『ローズ・イン・タイドランド』テリー・ギリアム監督、太田光(爆笑問題)単独インタビュー
取材・文・写真:FLIXムービーサイト
一部のマニアの間で熱狂的支持を受けていたテリー・ギリアム。しかし、『ブラザーズ・グリム』で娯楽性の高いエンターテインメント作品も作り出すことができる監督なのだと世間に知らしめた。彼の最新作『ローズ・イン・タイドランド』は前作『ブラザーズ・グリム』から180度方向転換した“ギリアムテイスト120%”と言ってもいい衝撃作だ。ギリアム作品の熱烈なファンである爆笑問題の太田光が、テリー・ギリアムの魅力について、ギリアム監督と楽しい掛け合いを交えながら語った。
モンティ・パイソンの監督だから……
Q:太田さんが、ギリアム監督のファンになったきっかけは?
太田:僕が子どものころ、『モンティ・パイソン』が大好きだったんです。大学に入ってから『モンティ・パイソン』のビデオをもう一回見直したんですけど、これはやっぱり面白いって思ってね。それから、しばらくして『未来世紀ブラジル』と『バロン』を観て……。すげー映画だなって思ったら、「監督テリー・ギリアム」と。あー! あの『モンティ・パイソン』の監督か!……って。それが出会いですね。
Q:『ローズ・イン・タイドランド』をご覧になった印象を聞かせてください。
太田:最初はとっつきにくいと思う。やっぱり観ていて「なんだこりゃ?」っていうところがあるんですよね、テリー・ギリアムの映画っていうのは。でも、だからこそ引き込まれて、もう一回観たい! という気持ちになる。これ、もしかしてすごいんじゃないか? って思っちゃうんだよね。僕はこの映画を3回観たけど、何度観てもやっぱりすごかった。でも、そういう映画っていうのは絶対に売れないだろうし、お客さんも入らないだろうと思うんです。だから、なんとか皆さんに観てほしいですね。
Q:テリー監督は「観客の多さ、興行収入」を重視するハリウッド的な思考を持ったプロデューサーと対立することが多いと思います。今回の作品ではいかがでしたか?
テリー・ギリアム(以下T):今回の作品は、プロデューサーのジェレミー・トーマスがとても素晴らしいプロデューサーだったから、すべて自分の好きなようにやらせてくれたんだ。資金を集めたのが、主にイギリス・カナダ・フランスからで、アメリカからのお金はほとんどなかったしね(笑)。前作の『ブラザーズ・グリム』と違って、低予算の映画だったし、「たくさんの観客」「高額のリターンマネー」に対するプレッシャーはゼロに等しかったんだ。だからとても気楽にできたよ。
Q:『ブラザーズ・グリム』は莫大なバジェットで撮られた作品でしたが、今回のような低予算の作品を撮っているほうが楽しめましたか?
T:そうだね。「エンターテインメント」という要素について思い悩む必要がないというのは、僕にとって最高の環境だからね。観客が、気に入ろうが気に入るまいが、「おれには関係ねえ!」って感じさ(笑)。 なあんて、うそうそ。娯楽作品を作るのも楽しいんだけど、こっちのほうが(『ローズ・イン・タイドランド』のような低予算映画のこと)リスクを感じて、とてもデンジャラスだろう? 人々の反応も、娯楽作品を観たときよりも、もっと強烈に現れるし、作品自体も、とても深いものになっていると思うんだ。中でも、1番面白い……というか興味深かったことは、男性よりも女性のほうがこの作品に共感してくれているということだね。作品を観たとき、女性はすぐに“ジェライザ・ローズ”に入り込むことができるからだと思う。
太田:要するに、この映画を作って女を口説きたかったんだよね。このおっさんはっ!
T:ははは、確かに! それが、僕が映画を作る理由のほとんどを占めているね。
Q:本作には、かなり個性的なキャラクターがたくさん登場していますが、一番印象に残っている登場人物は?
太田:僕はやっぱり、あの少女が……すごかったですね。こんなものは、ほんとにめったに観ることはできないと思いましたね。きっといろいろな幸福な偶然が重なってできたキャラクターなんだと思いました。
狂気を持続することのすごさ
Q:お話しされていても、もちろん分かると思うんですが、テリー・ギリアム監督は、狂っているわけでもない。彼の正気の中から生まれる狂気……これは、どのように生み出されているのだと思いますか?
太田:さっき思ったのは、内にある狂気……それもこれだけ長い間、この人は狂気を持ち続けていて、その何がすごいかっていうのは、その狂気を長年保ち続けているということ。これは、なかなかできるものではないと僕は思いますね。青年でも若造でもないのに、こんな狂気を持ち続けている人はいませんよね。僕らは、昔はけっこうぶっ飛んだことをやっていたけど、最近はマトモになった……って思ったりするでしょう。でも、彼は自分の持っている狂気を疑っていないんですよね。“狂気”をとても大切にしている。それがすごいところだと思います。
Q:実際どうやって、“狂気”を保ち続けてるんでしょうか?
