コンペティション部門15作品紹介!
第21回東京国際映画祭
今年も東京が映画祭一色に染まる日がやってきました! 世界各国から寄せられた690作品の中から、15作品がコンペティション部門に選出。そのうち監督デビュー作が6本を占めるというフレッシュな顔ぶれ。本年度の審査委員長はアンジーパパこと俳優のジョン・ヴォイトが務め、最高賞の東京サクラグランプリの発表は10月26日(日)、Bunkamuraシアターコクーンで発表されます。
【 東京国際映画祭速報 】
英題 : Echo of Silence
製作国 : 日本
監督 : 渡部篤郎
ストーリー : 北海道の由仁(ゆんに)で父親と暮らす冬沙子は、休業中の遊園地で渉と出会う。ろうあ者の渉と冬沙子の恋がゆっくりと、静かに始まっていく。そんな中、冬沙子は勤務先の牧場で落馬し数日間の記憶を失ってしまい……。
人気俳優の渡部篤郎が長編初監督に挑んだラブストーリー。NGなしで撮影を行い、その瞬間に起きる自然現象や俳優同士の間までをそのままカメラにとらえた野心作。脚本に映画『いま、会いにゆきます』の岡田惠和、ヒロインに高岡早紀を迎え、渡部本人がヒロインの相手役も務める。本映画祭がワールド・プレミアとなる。
英題 : School Days with a Pig
製作国 : 日本
監督 : 前田哲
ストーリー : ブタを飼い、飼育をした後、自分たちで食べるという実践教育を新任教師が始めた。“Pちゃん”と名付けられた子ブタを飼育した26人の生徒たちが、卒業時に出した答えは、Pちゃんを食べる? それとも?
“食育”や“いのちの授業”の大切さが叫ばれる前のこと、教師による賛否両論を呼んだ実践教育の実話を基に映画化。映画『パコダテ人』『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙(そら)へ』の前田哲監督の10作目。子どもたちには合宿を課し疑似体験させ、ドキュメンタリー調のドラマに仕立てた。生徒たちのディベートは名シーンであり、妻夫木聡が初の教師役を務めていることも見逃せない。
アンナと過ごした4日間
原題 : Cztery noce z Anna
製作国 : フランス、ポーランド
監督 : イエジー・スコリモフスキー
キャスト : アルトゥール・ステランコ、キンガ・プレイス
ストーリー : ポーランドの片田舎の病院で働くレオンは看護師のアンナがレイプされた現場を見てからというもの、アンナのことが気になり始める。夜になるとアンナの部屋をのぞくようになり、ついに窓から部屋に侵入してしまう。
ロマン・ポランスキーの盟友で、ポーランドの巨匠イエジー・スコリモフスキー監督の17年振りの新作。映画『イースタン・プロミス』でナオミ・ワッツの叔父を演じるなど、最近では俳優としての活動が目立っていたが、本作はカンヌ国際映画祭監督週間のオープニングを飾り高い評価を得た。ある女への男の妄想をダークでサスペンスフルなタッチで描き、観る者を極度の緊張に陥れる。
親密
原題 : 親密
製作国 : 香港
監督 : アイヴィ・ホー
キャスト : カリーナ・ラム、イーキン・チェン、アンディ・ホイ
ストーリー : 家族よりも友人よりも長い時間を過ごす職場。パールは、上司のトムにいつしか恋心を抱くように。だが、トムには奥さんがいて……。
映画『ラヴソング』『アンナ・マデリーナ』など切ないラブストーリーを生み出す香港の女流脚本家の監督デビュー作。外国映画(コンペ中)唯一の恋愛もの。社内恋愛の結末から始まりにさかのぼる構成で描く。本作の英題『Claustrophobi』は閉所恐怖症の意味で、車内など閉所でのシーンも際立つ。大ヒット映画『欲望の街』シリーズのハンサム俳優イーキン・チェンが俳優業に本格復帰!
