『ブラックジャックによろしく』などでも知られる佐藤秀峰の同名人気コミックを映画化した海洋エンタテインメント大作『海猿 ウミザル』。危険極まりない海の世界を舞台に、人命救助のエキスパート、潜水士を目指す若者たちの愛と友情の物語が展開する本作で、主人公の海上保安官・仙崎大輔を好演している伊藤英明に話を聞いた。プライベートでもサーフィンやダイビングを楽しみ、マスターダイバーのライセンスを持っているという彼が語る撮影の裏側とは?
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Q:出演を依頼された時、原作コミックについてはご存知でしたか?
A:実は、たまたま読み終えたばかりの時にお話をいただいたんです。「このコミックが映画やTVドラマになったら面白いだろうな」と思っていたのですごくうれしかったですし、脚本を読んだ時も「絶対に面白い映画になるだろうな」と作品パワーを感じました。
Q:撮影前に合宿があったそうですね。
A:広島県の呉市で2か月間ほど合宿生活を送りました。リハーサルはもちろん、海上保安官の方々が実際におこなっている訓練を体験したりもしましたね。現場では、キャスト同士は役名で呼び合っていました。役柄同様、海東くん(海東健:訓練生のリーダー・三島優二役)がリーダーシップを取って皆をまとめていましたし、使用する道具なども自分たちで管理していて、役を離れる必要がない環境だったんです。だから、俳優というよりも、人間として経験したことをスクリーンの中で体現したと言った方が正しいかもしれません。
Q:映画にも訓練シーンがたくさん出てきますが、やはり訓練は大変でしたか?
A:すごく楽しかったんですけれど、大変ではありました。訓練シーンに関しては、“演技”というよりは"本気"です(笑)。極限の表情が出るまで「カット」の声がかからないこともありました。でも、訓練シーンよりも大変だったのは“いけす”のシーンです。
Q:居酒屋さんの"いけす"に入って、海東さん演じる三島と息の長さを競い合うシーンのことですか?
A:そうです。その“いけす”。あまり大変そうなシーンに見えないのが不本意なんですが(笑)。13℃くらいの冷たい水だったのですが、魚が死んでしまうから水を温めることはできないし。ものすごいことをしたんですが、いまいち“やった感”がなくて(笑)。朝から夜中まで時間をかけて、死ぬくらいの気持ちでやったシーンなんですけれどね。
Q:訓練で最もキツかったメニューはどれですか?
A:全部キツかったんですけれど、体を動かしたりするのは好きなので。ただ、訓練って、キツくないと訓練じゃないんです。実際の海上保安官の方は自分の極限を常に知っておかないといけないし、それを知るための訓練でもあるわけですから。訓練を通して、自分自身の体力的な限界と向き合うことはできたような気がします。
Q:20Kgのおもりを水中で持ち上げるシーンなど、すごく大変そうに見えましたが。
A:キツかったですねぇ。ただ持ち上げるだけじゃなく、勢いをつけないと絶対に持ち上がらないので。それでも、全員こなせるようにはなっていきましたよ。やらなければいけない状況でもありましたし。
Q:合宿では、海上保安官の方々との交流はあったのですか?
A:もちろん。実際の海上保安大学校で行っていましたし、訓練中は教官が僕たちについてくれていましたから。常に危険と隣り合わせの状況にいる海上保安官の方々を本当に尊敬しましたし、彼らと出会えたことも、今回の撮影を通して得た財産ですね。
Q:同世代の俳優さんが大勢集まった現場でもありますね。
A:そういう意味でも楽しかったです。皆で花火をしたり、ごはんを食べたり。スケジュール的に余裕のある状況ではなかったんですけれど、小さな楽しみはありました。
Q:合宿で念入りに準備をしたわけですから、撮影自体はスムーズだったのでは?
A:僕らキャストの立場としてはスムーズな状況でした。けれど、ロケだったので天候との戦いがありましたね。
Q:では、俳優の立場として撮影そのものが大変だったことは……。
A:(間髪入れずに)だから"いけす"……。
Q:やはり“いけす”が一番ですか(笑)。
A:大変なこともあったような気がしますけれど、今となっては全く思い当たりません。環境には十分すぎるくらい恵まれていました。「演技ではなく、ドキュメントなのでは?」という部分もありましたから、「俳優として、それでいいのか?」とは思いましたけれど(笑)。それでも、それが観てくださる方の心に訴えるものになるのならば、それはそれですごくうれしいことですしね。
Q:現場をチームとして強く捉えていらっしゃるようですね。
A:参加できたこと自体がすごくうれしいんです。もちろん、映画が出来上がったことも、観ていただけることも。現場では全員がムードメーカーでしたし、“海猿”でした(笑)。キャスト勢は本当に役のままです。
Q:藤竜也さん(海上保安大学校主任教官・源太郎役)との共演はいかがでしたか?
A:藤さんはすごい方です! 僕にとっては“教官”ですね。現場に入る前から訓練生役のキャスト全員の役名を覚えて、終始教官になりきっていらっしゃいました。藤さんは僕たちのことをずっと役名で呼んでいました。
Q:では最後に、出来上がりをご覧になった感想を、これからご覧になる方へのアピールの意味も込めて教えてください。
A:まだ客観的には観られないんですけれどね。「このシーンではこんなことがあったな」とか、「あのシーンではあんな気持ちだったな」とかを考えてしまって。……そうですね、単純な表現になってしまいますけれど、笑って泣ける青春映画です。「大人になりたくないな。ずっと青春していられればいいなぁ」と、そんな気持ちが味わえる作品ではないでしょうか。「部活して、腹減って……そんな感覚がいつまでも続けばいいのにな」と。あくまでも僕の個人的な感想ですからね(笑)。
(取材・文:渡邉ひかる)
『海猿』は2004年6月12日より東宝邦画系にて公開
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↑厳しい訓練について語る伊藤さん。訓練シーンはすべて伊藤さんの“本気”です。
↑映画をまだ客観的には見られないと話す伊藤さん。それだけ没頭した、“全力投球”作なのです。
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