『ザ・センチネル/陰謀の星条旗』キーファー・サザーランド 単独インタビュー
アップダウンの俳優人生の中で勇気をもらった父の映画
取材・文:佐藤睦雄 写真:(C) 2006 TWENTIETH CENTURY FOX
テレビシリーズ「24 TWENTY FOUR」のジャック・バウアーで得た爆発的人気を後ろ盾に、キーファー・サザーランドが再び映画の世界で飛躍しようとしている。その作品とは、同じく偉大な俳優を父にもつマイケル・ダグラス共演のサスペンス『ザ・センチネル/陰謀の星条旗』。彼が演じるのは、大統領暗殺計画の汚名を着せられたベテラン・シークレットサービスを追う同僚。ジャック・バウアー級のガッツをこめ、“追う男”を熱演している。父ドナルド・サザーランドのこと、演技の楽しさなどについてキーファーが独白した。
息子ができたら名前はジャック?
Q:本名(キーファー・ウィリアム・フレデリック・デンプシー・ジョージ・ルーファス・サザーランド)の意味は?
芸名に使ったキーファーは父(ドナルド・サザーランド)のイギリスでの映画デビュー作の脚本家ウォーレン・キーファーから。ウィリアムは単にミドルネームで、フレデリックは父方の祖父の名で、デンプシーは母方の祖母の結婚前の姓で、ジョージは父の親友の名前。ルーファスはどういう由来か誰も知らないんだけど、どうも父がカッコイイ名前だと思って付け足したらしい(笑)。
Q:あなたに息子さんができたら、どんな名前をつけますか?
簡単な名前を付けたいから、「24 TWENTY FOUR」に関係なく、ジャックかな(笑)。
Q:父親である俳優ドナルド・サザーランド氏から「絶対にうそをつくな」 と、アドバイスを受けたそうですね。
芝居というものはシナリオにそってクリエートされるものだから、演じる人物がどういう身ぶりをするか、どういう言動をとるか、その裏付けが分からないと演技できない。例えば泣くシーンがあるとすると、彼の内面を探って 泣かなければならない事情を見せる必要があるわけだ。そういうことを父は「うそをつかない」と言ってるんだ。演技そのものはいわばうそなわけで、でもその演技の中に真実を見いだして、その瞬間にうそがないようにしなければならないという忠告なんだね。
落ち込んだときに勇気づけられた父の映画
Q:お父さんのドナルドからすてきなルックスを受け継いでいますね。
父はぼくより15センチも背が高いんだ! それだけでも見た目はだいぶ違う。父の演技は本当に“大きい”。身体的に、ということではなく、ヴェネチアを舞台にした『赤い影』の演技など最高だね。ぼく自身の俳優人生はアップダウンの繰り返しだったけど、落ち込んだとき何度も勇気づけてくれたのが、『赤い影』をはじめとする父の映画だった。
Q:では本題に。この『ザ・センチネル/陰謀の星条旗』を選んだ理由は?
それは、マイケル・ダグラスと共演できることだった。あのマイケルと闘争心むき出しで演技し合えるなんてね。この役を誰かに譲るわけにはいかなかった。マイケルの役が、ぼくの前から逃げていくシーンで、彼の役は自分の思うように進むためにぼくを脅かし、押しのけて進むことになる。その辺の駆け引きの面白さにワクワク感を経験したんだ。脚本を読んで、すぐにね。ぼくが出演した『フラットライナーズ』のプロデューサーがマイケルだったから、彼との仕事は若いうちに経験済みだった。 『カッコーの巣の上で』『チャイナ・シンドローム』といった素晴らしい作品を製作している人で、もちろん敬意はあった。役者としても彼との共演のチャンスがあったら、絶対に手放したくないと思う役者だからね。まして彼から声を掛けてもらって、断る理由は何もなかった(笑)。
「24 TWENTY FOUR」で学んだこと
Q:「24 TWENTY FOUR」で学んだことは、この映画に生かされましたか?
「24 TWENTY FOUR」でそれまで知らなかった多くのことを学べた。せりふを細かく分析すればストーリーは見えてくるということかな。せりふをきちんとしゃべるだけでは環境的なエネルギー、まわりを包む緊迫感は生まれないってことだな。観ている人がせりふとは別に 緊張とか恐怖とか興奮を感じることができるエネルギーを作り出さなければならないってことだ。それは、この映画のサスペンス的要素もまったく同じだった。ぼくたちがいる環境は混沌(こんとん)の中にいてドラマチックで、せりふとは別に俳優たちがつくりあげないといけないものなんだ。
Q:今回は「24 TWENTY FOUR」に少し似ていましたが、今後どういったジャンルの映画に出演していきたいですか?
実は、ロマンティック・コメディが大好きなんだ。ヒュー・グラントが出ていた『ラブ・アクチュアリー』は最高だったね。けど、ああいうおかしさを出すのってワザがいるんだね。ヒュー・グラントがすごいのは、おかしさの中に優雅さや品格がただよっていることかな。コメディもやりたいんだけど、彼のように優雅にダンスを踊れないからなぁ(笑)。誰だってぼくのコメディを観たくないだろ? ま、当分は観る側かもしれないね。やはり脚本を読んでエキサイトするのは、今度の映画のようなサスペンスやキリキリするドラマなんだね。父が演じた『赤い影』や『針の眼』とような映画を演じてみたいね。そして父のように“大きく”見せられたらと思うんだ。
父親ドナルド・サザーランド譲りの射すくめるような強烈な光を放つ瞳で見つめつつ、真摯(しんし)に答えを探しながら丁寧に語る素顔のキーファーは、ジャック・バウワー以上にプロフェッショナリズムに徹した男だった。テレビシリーズでの長い経験が彼の俳優人生に、ゆるぎない自信をあたえたからではないだろうか。いよいよ映画化される『24 TWENTY FOUR』で、さらに“大きく”なった俳優キーファーの姿が見られるかもしれない。
『ザ・センチネル/陰謀の星条旗』は10月7日、有楽町スバル座ほかにて全国公開。