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『インランド・エンパイア』デヴィッド・リンチ 単独インタビュー

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『インランド・エンパイア』デヴィッド・リンチ 単独インタビュー

映画は説明を受け付けないものだ。

主役は映画であり、言葉ではない

文・構成:シネマトゥデイ カメラマン:小林修士

『マルホランド・ドライブ』の鬼才デヴィッド・リンチ監督が、5年ぶりにメガホンを取ったミステリードラマ『インランド・エンパイア』。上映時間が3時間にもおよぶ、幻想的な映像と奇想天外なストーリーは“リンチ・ワールド”全開の仕上がりだ。リンチ作品では常連のローラ・ダーンを主演に迎えているほか、日本の裕木奈江が出演していることでも話題を呼んでいる。本作で2006年ヴェネチア国際映画祭栄誉金獅子賞も受賞した監督に、映画製作のこだわりや自身の作品についての見解を聞いた。

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映画は観客を未知の領域に誘うもの

デヴィッド・リンチ

Q:あなたの作品を観客が理解できなかったり、誤解を受けたりすることに対して恐れはありませんか?

映画監督にとっては、自分の作品がきちんと意味を成すことは大切だ。自分にとって完ぺきに意味を成し、自分自身が受け入れられることが一番大切なんだ。その一方で、観た人にさまざまな解釈が生まれることは覚悟しなければならない。人生と同じだね。一つの物事に対しては、人それぞれの考え方があるということなんだ。

Q:観客は、どのような心の準備をして映画を観ればいいでしょうか?

どんな映画も観客を未知の領域に誘ってくれるものだよ。だから観る者は直観を駆使することを恐れてはいけない。とにかく、感じ続けること。内にある知識を信じることが大切だ。映画は、かくも美しい言語だと思う。映画は言葉を超えたもので、美しく知的な旅ができるものなんだ。だから僕は、観客に映画を観ることで、違う世界を体験してほしいと思ってるんだ。

Q:しかし、観客は理解したがったり、言葉にしたがったりしますよね。それについてはどう思いますか?

観客は観たものだけを信用しないで、なぜか内容を理解したがるものなんだ。僕たちはより多くを理解する可能性を持っている。言葉にするのが難しいのかもしれないけど、人間は自分で思っているよりも多くのことを理解していて、言葉にできなくても内面では理解しているはずなんだ。僕は、自分のやりたいようにやるだけだ。観客のために自分の作品をいじくり回すようなことをしたら、作品は台無しになる。とにかく自分のアイデアに忠実に映画を作るだけだね。

独特のストーリーと演出法の謎

デヴィッド・リンチ

Q:本作のようにプロットだけで進む映画は、脚本を作ることもそうですが、俳優たちに伝えることも大変だったのではないでしょうか?

順番は、まったくでたらめに撮影したんだ。最初は一体どのシーンを撮っているのかも分からないくらい不可思議な方法で、この映画の撮影を進めた。僕の映画の作り方は、現在の科学と原理は同じで、まずは発見をし、その存在を証明し、そこで一体化する。そこでみんなの心も結ばれるんだ。オリジナルの脚本というものは、このような方法で生み出されていくのだと思ってる。最初にアイデアが浮かび、3分の2ほど撮ったところで、また新たな展開が生まれていく。そして半分撮り終わったところでまた新たなアイデアが生み出されていく……。そしてある日、このすべてが一体化し、ストーリーが生まれていく。それはとても抽象的なストーリーかもしれないし、表向きには完結しているストーリーかもしれない。本来は脚本を書くときにそういう過程を経るものかもしれないが、僕はあえてこのプロセスを撮影の中に持ち込んでいるんだ。少しずつ撮影していくうちに、僕の中でも秘密が明かされていくんだよ。

Q:俳優たちにはどのように内容を説明したのでしょうか?

言葉で説明できたらいいとは思うけど、映画というものは、説明を受け付けないものだと思ってるんだ。主役は映画であり、言葉ではないので……。

Q:あなたにとってストーリーとはどのようなものですか?

