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橋の上で自殺をしようとする人にカメラを向け続けたエリック・スティールに話を聞く

この人の話を聞きたい

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どれだけ頭の中で皆一人一人がどうすべきかを把握していても、実際に人が飛び降りた瞬間は、立ち往生してしまって、正気を取り戻すのに少し時間がかかった事もありました。誰かが生命を絶とうとしているのを見るのは、撮影中とても辛かったです。-エリック・スティール-この人の話を聞きたい~その9橋の上で自殺をしようとする人にカメラを向け続けた-エリック・スティール-
『人は何故生きるのであろうか?』こんな単純で子供じみた質問に、一体どれくらいの人達が即答できるであろうか?
 
本当は、これを即答できないのが当たり前なのかもしれない。これこそが人生で最も重大で本質的な問題なのだから。

日本では、「21世紀はこころの時代」と言われてからいく年か経つが、精神病やうつの人々が増え、自殺も1998年以来ずっと3万人を超え続けている。この数値は、日本よりも人口が倍のアメリカでの自殺者の数と変わらないのである。
 
現在日本で世間を騒がせている中2の自殺も含め、いまこそわれわれ日本人は、生死の根本的な問題に直面すべきではないだろうか? くしくも今アメリカでは、そんな自殺を描いた映画2作が話題を呼んでいる。

そこで生に対する観点を再度見つめ直す作品を紹介したい。1作目は、『The Bridge』。サンフランシスコにあるゴールデンゲート・ブリッジで自殺した人達とその家族を描いた映画。2作目は、『Jonestown:The Life and Death of People's Temple』過去最大の900名以上の同時自殺を招いた宗教ピープルズ・テンプルの信者と教祖のジム・ジョーンズを描いた映画。今回は、その二つの映画の監督エリック・スティールとスタンリー・ネルソンに自殺について映画を通して聞いてみた。
『The Bridge』=エリック・スティール監督
Q:まず始めに飛び降りる瞬間の映像をご覧になった自殺者の家族の反応はいかがだったんでしょうか?
(エリック・スティール)出展していた映画祭が始まる前に、一度サンフランシスコで試写会を行ったんですが、出演してくれた家族の方々一人一人が、この映画を通して、自殺防止の議論を喚起するきっかけに貢献できたことを、心から感謝してると言ってくれました。私自身は、ずっと彼らを憤慨させるのではないかと、内心は不安だったんですが……。
 
その時に印象に残ったのは、リサ(自殺者)の母親が、彼女が柵を超え飛び降りようとした瞬間に立ち止まり、笑って海に飛び込み、その後コーストガード(海上保安隊)の人達が、直ぐに彼女の遺体を引き上げてくれて海に流されずにすんだんだことに触れ、今までの彼女(30年間もの長い間、精神分裂症で苦しみ、精神病院に出たり入ったりしていた事)を見てきた母親が、妙な事に今は、なんだか言い表せない平常心みたいなものを感じると言ってました。(この言葉は、長い間娘と共に格闘してきた母親が、苦渋の末に現在娘が安息の地にいると信じての発言であって、自殺や死を軽んじて出た言葉ではない)
Q:映像そのものが衝撃的なのですが、ずっと立った状態で撮影されたのですか? その衝撃的なシーンを目の当たりにしたことについて今はどうお考えですか?
(エリック・スティール)2004年の1年間、ほぼ毎日、橋で夜明けの30分前から夕暮れ30分後まで撮影していました。
 
晴れようが、雨が降ろうがいつもその場所に居たのです。全部合わせて(カメラが一台以上あったため)およそ一万時間にも及ぶ映像を撮りながら、一日一日、その日に自殺を図る人がいるかもしれない、人々に伝達しなければならないと使命感を感じなかった日はありませんでした。
 
