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『カンバセーションズ』ハンス・カノーザ監督&桃井かおり 単独インタビュー

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『カンバセーションズ』ハンス・カノーザ監督&桃井かおり 単独インタビュー

昔の恋愛の謎が解けるような映画なの

取材・文:福住佐知子 写真:秋山泰彦

10年ぶりに出会った元夫と元妻。知らない者同士のふりをして話しかける男。お互いの心の内を探るようにそれに応える女。二人の男女の感情を同時に2分割された画面(デュアル・フレーム)に映し出す、斬新な手法で描いた本作。作品を観てすっかり監督の大ファンになったという桃井かおりと若き鬼才ハンス・カノーザ監督に話を聞いた。

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デュアル・フレーム(2分割)という撮影手法

ハンス・カノーザ監督&桃井かおり

Q:桃井さんはこの作品のどういったところが気に入ったのですか?

桃井:映画を2分割で最初から終わりまで撮るって、ものすごく勇気のいることなの。その根性がまず、すごく好きだったわけ。ほかの映画ならキャラクター一人にしか感情移入できないんだけど、2分割だと男と女、二人の感情が両方とも主観的に感じられる。過去もわざとらしくなく観せてくれる……観る人に想像力や、その人の体験を通して観させる力があるの。いろんな想像をしながら、自分の人生も考えながら観られる映画だと思う。2分割だけど、わたしの中では120分割ぐらい、いろんなことを思いながら観られた。

Q:デュアル・フレーム(2分割)で撮影された理由を教えてください。

監督:以前から撮りたいと思っていたんだ。今まで映画を観てきて、俳優が一人しか映っていないときに、映っていない人は何をしているんだろうと思っていたんだ。今回、主演のヘレナ(・ボナム=カーター)とアーロン(・エッカート)の演技を全部見せたいという気持ちがあって、この手法をとったんだ。観客とキャラクターがより近いきずなを築くことができたと思うよ。

Q:俳優にとって、常に撮られているというこの手法での撮影は負担になるとは思いませんか?

桃井:負担だなんて、とんでもない。すごくうれしいことですよ。選ばれた表情だけじゃなくて全部映っていられるわけだから。たとえば「Yes」という言葉を言うときにも、その前にどれだけ考えてから言ったのか、複雑な部分が全部見えるわけ。女性側の気持ちで観ているときに男性側は何を考えていたのかなというのも全部映っているの。昔の恋愛の謎が解けるような映画なのよ。

みんな似たような経験をしたことがある

ハンス・カノーザ監督&桃井かおり

Q:本作では10年ぶりに別れた男女が出会うわけですが、お二人にもそのような経験がありますか? 自分ならどのような状況で再会してみたいと思いますか?

監督:実際、僕も同じような経験をしたことがあるよ。二人で一緒にいた時間が間違っている、良くないと思って別れたわけだから、再会のいいタイミングなんてないと思う。ヘレナとアーロンに最初に会ったとき、二人は「自分自身を演じます」と言ったんだ。二人もこの映画のような経験したことがあるんだね。誰かを愛していたし、誰かを失ったこともある……。みんなが経験しているし、理解できると思ったから、この映画を作ったんだ。

桃井:そうなのね……。最初に監督に会ったとき、若くてきれいな人だったのですごく驚いたの(笑)。いろんな “愛”を経験した「おじさん」だと思っていたから(笑)。才能(想像)は経験をも上回ったと実証したわけね(笑)。別れた二人が再会して、関係が進んでいくあたり、どうしてそんなに愛について詳しいの? って驚いたわ。脚本もすごく良くて「昔はすごく好きだったんだから、今もどこかで好きでいてくれるといいな」「わたしのことが忘れられないでいてくれるといいな」というのはすべての恋愛の願いだと思うわ。もう1回やり直せるかなって妄想してみたりする部分なんて、すごく大人っぽい恋愛の描き方だと思う。俳優も上手だけど、あの俳優を動かしているのはハンスさんでしょ。どうやって演出するんですか? 俳優って“生もの”でしょう? どんな作戦があるの?

監督:僕も若いけれど、脚本家は僕より7歳も若いんだよ(笑)。脚本家とはずっと一緒に仕事をしている。今回の脚本を書くときも二人で協力してきたんだ。男と女の恋愛っていつも長い会話に集約されると思う。だからこのタイトルをつけたんだ。自分の経験が入ってはいるけれど、自分はアーティストとしてこれをほかの人はどう経験するだろうか? とほかの人の立場に立って考えたりするんだ。どんな題材でも真実が描かれていればそのアートは自分というものを超えて、真実のストーリーを語ることができる、心に響くものができると思っているよ。

この年齢までくると、別れたくない!

ハンス・カノーザ監督&桃井かおり

Q:男と女は過ちを繰り返してもまた恋愛を始めてしまいますが、男が女に、女が男に求めているものって何だと思いますか? どういったところに惹(ひ)かれるのでしょうか?

桃井:わたしは気が付いたら好きになっているので分からないのよね(笑)。こういう人がいいという希望はあっても、希望通りにいかないよね(笑)。今は人を信じる力が付いてきているから、別れないですむかなって思っている。本音を言えば「もう別れたくない」っていうのがあるのよね。別れ続けてこの年齢まで来ちゃうと、もう別れたくないのよ(笑)。

監督:僕は女の人に会って最初に見るのは美しいとかじゃなくて会話なんだ。まず話をすること。長く話せる人には発見がある。僕は“彼女”をいつも発見していたいと思うんだ。この映画では、男は彼女を発見し続けることができなかったから別れたんだ。中年になった今、23歳の若い彼女がいて、別れた妻と再会して話をしているんだけれど、若かった女の子(別れた妻)が別人になっているという事実に堪えられなかったんだと思う。出会ったころの“若い女の子のまま”でいて欲しかったんだ。人間の本質は変化していくこと、成長していくことにあると思う。だから、人が変化していることを認めなければいけないと思うんだ。

Q:最後に、おすすめのシーンを教えてください。

桃井:女優さんがサラッと下着姿になるシーンがあるけど、女優さんが堂々としていて、すごく良いの。年を重ね、その人らしい人生が積み重なった体は、とても格好良かった。男に対して堂々としている。こんなラブシーンを撮れる監督が若くてすてきな人でうれしくなる。本当にシャレているのよ。俳優がのびのびしていたしね。たくさんの人に観て欲しいわ。


この日の桃井はかわいいポニーテール姿。お得意の桃井節で監督と記者を相手に熱く語り続け、インタビュー時間が過ぎても「もっとお話しましょうよ」とにっこり。「大人の恋愛がしっかり描かれている」部分が気に入ったという桃井は、監督の新作のオーディションを受け、「白人の役だったので落ちちゃったけれど、ほかの役で出してもらえることになりました」とうれしそうに話してくれた。男と女の数だけいろんなドラマがある。自分の思いも重ねて作品に参加することができる稀有(けう)な映画だ。

カンバセーションズ』は2月3日よりシネスイッチ銀座ほかにて公開。

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