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一般の映画ファンは、華やかなハリウッドの裏を仕切っている映画ビジネスについてまでは知る機会が少ないのではないでしょうか? ビジネスなどというと、ちょっと取っ付きにくい印象を受けますが、
プレイヤーと呼ばれる映画界の有力者たちが主役の業界舞台裏は、ポーカーにも似た取引が絶え間なく行なわれ、スリルとサスペンスに満ちたゲームが, 日夜繰り広げられています。大作映画を1本作るのに1億ドル(約106億円)などという国家予算並みの製作費が導入される最近では、ゲームのリスクも非常に高くなってきています。だけどリスクが高いほどワクワクするのがギャンブルのミソ。大金をつぎ込むからこそ、賞金もすごい! つまり製作された映画が大ヒットすれば、資金を投資した人たちの元へ転がり込んでくる報酬もまた、国家予算並みなわけです! 個性の強い人間たちが集まり、巨額なお金が動く映画業界。そこから飛び込んでくるニュースは、連日ドラマに満ちあふれていて、ワクワクしてきます。というわけで、今日はちょっと業界オタクになって、映画業界舞台裏に侵入しちゃいましょう! これを読めばアナタも業界通になれるかも(!?)。 |
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実は現在のハリウッドで注目を一身に集めているドラマの主人公がいます。それは、泣く子も黙るスティーヴン・スピルバーグが率いる映画会社ドリームワークス! 皆さんはスピルバーグのドリームワークスがパラマウント・ピクチャーズの傘下であるということをご存知でしょうか? つまり天下のスピルバーグでさえ、映画作りにあたってはパラマウントにおうかがいを立てずに前進できないという状況を強いられているのです。 1994年の創立以来ビジネスは好調で、一時期はロサンゼルスの海辺に広大な敷地を買い取りハイテクなスタジオをオープンするという計画もあったほどなのですが、ドリームワークス音楽部門(レコードレーベル)の失敗やビデオゲーム部門の売却などで事業が徐々に下り坂に……。 決定打となったのは、ブラッド・ピットをはじめとする豪華な声のゲストが話題となったアニメ大作映画『シンドバッド
7つの海の伝説』と、ユアン・マクレガーとスカーレット・ヨハンソンの共演に、とマイケル・ベイ監督が名を連ねたSF大作映画『アイランド』の大失敗にありました。特に『シンドバッド
7つの海の伝説』で被った赤字は1億2,500万ドル(約130億円)に上るといわれており、スピルバーグ陣営を絶体絶命のピンチに追い込んでしまったようです。 |
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二つの大作の大失敗により倒産寸前となったドリームワークスは、社名を存続させ、窮地から脱出するため、苦肉の策として、2005年12月にパラマウント・ピクチャーズに16億ドル($
1.6 billion) でドリームワークスの期間前提売却を決意します。 表面上は、パラマウントとの提携は順風満帆といった様相を呈し、『シュレック』シリーズで大成功を収め、現在続編撮影中で去年夏の超ヒット作『トランスフォーマー』、そして間もなく日本でも公開される全米大ヒットアニメ作品『カンフー・パンダ』など、ドリーム・ワークスとパラマウントはベストカップル! という感がありました。 しかし、残念ながらスピルバーグとパラマウントの仲はシックリいっていなかったようで、(実のところ、両者の不仲説は業界の知る人ぞ知るところとなっていました)、今年末に、期間前提売却の契約が仮切れするということで、スピルバーグ陣営は早速パラマウントから独立へ向けての動きを開始したのです。 さて、この仮切れとは、なんなのでしょう? 本来ならば、ドリームワークスは、2010年までパラマウントと一緒……という契約なのですが、そこは何が起こるかわからない映画業界。ドリームワークスを売却した際に、スピルバーグ側の弁護士が手際よく、「エスケープ条項」と呼ばれる「免責条項」を組み込んでおいたのです。それは、「もしパラマウントと別れたいのなら、慰謝料(=契約早期破棄料)を支払えば、出て行ってもOK!」という条項です。さすがはハリウッド。離婚を見込んでの契約書です。今日の味方は明日の敵……なんていうことがザラにあるこの世界。さすがスピルバーグ陣営、抜かりがありません。 |
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さてここで皆さんに質問。監督たちがインディーズと呼ばれている独立制作を好む一番の理由は一体何なのでしょう? この答えこそが、ドリームワークスを独立に駆り立てた要因となっているのです! 大手のスタジオが絡むと、映画のネームバリューも上がり、製作費も上限枠が上がるので大型作品も制作しやすくはなるのですが、それと同時にお金を出資しているのはスタジオ側ということで、クリエイティブ面にもあれやこれやと口出しをしてくる人が、一気に増えてくるのが常です。スピルバーグ級の監督になると多少状況は緩和されますが、製作費が上がれば上がるほど、スタジオが占める権限も強くなり、例えば大型作品への主演俳優決定権、あるいは映画完成後のファイナルカット(劇場公開版)決定権の最終権限が監督にあるのは非常にまれなこと。YES、NOの采配を振るうのは、現場にいる者ではなく、スタジオのお偉方なのです。台本の一言一句にもスタジオ側から厳しいチェックが入ることもまれではありません。撮影当日まで脚本の最終稿が届かない……なんていうのはこういう状況からなんですね。創作に重点を置きたいクリエイターたちとってこれはまさしく頭痛の種! でも残念ながら、スタジオ制作において、この過程は仕方のないことなのです。 ということで、こういう理由からフィルムメーカーたちはインディーズを好む人が多いんです。独立制作になると、資金出資者のパワーは存在するものの、スタジオ絡みの制作過程と異なり、
監督を筆頭にクリエイターたちのビジョンに近い純粋な映画を作れる環境ができるというわけです。 |
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さて、インディペンデントになるにあたって一番重要になってくるのはビジネス資金の調達です。今回パラマウントからの独立宣言と同時に、ドリームワークスが関係者たちを一番驚かせたのは、出資元最有力候補の相手として、ハリウッドではほとんど無名の企業を選んだことです。おまけにその会社はアメリカの企業ではなくインドにある大企業。リライアンス社という名のこの大企業は、インドでは非常に有名で企業で、メディア界の巨匠的な存在です。インド最大の映画会社からフィルム・ラボ、そして衛星並びに地上波のテレビ局まで、メディアのありとあらゆる分野に手を伸ばしている企業なのです。 7月3日時点でまだ契約はまとまっていないものの、リライアンス社はドリームワークスに対して5億ドル(約500億円)から6億ドル(約600億円)の資金提供を検討中とのことで、スピルバーグ陣営は、これに加えてもう5億ドルから6億ドルを別方面より調達してくるという話もあり、着々と脱パラマウントへの道を歩んでいるようです。うわさによると、ほかの大手スタジオのFOXやユニバーサルと作品配給契約をとりつけることで、資金の拡張を狙っているという話もあります。ただ以前に、日本の松下電器産業がユニバーサル・スタジオを買収した際に散々な結果に終わったため、リライアンス社とドリームワークスの提携に難色を示している関係者も少なくなく、「いくら最近頭角を現してきているインドの映画業界とはいえ、松下とユニバーサルの二の舞になるのでは……」という懸念の声も上がっているようです。 いずれにせよスピルバーグ陣営は、夏いっぱいかけて新契約の話を詰めていく方向であり、年末にかけてこれからドリームワークスがどのような形で移行、そして成長していくのかが非常に楽しみです! 取材・文 神津明美 /
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