マイケル・ムーア監督のブッシュ批判映画「華氏911」が全米で公開されるや否や、テレビ、ラジオ、雑誌がこぞってこの映画の賛否について取り上げはじめました。ちょっとしたパーティーに出かければ、「あれ、どうだった?」と、作品の話題で持ちきり。11月に大統領戦を控えていることも、タイムリー。
その結果、なんと、ドキュメンタリーだというのに、全米の興行成績が公開された週のナンバーワンになってしまったのだからこれはすごい。「スパイダーマン」や「ハリー・ポッター」のような娯楽映画がナンバーワンになるのとはわけが違う。これはひとつの社会現象です。
アメリカでの批評家たちの感想は賛否両論。「アンフェアーなドキュメンタリー。意見が偏っている」とする人たちと「よく出来た映像作品」のおおむね、この2つにわかれます。
確かにドキュメンタリーというよりも、作者の個人的意見が反映された「コラム」に近い。ただ、非常に出来の良いコラムだと私は思いました。
スパイスの効いた風刺漫画のごとく、笑わせてくれるし、時にはほろりとさせられます。そして、ココが一番肝心なところなのですが、このコラムの核となるところは、なかなか良いところをついているのです。
それは「愛国心」を核にしたところ。この作品のポイントは、「自分の息子を兵士にするくらい、愛国心の強いアメリカの母親でさえ、今回の戦争には反対だ」というもの。
アメリカの国民の半数以上が当時ブッシュの戦争開始を反対しなかったのは、テロから自分たちの国を守ろうという「愛国心」によるものだったのではないでしょうか。ブッシュもそれをスローガンにかかげました。でも、この作品はそのスローガンを逆手に取り、ブッシュに技を掛けたのです。
もちろん、アメリカの政治に詳しくないので、もしかしたら、私もこの作品に「洗脳」されてしまった一人なのかもしれません。
でも、AP通信によると、全米15都市で行われた出口調査で、作品を見た人の91%が「すばらしい」と評価しているそうです。もちろん、もともと「見たい」と思った人たちが見に来るので、ブッシュ派の人たちはあまり見に来ていないのだろうし、見たとしても「偏っている」という感想を持つのでしょう。
実際にサンタモニカの映画館で、何人かの人に感想を聞いてみました。すると、ほとんどが「良かった」と答えました。驚いたのは、とにかくみんな、見知らぬ私に、自分たちの意見をとっても話したがっていたこと。あるカップルは映画が終った後、2時間も私と話しこんだのですから。
少なくとも、これだけは言えそうです。この作品のおかげで、アメリカ人の多くは、今回の戦争について、「愛国心が無い人」と思われずに、安心して反対の意見を唱えることが出来るようになったのです。
ムーアがやったことは、今まで沈黙していた戦争「消極派」の人たちに、非常にわかりやすいスローガンを渡してあげたことなのかもしれません。
いずれにしても、自分の作品をきっかけに、アメリカじゅうの人たちが議論を始めたわけだから、ムーアは監督冥利につきるでしょう。
(7月11日L.A.にて、こはたあつこ) |