第11回こはたあつこ「ジョージ・ルーカスが生みの親、ILMをご訪問~! の巻」
うわさの現場潜入ルポ
「取材・文・写真:こはたあつこ」
さあ、今月は、世界で最高、最大の視覚効果の映像工房、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)!
ILMと言えば、1975年にジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』の特殊効果を手がけるために設立して以来、190本以上もの映画を手がけ、アカデミー視覚効果賞を15回も受賞していることで有名。
『スター・ウォーズ』シリーズはもちろん、『ハリー・ポッター』『ジュラシック・パーク』『インディー・ジョーンズ』『パイレーツ・オブ・カリビアン』などの大ヒット映画を何本も手がけ、世界で最先端の技術とクリエイターが集るILM。一体どんなところなのか!? サンフランシスコの敷地内にさっそく潜入!
79,000平方メートルもある公園のような緑の空間。もともとは病院だったところを買い取り、2005年に、引っ越したそう。敷地内には4棟の建物があり、ILMのほかにも、映画会社のルーカス・フィルムとゲーム会社のルーカス・アーツが入っている。
建物の入り口にある噴水を見て思わず笑ってしまった。ヨーダのブロンズ像が重々しく祭られてあるからだ。ジョージ・ルーカスのユーモアが感じられる。
建物の中に入っても、それは続く。受付のロビーには、ダース・ベイダーやストーム・トゥルーパーなど、『スター・ウォーズ』のさまざまなキャラクターが展示されてある。うれしくなって、思わずパチパチと写真を撮りまくる。
そう。ILMの建物の中に入って、まず最初に驚くのが、廊下やロビーなど、いたるところに展示される映画の小道具や美術だ。
『スター・ウォーズ』でハリソン・フォードが固められてしまったときの鉄板や、『ディープ・インパクト』で使用された宇宙船の模型や、黒澤明監督の『夢』に使われた絵などが、廊下に惜しげもなく展示されてある。
また、コンピューターのアニメーターたちの部屋に入ると、真っ先に目につくのは、それぞれの机が個性的に飾られてあること。たくさんのフィギュアが陳列する机もあれば、まるでレゴランドのように、レゴで作った模型ばかりが並べてある机も。
これまた、ジョージ・ルーカスの思想だそうで、それぞれ、インスピレーションがわきやすい空間にしてほしいと、好きなものを机の周りにおくことを奨励しているそうだ。なんとも楽しそうな会社だ。
外観だけ見ていると、緑の囲まれた山荘のようにも思えるが、世界の最先端を行く視覚効果の会社。どこかにハイテクな部分が隠されてあるはず。
その答はまずは床に見つけた。
実は、ILMの床は、なんと、46センチほど浮いているのだ! ……と書くと、「なに??」と驚いてしまうが、外見は普通の床と変わりない。でも、実は床の下に本当の床があり、その間の空間に無数のコンピューター用のケーブルやらエアコンのケーブルやらが通っているのだ。
そして、そのケーブルはすべてある部屋につながる。
その部屋とは、「メイン・コンピューター・ルーム」。
その部屋に通されてびっくり。黒い冷蔵庫のようなコンピューターがおびただしいほどの数、何列も何列も並んでいるのだ。かすかにブイーンというコンピューターの音がする光景は、まるで『2001年宇宙の旅』だ!
そう。ここがILMの心臓部なのだ。
このシステムだと、膨大なアメリカの国会図書館の情報を、たった8時間ですべてダウンロードでき、1秒間に11ペタバイト(1ペタバイト=約1000兆125億バイト)の気の遠くなるほどの情報を扱うことができるという。
また、この建物にはいくつかの試写室があり、監督が世界中のどこにいようと、ILMで作られる映像を外から見ることができ、それについて、電話会議もILMのスタッフと出来ると言う。デジタルなILMならではだ。
そんな建物内を、クールでオタクなスタッフたちが、ジーパンとTシャツ姿でのんびり歩いている。窓から入ってくる木漏れ日が気持ちいい。
今回のILMの取材は、ILMが視覚効果を手がけているマイケル・ベイ監督の『トランスフォーマー』の映画が目的。この夏公開される夏休み映画で、30分のフッテージ映像を観たが、その斬新さにぶったまげた。
ジェット機が、一瞬にして巨大な悪者の金属系ロボットに変身し、しかも、すごいスピードで暴れまわるのだ。そのリアル感は、とてもCGで作られたようには観えない。こんな映像観たことがない!
しかし、もっと驚いたのは、映画で重要な役割を果たす“変身”の瞬間のCG技術の担当者が日本人だということ。彼の名は山口圭二さん。2001年にILMに入り、『M I:III』『パイレーツ・オブ・カリビアン:デッド・マンズ・チェスト』『スターウォーズ:エピソード2』『ナルニア国物語 ライオンと魔女』などを手がける。
今回の映画では、変身の瞬間をできるだけリアルに見せることに気を使ったそうだ。
変身のとき、モーフィングという方法をつかって、車の部品の形、例えばタイヤなどをグニャーと変えて、ロボットの腕にするということもできたが、それだと、リアルに見えない。
だから、トラクターがロボットに変身する場合、トラクターをまず空中分解させ、トラクターの部品ひとつひとつをそっくりそのまま宙に移動させ、その同じ部品でロボットに組み立て買えるという手法を使ったそうだ。
でも、トラクターには、ねじやらタイヤやら、2万部品以上あるので、そのすべてを動かして、ロボットにするには、とにかく大変な作業だったという。
また、巨大なロボットをいかにものすごいスピードで動かし、しかも重量があるかのように見せることも大きな課題だったという。
普通、巨大なロボットが動くと、重量があるため、ゆっくり、ドッシーン、ドッシーンと動くが、それを早く動かすと、軽いロボットに見えてしまうのだ。
いろいろ試行錯誤した結果、重さを出すには、カメラがワイドアングルなったときは、ゆっくり歩かせ、アップになったときには速く移動させたり、スローモーションを使ったりしてごまかすと、大丈夫だということが分かったそうだ。
「大変ですねー」とこちらが言うと、「いやあ、疲れますよ」と笑いながら答える山口さん。
それでも、日本のテレビ局や製作会社によくある“徹夜”はないそうだ。徹夜になりそうな作業はどんどん人員を増やし、マンパワーで補うそうだ。だから、1週間に40~45時間以上は働かないようなシステムになっていると言う。
なんて、人間に優しい環境なのだろう。世界で最先端をいく会社ほど、人間の健康管理に関しても行き届いていたのだった。これも、ジョージ・ルーカスの方針なのか。この敷地内にはスタッフのために、保育所やスポーツジムもあるという。
取材の後、森林公園のような敷地内を歩きながら、ここはなんと夢のような環境なのだろう、と関心した。ジョージ・ルーカスはアカデミー賞こそ受賞していないが、それを上回るものすごい貢献を映画の業界にしているのだなあと思った。
そんな映像工房ILMとマイケル・ベイ監督の努力の結晶『トランスフォーマー』は、8月4日から公開される。ぶっとび最新映像を観るため、ぜひチェックしてみてはいかが。