『そのときは彼によろしく』長澤まさみ単独インタビュー
信じる気持ちを大事にしなかったら、
人に優しくすることはできないと思う。
取材・文:シネマトゥデイ
2000年、第5回東宝シンデレラに選ばれて以来、小さな作品から少しずつ頭角を現していった長澤まさみ。デビューから4年後に『世界の中心で、愛をさけぶ』で、一気に注目を浴びた彼女は、その後、数多くの作品に出演して、その才能を着実に伸ばしてきた。“清純派”と呼ばれてきた長澤が、初めて大人の表情を見せた本作『そのときは彼によろしく』で、彼女は演技の幅を広げることに成功した。女優として、確かな成長を見せている長澤まさみに話を聞いた。
幼なじみは、そばで温度を感じているだけでいい存在
Q:本作の主人公である、幼なじみの男の子2人と、花梨という3人の関係について、どう思いましたか?
わたしも実際、お母さん同士が仲良くて、産まれたときからずっと一緒の幼なじみが3人いるんです。わたしを含めて、全員同い年なんです。今回の作品みたいに男の子じゃないっていうのがちょっと違うところなんですが、一緒にいて落ち着くし、言葉でつなぎとめなくちゃいけない関係じゃない。そばにいるだけでいい、そばで温度を感じているだけで、気配を感じているだけでいいっていう存在なので、すごく共感しやすかったですね。
Q:長澤さんが演じられた、“花梨”はどんな女の子だと思いますか?
花梨は、もともと強い母性愛がある女の子だと思います。彼女はすごく大人びていて、すごく堂々としていますが、実際、彼女が歩んできた人生は、決して幸せなものではなかったんです。親もいなくて、もらうべき愛情をもらえていなかったんだけれど、でも、もらっていなかった分、孤独とか、寂しさを知っていて、人に愛を与えることのできる女の子だと思います。
Q:花梨が抱く智史への思いは、どのように、はぐくまれていったと思いますか?
お母さんみたいな尊大な心を持っている花梨が、智史を好きになっていったのは、智史が純粋無垢(むく)な男の子で、自分が夢中なことには一生懸命なところに惹(ひ)かれたんだと思うんです。彼をすごくいとおしく感じて、母のような愛で包んであげたいって思ったところから、どんどん智史のことを好きになっていったんだろうなあ……と思いました。
お姉さんキャラと妹キャラを演じ分けるには
Q:これまで、妹のようなかわいらしい役が多かったと思いますが、今回の大人びた役柄を演じた感想は?
いろんな役を演じてみたいという思いが強いので、この役を演じられて良かったと思います。どんどんイメージを変えて、皆の思っていないような自分を出せると、「あ、こんな子なの? あんな子なの?」って迷ってもらえますよね? それがうれしいんです。 “大人っぽい”っていう単語の中に含まれる意味って、きっと、たくさんあるだろうし、「こう演じなきゃいけない」っていう型もないですよね? だから、花梨として動いたときに、堂々としている部分が、彼女の大人っぽさにつながるんじゃないかと思って演じました。
Q:これまで演じてきたキャラクターと今回のキャラクターとでは、どちらのキャラクターが好きですか?
どっちも好きです。年上の先輩方に「教えて教えて!」って言うのも好きだし、ちょっとお姉さんぶるのも好きだし、どっちの役を演じている自分も楽しくて好きです(笑)。
“死”よりも独りになることの寂しさを考えた
Q:花梨は死がすごく身近にある女の子ですが、長澤さんの年齢だと“死”はすごく遠く感じませんか?
そうでもないですよ。わたし、車の免許を取ったんです。それで、車を初めて運転しときに“死”を感じました。だから、車を運転するときは、死ぬ気ですよ、いつも(笑)。だって、ちょっと変に踏み込んだら死んでしまうかもしれないし、そういう怖さを感じたときに、ホントに毎日を大切にして生きていきたいって思ったし、人ごとじゃないんだって思いましたね。
Q:本作の持つ“死”は、『世界の中心で、愛をさけぶ』で描かれた“死”とは、どんな違いがありましたか?
今回は、「病気、死」=「痛い、寂しい、悲しい」ということが言いたい映画ではないと思うんです。病気とかそういうものは、オマケや付録でしかなくて、それよりも、強いきずなでつながって、信じることや待つことの大切さ、お互いを支えあって、助け合うことの大切さを言いたい映画だったので、“セカチュー”で演じた役柄と一緒の気持ちでは考えていませんでした。死ぬのが怖いというよりも、花梨ちゃんは、智史や佑司や、智史のお父さんと離れて、独りぼっちになってしまうのが怖い。小さいころに孤独だった分、人に愛を与えることで、人に愛されるようになっていった花梨が、また孤独になることが一番つらく寂しかったところなのだと思いましたね。だから“死”についてよりは、独りになることの寂しさを考えましたね。
一途に1人の人を思い続けたい
Q:10年以上、ある人を思い続けているというのはすごいことですが、その気持ちを理解することはできましたか?
わたしはできます。わたし自身、もし映画と同じ状況になったら、相手を思い続けたいと思います。信じる気持ちを大事にしなかったら、人に優しくすることはできないと思うし、人とつながっていくこともできないと思うから。
Q:初恋の人のことを思い出したりはしませんでしたか?
思い出さなかったかな……(笑)。でも、そういう気持ちは分かります。山田さんがすごくいいことを言っていたと思ったのが、絵本を見る感覚でこの映画を観てほしいっておっしゃっていて、子どものころの気持ちに戻って、素直に観てもらえたらいいなあって思うんです。本当に映像がきれいで、癒される映像ばかりなので、ちょっと疲れたから癒されたいな……という方にピュアな心で観てもらいたいですね。
車の免許をとったことをうれしそうに話す長澤まさみには、まだまだ少女らしさが抜けない、あどけない笑顔が見えた。それでも、今回演じた役柄については、「“死”よりも“孤独”について考えました……」と大人っぽい真剣な表情で話す。少女のようなあどけなさと、女優としての貫禄。女優としても、女性としても、どんどん成長している彼女が持つ2つの顔は、長澤まさみという1人の女優をより魅力的に輝かせているように見えた。「わたしがどんな女の子か、みんなに悩んでもらいたい」と語った彼女が初めて見せた、“大人の女性”としての演技をぜひ観てもらいたい。
写真:亀岡周一、(C) 2007「そのときは彼によろしく」製作委員会
『そのときは彼によろしく』は6月2日より全国東宝系にて公開。