『ウィンター・ソング』金城武 単独インタビュー
ロマンチックな告白は
いっぱいしたことがある…
取材・文:シネマトゥデイ 写真:田中紀子
1994年の『恋する惑星』でブレイクした後、日本、台湾をはじめ世界中で活躍し続けている金城武が、いまアジアで最も注目されているピーター・チャン監督の『ウィンター・ソング』で初めてミュージカルに挑戦した。本作で甘い歌声を披露し、かつて自分を裏切った女性を、憎みながらも愛し続ける主人公リンを熱演した金城が、自らの恋愛体験をまじえながら究極のラブストーリー『ウィンター・ソング』について語った。
友達とよくカラオケで歌う
Q:カリスマと呼ばれているピーター・チャン監督の現場はいかがでしたか?
最初にこの仕事が来たとき、すごくうれしかったです。役者という仕事をしている以上、ピーターのような監督からオファーがくるということは、すごくラッキーだと思いますしぜひ参加したいと思いました。僕の「台本をよく読みたい」という気持ちを理解してくれて、「脚本を読んでから決めていいよ」と声をかけてくれたこともすごくうれしかったです。
Q:本作では歌声も披露されていましたが、初めてのミュージカルはいかがでしたか?
僕は歌だけの担当だったので、そこまでハードじゃなかったんです。でもジョウ・シュンさんは踊りもあったので、体力的にも彼女のほうがしんどいはずなのに、頑張って本当にいきいきと演じていたのですごいと思いましたね。この映画は、歌がすべてセリフになっています。振り付けがインドの方なので、とても面白い映像になっていると思います。
Q:あらためてスクリーンで歌う自分の姿をご覧になられた感想を聞かせてください。
ちょっと恥ずかしい(笑)。
Q:普段、歌ったりはしないんですか?
友達とカラオケに行ったりするので、普段から結構よく歌ってます。
Q:どんな歌を歌われるんですか?
いろいろ(笑)。日本の歌もよく歌います。やっぱり学生時代に聞いていた歌が多いですね。
ロマンチックな告白はいっぱいした
Q:金城さんが演じた主人公・リンが持っている、ずっと誰かを愛し続ける強い気持ちを演じながら理解することはできましたか?
できますね。若いころ……20歳前後の自分を思い出しました。そのころの恋愛に対する感情でも、映画に対する気持ちでもそうだし、若いころというのは、すべてにおいての執着心が今と違うと思うんです。彼があのような状況になってしまうのがすごくよく理解できましたね。
Q:映画の中では、リンがテープに愛の言葉を吹き込むシーンがとても印象的でした。ご自身は、ロマンチックな告白をしたことがありますか?
いっぱいありますね(笑)。ここ最近はあんまりそういうことはしないですけど(笑)。
Q:では、お若いころに金城さんが、一番頑張ったロマンチックな恋の演出を教えてください!
え~っ(笑)! 彼女の誕生日の日に、登場するとか……。遠距離恋愛だったから、前もって言わずに、周りの友だちに仕込んでもらって突然現われて、お祝いして、次の日に帰るとか。ま、ま……いいや。なんか「ぜんぜんロマンチックじゃないじゃんそれ!」とか言われそうなんで。
夢に対して一生懸命生きている姿は輝いているはず
Q:リンが恋に落ちる主人公・スンのような、野心にあふれた女性をどう思いますか?
女性も、男性も同じだと思っています。“野心”というと聞こえが悪いんですけど、自分が描いている夢に対して一生懸命生きている姿は、彼、もしくは彼女が一番輝いているときなんじゃないかと思うんです。自分のしていることを「野心がありすぎる」とか、たとえ世の中に悪く言われたとしても、自分が輝けるのであればとことんやればいいと思う。そうやって生きた後に、自分の歩んできた道を振り返って、何かを感じてさらに大きくなれるのであれば、それはいいことだと思うんです。自分が20歳、30歳のときにいい人と言われていても、60歳のときに悪い人なんて言われてしまったら、それまでの過程は全部意味がなくなってしまいますから(笑)。
Q:リンの持つ嫉妬心の強さは女性から見ても怖いものがあったと思います。嫉妬深いリンとご自分を比べてみて似ているところはありますか?
うん、似てると思います……やっぱり(笑)。若いときは、今よりもっと嫉妬心が強かったと思いますね。性格なのかなあ……(笑)。
Q:10年間の経過を表現する上で気をつけたことはありますか?
20歳で恋をしていたころのストーリーをいかにピュアに表現できるか……、そのための純粋さ。彼女に対する、彼の「すごく好きだ」という気持ちが本当に純粋にうまく出せていたかどうかが、僕にとってはとても重要でした。これは、映画にとってもすごく大事だったと思いますね。それがなかったら、その後の憎しみだとか恨みというギャップが出てこなくなってしまうと思うので。幸いなことに、僕たちは先に10年前のシーンを撮影できたから、そこでの感情やどんな表情をしていたかを、監督やみんなも分かっていたので、その後のシーンはとてもスムーズにできましたね。
やっと自分のやりたい仕事をやれている
Q:この映画に出演して、一番の収穫はなんでしたか?
作品がどうかというよりも、ピーター・チャンやジョウ・シュンなどたくさんのスタッフたちに出会えて、仲良くなれて、素晴らしい思い出が作れたこと。彼らとは今でも仲がいいので、この“出会い”が一番大きな収穫だなと思っています。
Q:日本の監督で一緒に仕事をしてみたいと思う人はいますか?
具体的には、あるようで、ないような(笑)。自分からオファーを出すものではないと思うので、それはもしチャンスがあれば誰でも試してみたい。日本映画もどんどん面白くなっているように見えるので。興行成績がすごくいいじゃないですか、そういう成績の良さはいい人材を育てますから、素晴らしいスタッフに出会えればと思います。
Q:多くの国の監督とお仕事をされている金城さんから見た、最近のアジアの印象を教えてください。
やっぱり大きな変化は、中国という大きなマーケットがどんどんオープンになってきていることです。アジアだけじゃなくて、ひょっとしたらアメリカやヨーロッパもこの大きなマーケットに入りたいと思っている。それは映画だけじゃなく、産業、企業、いろいろな分野から注目されている。今すごくみんなが、アジア、中国に注目していると思います。
Q:『恋する惑星』から約10年……、振り返ってみてどんな日々でしたか?
いろいろあったと思います。いろいろな人に出会ったり、いろんな人と別れたり。仕事でもいろいろな国の人と出会いや別れがあったり……。仕事に関しては、やっと自分のやりたい仕事をやれていると思うようになりましたね。すごくラッキーで、本当に素晴らしい監督たちと仕事ができているので幸せです。
誰もがとろけてしまいそうな甘いマスクでほほえみながらも、静かに話し続ける金城武は、“アイドル”扱いされた日々を脱出し、世界中の巨匠からオファーが絶えない素晴らしい魅力を備えた“スター”そのものだった。アジア中の監督たちと仕事をし、その目で映画の現場を見ているからこそハッキリと言える“アジア”映画の成長。そして、多くのキャリアを積んだことから築かれたであろう、役者としての自信。金城の知性、その美しさ、加えて「歌う自分は、恥ずかしい!」と笑うチャーミングさを持った金城武は、『恋する惑星』で世の女性を夢中にさせたかつての“アイドル”ではない。30代に入り、いまだ夢を追い続けている金城は、「夢を追っている人は輝いている」との言葉どおりの人だった。
『ウィンター・ソング』は、11月11日より有楽町スバル座ほか東宝洋画系にて全国公開。