパソコンを使い始めたのが去年の年末からなんですよ。彼のお古をもらって使い始めたので、まだ雑誌を見る方が多いですね。でも、インターネットをやりだしたら止まらないし、どんどん追求していきたくなりますね。


―まだ無名で人脈もないけども、映画製作を目指している人たちへのメッセージを。
T:やってみようよ、の一言です。僕の周りにも映画製作を目指している人が沢山いるんですが、企画とか考えるのはうまいのにスタッフが少なくてできない、キャストが集まらないと言って止まっている人がすごく多い。でも、スタッフが少なければ少ないなりにできるし、やってみるのが一番、というのが伝えたいですね。


U:僕が思うのは、周りの人に感謝の気持ちを忘れずに、ということです。

三重県での最終ロケにまつわる壮絶な体験を、「体力的にしんどくはあっても、やりたいことをやっていたので後で思い返せば楽しい経験」と言い切る辻岡さんと上田さん。「何か面白いことをやりたい」というまっすぐな想いで1本の映画を完成させたお2人の熱意、タフネスに脱帽した。演じてきた役柄のせいか、真顔で黙っていると怖そう(?)な強い視線の持主の辻岡さんだが、質問には丁寧な答えを返し、時折大阪弁が飛び出す場面も。そんな彼の良き相棒・上田さんは、理路整然とした話し方が印象的な爽やかな好青年。本作でプロデューサーや進行など煩雑な仕事をひきうけ、今後の活動に彼を巻き込んでいきたいという辻岡さんの言葉も納得の頼もしい存在だ。さらに視野を広げ、映画製作に関っていきたいというお2人の活躍に注目したい。
(文・インタビュー/八井田玲世)

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