T:撮りたい映画の製作費を集められないイライラで保ち続けてるよ!(笑) 映画はわたしにとってカタルシス。だから、自分の深いところに持っている狂気を、映画を作ることで浄化させているという部分はあると思う。
Q:薬物中毒なんじゃないか!? と言われたりしませんか?
T:昔はよく言われたよ(笑)。でもおかしいことに、クスリに手をだしたことは一度もないんだ。ただでさえ、これだけ狂っているわたしにクスリなんて与えたら、きっと、とんでもないことになっちゃうんじゃないかな!
太田:いや。意外にすごい普通に戻っちゃったりするかもよ。
T:確かにそのとおりかも! ちょっとハッパ吸うだけで、おれって本当につまらない男になっちゃうからさ(笑)。
映画が悲鳴のようなもの
Q:テリー監督の狂気は、太田さんには映画を通じてどのように伝わってきますか?
太田:この人の映画っていうのは、映画自体が悲鳴みたいな気がするんですよ。それは、この世の中と自分のズレに対して「ギャアー」って叫んでいる、ものすごい悲痛な叫び。赤ん坊がこの世に生まれて来たときに、泣き続けるでしょ? それで、そのうちにまともになって、赤ん坊は泣き止む。でも、この人は泣き続けている。ずーっと泣き続けている……そんな気がする。
T:彼の言うとおりだよ。僕は、今でも大人になった気がしなくて、世界をあるがままに受け入れることができなくて、同じことを何度も繰り返す日々に耐え切れないんだ。子どもは、毎朝すごく興奮しながら目覚めるだろう? 「今日はどんな一日になるんだろう?」って。でも大人になるにつれて、毎日が繰り返しだってことに気付くんだ。同じことの繰り返し、繰り返し、繰り返し……。そして、その繰り返しの世界にゆっくりと引きずり込まれていく。その流れに対して、戦っている気はいつもしているね。
太田:もう、赤ん坊なんだな。だからすぐ女の人の胸に顔をうずめたがるんだな。
T:(大爆笑) そう。抑圧されたオトコだから!
世界観を大切にすること
Q:『ブラザーズ・グリム』で、ギリアム監督を知った方は、本作を観てきっと驚きますよね。太田さん流、ギリアム作品の楽しみ方を教えてください。
太田:そうですね。映画についてよく考えるんだけどね。ぼくは、ギリアム監督が大好きで、作品はほとんど観ているんです。でも、その中にも分かる映画、分からない映画とがあって。それで、分かる映画も、完璧に分かるというわけではないんです。好きなんだけど、完璧ではない。この不完全さっていうのは、全部に共通しているから、つまんないということがあっても、信頼をすべて捨てられるものではない。なぜかというと、テリー・ギリアムというジャンルを信頼しているから。だから「これつまんねえな」っていう経験をしてもいいと思うんです。
T:たしかに、素晴らしい監督たち、たとえば黒澤にしろ、キューブリックにしろ、フェリーニにしろ、彼らはすべて自分オリジナルの世界を持っていた。いくつかの作品は素晴らしくて、失敗作もあった。そのかわり、彼らは素晴らしい世界観を見せてくれた。好き嫌いはあっても、自分のパーソナリティの一部だと思っているからそれは仕方のないこと。それよりも、その世界観を、観客の反応を気にせず、打ち出すことが大切だとおもっているんだ。大切にしてほしいのは、観終わった後の会話を楽しんでもらえるような映画を作ること。「あそこはよかった」「あそこは訳が分からなかった」ってね。そして残念なのは、そんな風に自分の世界観を大切にする監督が少なくなってきていること。みんな、次々にやってくる作品を仕事としてこなしていってしまうからね。作品に、監督が持つ世界観が反映されなくなってしまうんだ。どんなに、成功をおさめた映画でも、そこにアイデンティティーがなければ意味がないと思う。楽しいかもしれないけど マイケル・ベイやらの次回作を劇場に走って観に行くことはないんじゃないかな? フフフ……。
多くの外国の監督がハリウッドに行ったことで、雇われ監督になってしまう……。そして、そのうちみんなが彼らへの興味もなくしてしまうんだよ。それがとても悲しいことだと思っている。
ギリアム作品のファンならば、鳥肌が立ってしまうほど、コアな部分を語ってくれたテリー・ギリアム監督。シリアスなテーマで話ながらも、合間には爆笑問題とゲラゲラと笑いながら話をしている姿が印象的だった。太田光が、「素晴らしい作品」と絶賛した『ローズ・イン・タイドランド』。ギリアムの昔からのファンも、『ブラザーズ・グリム』でギリアム作品に出会った人も、本作で危ないギリアムワールドにどっぷりとつかってほしい。
『ローズ・イン・タイドランド』は、7月8日 より恵比寿ガーデンシネマほかにて公開