ストーリーはとても大切だよ。ただ、ストーリーやその構造には、表現者によって違いがあるというだけ。今回の映画はストレートなストーリーではなく、むしろ抽象的なストーリーなんだ。

Q:演出法はどのようにされるのですか?

同じシーンでも声の調子や強弱が違うことがあるけど、それはまるで音楽のようなものなんだ。何を語るかも大事だけど、どう語るかもまた大事なことなんだ。個々に独自の感覚がありますが、僕は僕の感覚を用いるよ。俳優たちは、素早くそれをキャッチしてくれた。彼らには、ジェスチャーや短い言葉で意思の伝達をしていたんだ。それはただ一つの正しい道を、歩みながら正すという感じだね。そこにたどり着いて、ようやく最後に気付くようなやり方なんだ。

キャスティング秘話、そして、裕木奈江について

デヴィッド・リンチ

Q:今までローラ・ダーンを何度も起用していますが、彼女はあなたにとってどのような女優ですか?

ローラ・ダーンほど作品の中で美しく変化し、素晴らしい瞬間を生み出してくれる女優はいないと思ってるよ。彼女は圧倒的に素晴らしい。彼女との仕事は最高だね。僕が2回以上起用した役者は、自分の分身か、女神(ミューズ)のいずれかだ。今回の映画への出演も、近所に越して来たローラと道で会い、「何か一緒にやりたいね」と話したことがきっかけで始まったんだ。

Q:日本人女優の裕木奈江の起用はどのように決まったのですか?

撮影中に、奈江が現場に遊びに来たときに知り合ったんだ。彼女が日本人の女優で、とても演技力があると聞いていたので、あるシーンを着想したとき、彼女を思い出して連絡した。奈江は美しい演技をしてくれた。セリフも完ぺきにこなしたし、話し方や演技もとても気に入っているよ。

Q:なぜ今回はデジタルで撮影したのですか?

フィルムでもいろいろなことが可能になったけど、とても時間とお金がかかる。デジタルの場合は時間が短く、コストも削減でき、どんなアイデアでも実現可能なんだ。映像や特殊効果など、すべてを可能にしてくれるたくさんの機能やツールがあるので、デジタルはとても良いと思っているよ。また、フィルムでの撮影では多くのクルーが必要だし、セッティングに時間がかかるけど、デジタルの場合は時間がかからないので、現場のムードが変わらないうちにどんどん撮影を進めていけるんだ。

Q:デジタルを使うことで新しい発見はありましたか?

フィルムに比べて操作性が抜群だね。今後はデジタルでしか撮らない。高い精度が得られるので、もうフィルムに戻る気はないよ。

Q:エンドクレジットにあなたの歌う曲がクレジットされていましたが、あなたにとって音楽はどのような存在ですか?

「Ghost of Love」と「Walking In the Sky」を歌っているけど、僕は歌手ではないので、かなり電子処理を加えてるんだ。音楽は大好きで、自分のスタジオを作り、実験的な用途に使ってる。そうやって映画をミックスダウンすることは重要なことだ。映画のサウンドとは、映像と音楽が一体となって動き続けるというもので、両者は結婚しているといえるほど重要な関係なんだ。この映画の中でもさまざまなサウンドが使われているけど、それらの瞬間にとって、それぞれのサウンドがとても重要なんだ。


デヴィッド・リンチ作品は「まるで夢を見ているよう」と例えられることが多い。その点について尋ねるとリンチは「白昼夢を見るのは好き。空想にふけるという意味だけどね」といたずらっぽいほほ笑みを浮かべた。リンチの人柄や物腰は、自身が作る映画の雰囲気と同じで、つかみどころのない印象を受けたが、そこが人の興味を引きつけてやまない魅力なのだろう。「完ぺきなまでに道理にかなった作品だよ」と本人が太鼓判を押した最新作を観て、リンチの魅力を再確認してほしい。

『インランド・エンパイア』は7月21日より恵比寿ガーデンシネマほかにて公開。

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