『茶々 天涯の貴妃(おんな)』和央ようか&渡部篤郎 単独インタビュー
男前と言われることが多いので、女らしいと言われてうれしかった
取材・文:吹田恵子 写真:鈴木徹
映画『茶々 天涯の貴妃(おんな)』は、織田信長のめいとして生まれ、豊臣秀吉の愛を受け、最後は徳川家康と天下を賭ける戦(いくさ)を繰り広げた茶々の一生をドラマチックに描いた豪華絢爛(けんらん)時代絵巻だ。本作で茶々を堂々と演じ切った、元宝塚男役のトップスター和央ようかと、戦国時代を戦い抜き、天下人となった秀吉を演じた渡部篤郎。2人に波瀾(はらん)万丈の時代を生きた茶々と秀吉のことや映画の見どころについて話を聞いた。
茶々が命を賭けて守りたかったもの
Q:戦国時代は、女性たちが人生を自分で選択できません。そんな時代に生きた茶々という人についてどう思いましたか?
和央:本当にすごい女性だと思います。強いし、聡明(そうめい)な方だと思いました。
Q:そんな茶々が最後に自分で選んだのが、家康には屈せずに闘って死ぬという道でした。そこまでして茶々は何を守りたかったのでしょうか?
和央:“城”だったと思います。最後に大坂城が炎に包まれて、茶々が城の上から大阪の町を見下ろすシーンを撮影しているとき、秀吉が大坂城の模型を見ながら茶々に説明する場面が頭に浮かんできて、撮影中ずっと頭から離れなかったんです。そのとき、あの城は“秀吉そのもの”だったと思いました。
Q:男性にとっては、戦国時代は“天下を取る”という野望を持ち、闘うという男のロマンをかきたてられる時代だったと思います。見事に天下を取った秀吉を演じることは楽しかったのでは?
渡部:秀吉について書かれている歴史小説はたくさんあると思いますが、今回演じるにあたって、史実に基づいた歴史書を読んでいったんです。歴史小説だと勇ましさや立ち振る舞いなどインパクトが強く描かれていますが、史実の方は、秀吉はそのときこういう気持ちだったであろうといったことが書かれているんです。すると今まで描かれてこなかった秀吉像がたくさん見えてきて、そこからは僕の感覚でこういう人間的なところがあるんだなと膨らませていきました。今回の映画ではそういう秀吉個人の感情の部分が多かったので、それを演じられたのが楽しかったですね。
渡部篤郎が語る和央ようかの魅力
Q:京都太秦撮影所での現場会見のとき、渡部さんは和央さんのことを「とても女性らしい人です」と言っていましたが、和央さんのどんなところが女性らしいと思いましたか?
渡部:声です。舞台に立っているときはもちろんですが、普段の声がとても女性らしくていい声だと思いました。
Q:渡部さんが「とても女性らしい」と言ったとき、和央さんはとてもうれしそうな表情を浮かべていましたが、どんな気持ちでしたか?
和央:わたしは普段「男前」だとか、「男らしい」とか言われることが多いので、とてもうれしかったです。わたし自身は自分の声は苦手なのですが、欠点は長点ということでしょうか。
Q:茶々から見た秀吉の魅力はどんなところですか?
和央:存在がとっても大きくて、優しくて、でも切ない。こんな言い方をすると渡部さんにちょっと失礼かもしれませんが、どこかかわいらしい人だと思います。
Q:では秀吉から見た茶々の魅力はどんなところですか?
渡部:今回、僕は脚本がとても素晴らしいと思ったんです。茶々の人間像がしっかり描かれている。でも、なかなか台本どおりに演じられないのが俳優のつらさだったりして……。それをきちっとクリアすることが一番難しいと思うんですよ。そこを和央さんは見事に演じ切っている。茶々という女性の「一つの城を守る」という強さを素晴らしく表現されていたと思います。
Q:秀吉がほかの側室に会いに行ったら、そこに茶々がいて秀吉があわてるシーンが、とてもユーモアがあって面白かったです。その場面について、撮影中のエピソードがあったら教えてください。
渡部:秀吉が歌うのは万歳楽(まんざいらく)の一部です。ああいうシーンは苦手なので、かなりけいこをしました。
和央:わたしは秀吉さんに引っ張られるだけでしたので楽しかったし、実際、本当に笑っていました。カメラはわたしを追っているので、もしわたし側の目線でカメラが合ったら、観客の方がもっとすてきな秀吉さんが見られたはずです。だから一番おいしい思いをしたのはわたしだと思います。あのシーンだけではなく、ほかの場面でも、格好良くて大きくて素晴らしいんですが、どこか男性ならではのかわいいところが、渡部さんの秀吉からにじみでていたと感じます。
茶々の強さ、それは秀吉への愛
Q:茶々という女性の“生き方”についてどう思われましたか?
和央:とても波瀾(はらん)万丈な人生を送った女性だと思いますが、考え方は現代女性のようだと思いました。個人的にはとてもあこがれています。自分の運命に一生懸命立ち向かって、何事にも真摯(しんし)な態度で対応している。たとえば、秀吉とのシーンでも常に女性が一歩も二歩もさがって……という関係ではありません。秀吉と一緒に物事を見つめて、一緒に戦っている。この時代の女性はまるで物のように扱われ、後ろにさがって、こらえていました。確かに茶々もこらえている部分はあるかもしれないですが、そんな中でも自分に正直に生きた方だと思います。
渡部:最初は秀吉を殺そうとするくらい秀吉のことが嫌で嫌でしょうがなかった。でも豊臣家に入って、子を生み、母親となって最後は城を守るために戦う。その愛の強さ、豊臣家への愛の強さに感動しました。
和央:秀吉さんへの愛だと思っています。豊臣家への愛だけだったら、高島礼子さん演じる大蔵卿の局の方が強いですよ(笑)。
渡部:あの大蔵卿の局の最期は壮絶でした(笑)。
Q:最後にこれから映画をご覧になる方にメッセージをお願いします。
和央:合戦シーンや大坂城の炎上など迫力あるシーンが多く、ぜひ大きいスクリーンで観ていただきたいと思います。時代劇ならではの情緒あふれる場面などもありますし、見どころ満載の映画です。
渡部:時代劇とはいっても、最後には茶々、お初、小督(おごう)の三姉妹の話になり、それぞれの個人の思いが描かれるので、非常に見やすいと思います。秀吉の部分でいうと、茶々との関係を通して、一個人としての秀吉が表現されていて、そこが良かったと思うので、きっと観客の方に共感していただけるのではないでしょうか。
“淀殿”と呼ばれた茶々は、今まで悪女として描かれることが多かったが、本作はそんな従来のイメージを覆す茶々像が描かれている。特に、「秀吉への愛」という和央の言葉に、映画の中で茶々が取った行動を理解できた気がした。決して弱音を吐かずに自分の人生をすべて受け入れる彼女の強さも、愛する人があってこそだったと思うと、戦国時代の女性がとても身近に思えてしまう。そんな茶々の生き方に、現代の女性たちもきっと共感を覚えるに違いない。
『茶々 天涯の貴妃(おんな)』は全国公開中