『幻遊伝』田中麗奈 単独インタビュー
ワイヤーで落ちるとき、それは本当に怖かったです
取材・文:シネマトゥデイ 写真:亀岡周一
映画を中心に活動を続けている田中麗奈が、初めての台湾映画『幻遊伝』で主演を務めた。本作は、現代の台湾に住む女の子がふとしたきっかけでタイムトリップしてしまうというアクション大作。ワイヤーアクションにも果敢に挑戦した田中が、アジア映画の魅力とアクション撮影の大変さを語ってくれた。
3年前から勉強している中国語
Q:田中さんご自身は、アジアのカンフー映画はお好きだったんですか?
好きですね。中国の映画ってジャンルが多いですよね。素朴な映画というか、アクションでなくても、友情とか両親との関係をすごく繊細に描いているものとか、素朴な中に生命力を感じるような中国映画も好きなんです。でも、『グリーン・デスティニー』や『HERO』みたいな、すごくきれいな中国映画も好きで、香港のアクションも好きです。楽しいですよね。
Q:アジアに目を向けている女優さんって新鮮ですよね。プロフィールにも「中国語が堪能」とありますが、田中さんはいつごろからアジアに興味をお持ちになられたんですか?
3年くらい前から中国語を勉強し始めました。21歳のころにアジアに行く機会があって、そのとき、わたしが出演した『はつ恋』という映画がアジアの国でも観てもらえていたことを実感して、すごくうれしかったんです。日本以外の国でもこうやって自分の作品を観てくれる人や感動してくれる人がいるんだと、言葉を越えて作品で伝わることは、本当にあるんだと気付いたんです。だから、自分の映画をもっとたくさんの国の人に観てもらいたいとそのときに思いました。
アジア進出への決意
Q:田中さんはチャン・ツィイーの大ファンとうかがいましたが……。
はい。『グリーン・デスティニー』を22歳くらいのときに観たんです。映画館ですごく感動して、「うわあ、ああいう映画に出演してみたいな」と思ったんです。それから、中国の映画をたくさん観るようになって、チャン・ツィイーを好きになって、コン・リーを好きになって……。本当に魅力的な役者さんがいっぱいいるんだってことに気付いたんです。中国の映画がこれから発展していくだろうって話も聞くようになって、「やってみよう」と思ったんです。
Q:女優として観た中国映画は、また違いますか?
そうですね。魅力的ですよね。観ただけで出演したいって思っちゃいますから(笑)。もちろん日本映画も大好きで、ここで女優をやっていきたいって本当に思っています。でも日本にはできない、中国独特の世界観を見せつけられたときに、自分もあそこに行きたいって思いました。それはもう止められないというか(笑)、インスピレーションなのか、それがアジア進出への決意になっていった感じです。
恐怖のワイヤーアクション!
Q:そんな田中さんの念願もかない、『幻遊伝』に主演されましたが、撮影はいかがでしたか?
本当に、スタッフが温かくて、共演者ともすごく仲が良かったんです。撮影場所は上海撮影所がメインで、ホテルもみんな同じで、一緒にご飯を食べたり、プライベートも一緒に過ごす時間があったりしたので、とても楽しかったです。国が違ったり人が違ったりするだけで、やっていることは大して違わないと思います。ただ、ひとり日本人が来ているってことで、みんなすごく気を配ってくれていたと思うし、優しくしてもらったので、わたしはお芝居で返していかなきゃっていう気持ちでした。「みんなが『田中麗奈とお仕事して良かったよ~』って思ってほしいな」という気持ちで毎日演じていました。
Q:ジャッキー・チェンの映画の撮影現場などでは、女優さんにもワイヤーアクションをどんどんやらせると聞きましたが、今回の監督はどうでしたか?
そうそうそう! そうなんですよ。「じゃあ、段取りしまーす」みたいな感じで、こっちから彼が来る、それでこっち来て、こう動いて、こう行って、はいアクション。みたいな感じはありましたね。注意点をちょっとあげて、まぁ気をつけようみたいな(笑)。わたしは初めてだったので動揺する部分はあったのですが、周りの方はそれが日常茶飯事だから、驚くほうが変なんだろうなここの場ではと思って普通にこなそうとしていました。
Q:怖い思いはされなかったですか?
