『JOHNEN 定の愛』杉本彩 単独インタビュー
体で考えて子宮で感じる、それが女の情念
取材・文:シネマトゥデイ 写真:田中紀子
昭和11年に、世間を震撼(しんかん)させた猟奇殺人“阿部定事件”。これまで数多くの女優が演じてきた阿部定に挑戦するのは、映画『花と蛇』でなまめかしい演技を見せた杉本彩。個性的な映像を手掛けてきた望月六郎監督とタッグを組み、“総天然色ポルノグラフィー”『JOHNEN 定の愛』を作り上げた。衝撃的な殺人を犯した阿部定に、長い間シンパシーを感じてきたという杉本に阿部定について、そして女の情念について語ってもらった。
これはわたしがやるべき映画
Q:この作品のどの辺に魅力を感じましたか?
わたしは、若いころから阿部定さんの生き方や感性に大変興味があったんです。昔から頭の片隅に彼女の存在がどこか気になる対象としてあったんですね。最初に脚本を読ませていただいたとき、これは今まで観たことのない阿部定さんの映画になるんじゃないかと思いました。ただ事件を追いかけるだとか、ただ彼女のキャラクターを描くというだけのものではない。そういった脚本の面白さと、前から気になっていた彼女の存在があったので、これはわたしがやるべき映画なんじゃないかって……(笑)。本当に運命的なものを感じたんです。それで、何の迷いもなくやらせていただこうって決めました。
Q:彼女の存在を知ったときの印象を聞かせてください?
20代前半のころ彼女の存在を知りました。若いときは、こんなに情熱的に人を愛するってすごいと、ただただすごいという思いあるのみ、といった感じだったんです。でも今の年齢になって改めて考えてみるともっと深く、なぜそこまで人を愛するエネルギーがあるんだろうと、そこまで人を愛する感覚ってどういうものなんだろうって、そういった感情の方にどんどん興味がわいてきて、知れば知るほど魅力的な人物だと思いました。
Q:彼女の起こした事件についてはどうでしょうか? 理解することはできますか?
もちろんわたしはそういった事件を起こしたことはありませんが(笑)、一歩間違えればそれぐらい狂気を含んだ愛に変わることって想像できます。そこまで極端に自分の人生を犠牲にして人を愛するということはありませんが、わたしの中には彼女と同じような狂気を含んだ情念が確実にあると思います。
女の情念はコントロール不可能
Q:杉本さんの考える「女の情念」とは何ですか?
頭では理解しにくい、頭で何かを考えて自分をコントロールしていくことができなくなるのが女の情念だと思います。理性的じゃないというか、体で考えて子宮で感じて、自分ではどうしようもないコントロール不可能なもの。それが女の情念だと思います。
Q:杉本さんだからこそできる阿部定像とは?
彼女の愛に対する価値観や彼女が求めていた本質的なこと、彼女の考えている愛というもの、彼女が何を感じて何をしたかということをわたしが代わりに伝えることが出できるんじゃないかと思いました。それぐらい瞬間瞬間で彼女と共鳴し合えるような、そんな部分があるんです。ですから彼女を演じるという意識よりは、どちらかというと本当に彼女の代弁者になろうと思ったんです。
Q:ラブシーンがとても美しかったです。特に意識されたことはありますか?
やはり自分の肉体を美しく保つということは必要不可欠ですね。いかに自分に対して客観性を持つかということですよね。例えば官能的な表情をしている自分、官能的な動きをしている自分を、もう一人の自分が客観的にそれを見ているので、人が自分をどういうふうにとらえているだろうということが、常にわかっているんです。つまり、すべては自分の計算のもとにある動きなんです。
Q:肉体的にも精神的にも、とても大変だったと思いますが、精神的な準備は何かされましたか?
あれだけたくさんの方に囲まれて演じたラブシーンは、やっぱり大変でしたね(笑)。ああいうシーンに挑むときっていうのは、思いっきりのよさを必要としますし覚悟みたいなものも必要なんです。わたしは惜しみなく自分の身を映画に投じたいと思っています。
エロスに対する絶対条件
Q:ご自身が考えるエロスとは何ですか?
わたしが表現したいエロスというのは、上級で上質でないと嫌なんですよ。だって、悪質で低俗なものっていうのは世の中ゴロゴロしていますよね。そうではなくて、映画という一つの芸術を通して表現していくのだったら、やっぱり本当に高級で上質であるというのがわたしの中の絶対条件ですね。
Q:内田裕也さんとの白熱の共演シーンが迫力満点でした。
あのシーンは役者同士の戦いでした。わたしが全身全霊で挑むから、一緒に映画を作る共演者も全身全霊で挑んでくれますし、そういった心と心がぶつかり合って生まれてくるのがいい現場なんですよね。それは本当に、やりながらどんどん変わっていったところです。だから、内田さんも全身全霊で挑んでくださったっていうのが本当にうれしくて、とても触発されました。
Q:ラストシーンは、とても難しかったと思いますが、杉本さんはどのようにとらえて演じられたんですか?
監督からの説明はすごく難しかったんですよね。でも監督がそこで何を表現したいかっていうことを、感覚的によく理解できたんです。自分の体内に愛する人をとり込みたいという強烈な愛が具体的に映像化された結果が、あのシーンなんじゃないかと思います。言葉で表現するとか、抱き合って表現するとかって限りがありますよね。でも、愛に対してのもっともっと深い部分というものを、監督は何かの手段で表現したかったんだと思うんですね。だからあのラストは、彼のすべてを自分が奪ったということへの驚きや歓喜が混ざった、非常に重要なシーンだったと思います。
杉本流、永遠の愛を得る方法
Q:観客の皆さんにはどのようにこの作品を楽しんでもらいたいですか?
親切で優しい映画ではないです。それぞれ観た方が自分の感性でいろんな風に感じてとらえてくださればいいと思います。その中で一つ共通して感じていただければいいなと思うのが「たとえ肉体が滅びても魂は永遠で、愛は永遠に行き続ける」ということ。それが、作品の一番大きなテーマなんです。魂は時空を超えて行ったり来たりする、永遠で不滅だということを強く感じています。
Q:阿部定は愛するあまりに、殺人を犯してしまいましたが、彼女のような方法を取らずに、一生一人の男性を独占する方法はありますか?
結婚は何の保障もないですからね(笑)。それは思い込みっていうか、勘違いですよね。どうやって愛をまっとうし成就するんだろうと考えると、とても難しいです。でも一つ言えるのは、やはりひたすら愛を与え続けることじゃないでしょうか。多分、愛されることばかり考えていると、愛は終わってしまうと思うんです。愛を与え続け、相手のために何ができるか考え続け、彼のために何かしら犠牲にできるかというぐらいの覚悟を持って愛し続けることっていうのが、永遠の愛を手に入れる一番の秘けつだと思います。無条件に愛し合うって、とても難しいことだとは思うけどやっぱり無条件でなければ愛とは呼べないと思うし、条件つきの愛なんて成立しないと思います。
自分の中には、阿部定と通じるような情念があると話した杉本。彼女の燃えるような瞳からは、どこか狂気めいた情念が伝わってきた。総天然色ポルノグラフィーと聞くと、女性はつい足を止めてしまうかもしれないが、女性だからこそ観るべき映画なのではないだろうか。理性的な愛ばかりを求めるのではなく、一度は情念に突き動かされるような激しい愛を体験したい。杉本の情熱的な演技は、そんな気持ちにさせてくれるはずだ。
映画『JHONEN 定の愛』は5月31日より全国公開