撮影している際にちょっと怪しげな人を見つけては、その人がただ一人で歩いているだけなのか、確認しながらゆっくり見つめていくうちに、だんだん心臓の鼓動が激しくなるんです。それと常時二人以上で撮影していたため、「どうしようか?」「どうなっているのか?」と会話のやりとりしていたんです。
 
そして、誰かが柵をよじ登った瞬間は、いつも半信半疑の状態で硬直してしまうのですが、すぐに携帯電話で橋の救助隊の番号をスピード・ダイヤルするんです。
 
われわれのいた狭い空間には、大きなカメラと固定された椅子があり、その他に体を温めるための服や雨具、レンズなどがあるのですが、それでも凄く早く動きながら救助を求めなければなりません。
 
どれだけ頭の中で皆一人一人がどうすべきかを把握していても、実際に人が飛び降りた瞬間は、立ち往生してしまって、正気を取り戻すのに少し時間がかかった事もありました。誰かが生命を絶とうとしているのを見るのは、撮影中とても辛かったです。
Q:あなた自身どういう意図で撮影しようと思ったのです? 撮影後、あなたの持っていた自殺に対する考えや価値観は変わったのでしょうか? そして観客に何を見てもらいたいのでしょうか?
(エリック・スティール)ある程度撮影に入る前は、頭の中でどういうものを見ることになるのか認識していたんですが、皆さんもお気付きかもしれませんが、映画では望遠レンズを使っていたので人々がよく見えていますが、実際の橋自体は結構長いのです。だから撮影当初は、橋を渡っている大勢の一人が、瞬時に飛び込んだら、はたして撮ることができるのか、私自身も良く分かっていませんでした。
 
しかし月日を経て徐々に学んでいったんです。でも重要なのは、そんな撮影時に、人々が柵を超えても、そのまま通り過ごす人や、自転車に乗って無視したままの人などもいて、まるで世界で起きている事に無関心でいるような人達を見てきたことでした。この映画で何を人々に感じてもらいたいかと言うと、われわれが撮影時に感じて思った事をそのまま93分間、彼らのこれまでの生き様と最後の映像を通して、まるで望遠鏡で彼らの人生の奥まで見つめるるように感じ取って欲しいのです。
『Jonestown: The Life and Death of People's Temple』=スタンリー・ネルソン
Q: 何故またこの題材の映画を再度(1980年にTV映画として一度作られている)制作しようと思ったのでしょうか?

(スタンリー・ネルソン)よく聞かれる質問なんですが、答えながらも、私自身でさえ本当の理由がなんだったか不確かなんです。私の妻のマルシア・スミスは、この映画の脚本を書いているんですが、彼女が3年前に、ピープルズ・テンプルの信者だった人々の話をラジオで聞いたんです。
 
その放送は、大量自殺の事件から25年後の時で、妻に『あなた、彼らの話を聞かないと駄目ですよ! 全く信じられない話だから』と言われたんです。彼ら信者の言葉は、われわれの知っている話(メディアや歴史事実として取り上げられたもの)とは、全く異なったものでした。実際私自身も、一般が知っている事しか知りませんでした。
 
それは、ピープルズ・テンプルの信者900人以上が、南米のガイアナで、気違いじみた教祖のジム・ジョーンズとともに青酸カリ入りのソフトドリンクを飲んで自殺したということです。それからラジオで聞いた信者の話の違いをゆっくり考慮し始めたある時に、年を取った黒人と白人が一緒に写っている信者の写真を見たんです。
 
その時に、「一体どうしたんだろうか?こんな落ち着いて見える老人が、こんなカルトじみた宗教に改宗したのだろうか?」と感じたんです。そして、その他にも若いヒッピーやアフロの連中も写っていたんです。それから、ジム・ジョーンズがエルビスみたいにサングラスをかけている写真を見て、徐々にこの題材に惹(ひ)かれていったんです。

Q:過去に起きたこの事件をどうやって新鮮な形で伝えようとしたのですか?
(スタンリー・ネルソン)私の制作上での考えの一つに、映画『市民ケーン』がありました。これは、映画学校に行った人や映画のコースを受講した人なら、何度も何度もみているかもしれません。この映画では、始めに全体(結果)を話してしまうんです。ケーンが死んだ後、彼がどういう人物であったかという事を、ニュースを通して伝えられるんです。ある意味で、それが私達のやり方でした。
 
Q:どうやってピープルズ・テンプルの生存者をこの映画に参加させたのですか?
 
