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『ぐるりのこと。』リリー・フランキー 単独インタビュー

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『ぐるりのこと。』リリー・フランキー 単独インタビュー

自分の仕事をあきらめてサボっている人が、人一人守れるなんてうそ

取材・文:シネマトゥデイ 写真:田中紀子

『ハッシュ!』で日本のみならず、海外からも注目を集めた橋口亮輔監督が、6年ぶりにメガホンを取った映画『ぐるりのこと。』。ある夫婦が苦難を乗り越えながら人生を共に歩んでいく姿を、橋口監督の温かい視線で描いた本作で、どんなときでも優しく妻を見守る夫を演じたのはリリー・フランキー。コラムニスト、イラストレーター、構成作家、そして写真家と、さまざまなジャンルで活躍する彼が、初めて挑んだ映画主演について語った。

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映画初主演にしてオールヌードを披露

リリー・フランキー

Q:ご自身の姿を初めてスクリーンで観た感想を聞かせてください。

役者さんは最初に自分の映画を観るとき、自分のことが気になってほかのことがあんまりよくわからないものだといいますが、自分が出ていたことはあまり気にならなかったですね。

Q:リリーさんが演じたカナオという人物に感情移入はできましたか?

監督が台本を書いたときに僕に似ている部分があるから、ということだったんですよね。細かいことはいっぱい違うところもあると思うんです。例えば彼の好きな人に対する接し方や価値観、社会との距離感とか……そういうところが似ていると思います。

Q:役者って大変だな……と感じたことはありましたか?

一番大変なのは早起きですね。演技に関して言えば映画は監督のものですから、監督の言うことを聞いて、監督の思いに近付けようと思いました。精神的なプレッシャーは全然ありませんでしたよ。

Q:オールヌードのシーンもありましたが……。

ヌードは全然大丈夫です。脱げと言われればいつでも脱ぎますから。それよりラブシーンの方が照れくさいですよ!

リリー・フランキーが考える夫婦像

リリー・フランキー

Q:夫婦を演じた、木村多江さんとの共演はいかがでしたか?

木村さんはすごく優しい方なので、本当に僕がやりやすいように受け入れてくださいました。木村さんだったから自然にできた部分があると思いますね。

Q:心が温かくなるようなシーンもたくさんありましたが、お気に入りのシーンやセリフはありますか?

何でもない夫婦のしぐさが好きですね。一緒におうどんを食べていたりとか、奥さんの洗濯を手伝ったりだとか……。あとセックスに対してすごく前向きに考えているところも好きですね。

Q:この2人は、新婚当初セックスを週3回って決めていましたよね? こういう経験はリリーさんにもありましたか?

決めたことはないですけど、週3回以上はしたいと思いますね(笑)。

Q:リリーさんは現在独身でいらっしゃいますが、これで結婚観は変わりましたか?

変わりました。結婚がこんな風にちゃんとつながっていられる関係だったら、不安じゃないですからね。皆不安なまま結婚しちゃうから、失敗するんですよね。

いい男とはあきらめずに戦う芯の強い男のこと

リリー・フランキー

Q:撮影中、楽しかった思い出はありますか?

撮影は毎日楽しかったですよ。いつも自分がいる殺伐とした職場と違って、皆さんすっごく優しくしてくれたし(笑)。みんなでものを作っているという感覚がありました。

Q:ではまた映画に出たいと思いますか?

そんなに積極的ではないですけどね……。でも、いいものってこういう風に作るんだなっていう、ものの作り方が勉強できて、今回はすごくいい経験をしました。

Q:妻がうつ病になってしまう部分はとてもつらかったですが、奥さんがあんな大変な状態になったら、逃げ出す男の人もいるのではないでしょうか?

僕はこの2人はすごく普通の夫婦だと思っています。奥さんが、あんな大変なのに逃げ出す人の方が珍しいと思いますよ。僕も自分の付き合っている人がおかしくなったりしたことありますけど、そういうときは仕事の途中でも帰りましたもん。

Q:2人はなぜ、何があっても別れず一緒にいるのでしょうか。

特にこの2人の関係が特別なわけではないと思うんです。といっても現代では少ない例で、だからこそ映画の主人公になるのであってすごく皮肉な話なんですけどね。この夫婦がすごいのは、周りに何を言われても振り回されないんですよね。でも今のカップルや夫婦って、大切な人が言ってくれていることよりも、いい加減なヤツがメールで言ってくることの方に対して、「この人わたしのこと理解している」なんて思うじゃないですか。相手の悪いところばかり探して自分のことは棚に上げて、次の人を見つけて、気に入らなかったらまた次を見つけて……ってねじれたままでスタンダードになっていますよね。

Q:リリーさんが考えるいい男って、どんな男性ですか?

あきらめずにちゃんと戦っている人ですかね。守ってあげるとか、救ってあげるとか、口で言うのは簡単です。自分のことも適当で、自分の仕事をあきらめてサボっている人が、人一人守れるなんてうそだろう、女はだませても男が聞いたら、お前にできるわけないだろうと……。そういうことをできもしないくせに口にする人っていうのは、うようよしていると思いますけどね。芯(しん)の強い人ってそういうことを簡単には口にしないんじゃないですかね。


リリー・フランキー

どんなことにも流されず、目の前にいる大切な人と、ちゃんとつながろうとしていれば、その人とはいつまでもつながっていられる……。そんなことを学ばせてくれる本作。作品の中でカナオと妻の翔子は、どんなことがあってもちゃんと手をつないでいた。そしてスクリーンの中で印象的なのは、カナオが翔子を見つめる優しい目だ。カナオの優しい空気感を、リリー・フランキーはそのまま持っていた。人とちゃんとつながることができるリリー・フランキーが自然体で演じた、夫婦像をぜひ観てもらいたい。

『ぐるりのこと。』は6月7日よりシネマライズほかにて全国公開

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