やっぱりワイヤーで落ちるときは怖かったですね(笑)。何メートルの高さから落ちたんだろう? すごい怖かったんですよ(笑)。みんなの頭とか木のてっぺんとかも見えたし、夢の中にいるみたいな「これ現実?」って感じで、うわぁぁーっていう感覚は覚えていますね(笑)。落ちるときも、一瞬じゃなくてゆっくり落ちるので「まだ? まだ?」っていう自分がいて、それは本当に怖かったです(笑)。でも今後こういう経験はなかなかできないかもしれないと思ってがんばりました。
キョンシー役はすごく大変
Q:キョンシーとの共演はいかがでしたか?
久しぶりに見たキョンシーは、わたしが小さいときからなじんできたキョンシーと違って、現代風になっている感じはありました。共演してみたら、キョンシーの動きって難しそうなんですよ。キョンシー役はすごく無理なことを言われていたみたいです。「キョンシーは息をするな」とか「息を吸うと身体が動くから息を止めてろー」とか(笑)、それが1分以上続いたりしていたみたいです。あと、ジャンプするときは足を曲げないでジャンプするとか……。大変だな~って。
Q:今回は、チェン・ボーリンさんとの恋も絡んできたと思いますが、異国の映画で、異国の言葉を話して恋に落ちるというのはどうでしたか?
彼女は、タイムトリップしたことで、素直になれたり、生き甲斐を見つけたりしたんですよね。でも、それがトリップした先の時代だから、帰らないといけないという……。すごく切ないな~と思いましたね。
表情を大きめに出す努力
Q:表情の出し方とかも、アジア向けに練習されたりしましたか?
シャオディエもああいう性格だし、感情表現とか気持ちが分かりやすいほうが子どもも分かるだろうし。なんか向こうの映画を観たとき、みんなのお芝居が少し大振りだと思ったんです。それで……、ちょっとわたしもやってみようかと思って、ちょっとやってみたんです。アハハッ(笑)。なじんだという感じはありましたね。
Q:もうひと役の、チンティーズーのときはアクションが結構派手だったじゃないですか。
彼女はやっぱり何よりもかっこよく余裕があって強いっていう風に見せたかったので、必死な感じに見せたくなかったです。だから倍練習が必要でした。
でも、本当にアクションは数秒だから何回、何十回、何日間もかけて回し蹴りを練習しても、映像では2秒とか……。「あっ! ほら観て! 終わっちゃった! あー、観てた? 観てた? わたし、いま回し蹴りしたんですけど!」っていう感じですよね(笑)。何回か友達と『幻遊伝』を観たんですけど、いちいち大騒ぎしながら説明していました(笑)。「ここーっ!」って言っても、そんなの関係なくテンポがパパーッっていくので積み重ねなんだなって、これがプロの世界かって感じです(笑)。
女優、田中麗奈のこれから……
Q:女優としてのこれからのスタイルは?
わたしはそんなに器用な方ではないので、たくさんのことはできないんですが……。でも、ひとつひとつに魂を込めてやっていきたいタイプなので、今の映画にウエイトをかけたスタイルでやっていけていることは本当に幸せで、一番自分らしいと思っています。それでアジアに自分の興味が広がっていって、自分らしく世界をちょっとずつ開けてきていると思うから、このままこのスタイルで自然に広がっていければ、自分らしく、ひとつひとつ作品を大切にしながらやっていけると思います。
何を質問しても、期待していた言葉よりも3倍以上の答えを返してくれる田中麗奈。彼女が持っている人一倍の好奇心があってこそ、アジアへの進出が実現したのではないだろうか。乙一作『暗いところで待ち合わせ』でも、共演するチェン・ボーリンとは、撮影中に日本語や中国語を教え合うなど、すっかり意気投合していたそう。2人の息もピッタリな痛快アクション『幻遊伝』で、田中の新しい魅力を満喫してもらいたい。
『幻遊伝』は8月26日より渋谷Q-AXシネマほかにて公開。