(スタンリー・ネルソン)信者の多くは敏感で傷つきやすい存在で、我々はきわめて慎重にアプローチしたんです。常にこれから何をするか伝えながら、彼らに対して、自分が映画作家であることを押し売りするような事はしませんでした。始めは、テープ・レコーダーを使わずに会話し、ノートだけに記録していました。そして打ち解け始めてから、撮影に入った訳です。今でも彼ら信者同士で連絡を取り合っていたため、約40名の信者がインタビューに応じてくれ、35名が映画に参加することを同意してくれたんです。同意しなかった残りの5名の中の一人の女性は、自分の子供に、かつて自分が信者だった事を知られたくないと言っていました。非常に理解できる理由でした。それでも、彼女の気が変わり、伝えたい事があれば連絡してくれと告げ名刺を渡しました。
Q:ジム・ジョーンズ.JR(教祖の息子)の参加について教えて下さい?
(スタンリー・ネルソン)彼は、至って普通の人間でした。彼は(皮肉にも)薬剤師なんです!ちょっと前まで、自分のことをジェームズ・ジョーンズと名乗り、人々に分からないようにしていましたが、今は、ジム・ジョーンズと名乗って薬品を売ってます。その際に、人々に「あなたはあのソフトドリンク(盲信家ではないよね」という意味)を飲んでないよね』とジョークを言ったりするらしいのですが、彼が黒人なので(教祖は白人)人々にジョークを理解してもらえず、いつも「ジム・ジョーンズが僕の父親だよ」と言うと、皆一斉に黙ってしまうらしいのです。それでも人々は、結局彼の薬品を買ってくれるみたいですがね。しかしもう一方では、映画祭などで一般の客に、父親について言及されたりして、その度に彼は「私は、父親を愛していました。彼が私を孤児院から引き取ってくれ、その上学校にも一緒に歩いて連れて行ってくれたり、私と一緒に宿題をしてくれたのも彼でした。その事に関しては、いつも彼に対して感謝しています、しかし・・もう一方で、大勢の人々を驚愕させた上、彼ら(信者)の死は、私の父親の責任であることや否めません。この事に対して私は、ずっと彼に対して憎悪を感じています。私は、これを背負って生きていかなければならないのです」とまったくく驚くべきことを言ってます。
 
私にとってジム・ジョーンズ.JRこそが、究極の生存者でした!逆境の中から、自分の意志で生活を勝ち取り、家族を養い続けているんです。
 
映画自体に自殺の解決策などないが、鑑賞したことがこれまで生死に対しての自分の認識の甘さを気付かせてくれた。
 
日本での中2の自殺の記事が、こアメリカでもインターネットを通じて克明に伝えられている。今日本は、深刻にこの問題に立ち向かわなければならない時期なかもしれない。
 
もし、自殺願望がある人がいたら、ゆっくり彼らの話を聞いてあげ、慎重に吟味し、そしてこの世の中にとんでもないくらいの逆境を生き抜いている人がいる事を伝えてやって欲しい……「苦しくて辛いのは、自分だけじゃないと……。(日本での公開は現在未定)
細木プロフィール
海外での映画製作を決意をする。渡米し、フィルム・スクールに通った後、テレビ東京ニューヨ-ク支社の番組モーニング・サテライトでアシスタントして働く。しかし夢を追い続ける今は、ニューヨークに住み続け、批評家をしながら映画製作をする。
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