ハムーンとダーリャ
原題 : Hamoon-o-Darya
製作国 : イラン
監督 : エブラヒム・フルゼシュ
キャスト : メラン・ゴルモハマドザデ、マーブベ・シャーケリ、ミラ・ハタミ
ストーリー : 砂漠の町で恋に落ち、結婚を夢見る若い男女。しかし、2人が結ばれるには、危険な旅を踏破しなければならない。彼女との結婚のために、青年は旅に出る決意をする。
1987年、イランを代表する映画監督、アッバス・キアロスタミが脚本を書いた映画『鍵』で監督デビューしたエブラヒム・フルゼシュ。寡作ながらロカルノ国際映画祭をはじめ、国際映画祭での輝かしい受賞実績を持つ実力派。本映画祭での公開がインターナショナル・プレミアとなる。
8月のランチ
原題 : PRANZO DI FERRAGOSTO
製作国 : イタリア
監督 : ジャンニ・ディ・グレゴリオ
キャスト : ジャンニ・ディ・グレゴリオ、ヴァレーリア・デ・フランチシス、マリーナ・カッチョッティ
ストーリー : 結婚できない中年男のジャンニは、ローマの古いアパートに母親と2人暮らし。8月15日聖母被昇天祭の前日、彼は滞納中の家賃と引き換えに大家の母親を預かる。気付けば4人の老婆が家に。思わぬ“ババ”を引き……。
90歳以上の素人女性をキャスティングし、社会問題の一つである後期高齢者の孤独という重いテーマを軽快なタッチで描く。原題は「8月15日の昼食」で、この時期はクリスマスや復活祭同様にイタリア人の大半はバカンスに出掛けて留守の時期。ゆえに街に残るのは、(かわいいというより)老醜むき出しの老人たちばかり。カンヌ国際映画祭グランプリ作、映画『ゴモラ』の共同執筆者が、主演も務めた監督デビュー作。
オーシャン
原題 : Okean
製作国 : ロシア、キューバ
監督 : ミハイル・コズィリョフ・ネステロフ
キャスト : ホルヘ・ルイス・カストロ、モンセ・ドゥアニー・ゴンサレス、アリ-ナ・ロドリゲス・ルイス
ストーリー : 恋に破れたジョエルは大都市での成功を夢見て、キューバの首都ハバマへとやってくる。ボクシングで一旗揚げようと必死になるジョエル。ある日、昔の恋人のマリセルに偶然再会し、過ちを犯してしまう。
キューバの美しい海を背景に、若者の恋と成長を描く青春ドラマ。ロシア・フィルム・アカデミーで映画を学び、プロデューサーとしてあらゆる映画に携わってきたネステロフ監督のデビュー作。ロシア人の監督がキューバに赴き、熱く濃いラテンの青春を切り取る。本映画祭での披露がインターナショナル・プレミアとなる。
プラネット・カルロス
英題 : PLANET CARLOS
製作国 : ドイツ
監督 : アンドレアス・カネンギーサー
キャスト : マリオ・ホセ・チャベス・チャベス、クリステル・ソフィア・サンチェス・エルナンデス、キャサリン・メルセデス・モリーナ・セラジャ
ストーリー : ニカラグアの農村部。母と姉妹と暮らす、13歳のカルロス。彼は家計を助けるためにアルバイトをするが、生活苦からは抜け出せない。そして自分の成すべきことと、自身の夢との板ばさみに悩む。
中米ニカラグアに1年間滞在したカネンギーサー監督は、同国で撮影するドキュメンタリー映画『ストリート・オブ・チルドレン』の企画を思いつく。その後、熟考しドキュメンタリーとドラマとの境を明確にしないスタイルにこだわった。初監督ながら、ニカラグアの素人をキャスティングし、第三世界の人々のリアルな日常に密着。監督のわが子に対する思いや、未来の子どもたちへのメッセージを込めたという。本映画祭での披露がインターナショナル・プレミアとなる。
パブリック・エナミー・ナンバー1(Part1&2)
原題 : Mesrine:L'Ennemi public n°1 / L'Instint de mort
製作国 : フランス
監督 : ジャン=フランソワ・リシェ
キャスト : ヴァンサン・カッセル、セシル・ド・フランス、リュディヴィーヌ・サニエ
ストーリー : 1960年代から1970年代初頭、パリで強盗を働いたジャック・メスリーヌはカナダ、アメリカへと逃亡を図り再び犯罪を繰り返すのだった(Part1 『L'Ennemi public n°1』)。
カナダで「最大の民衆の敵」となったメスリーヌはフランスへ帰国。警察の追手から逃れようとするが……(Part2 『L'Instint de mort』)。
フランスの犯罪史上でも類を見ない大強盗ジャック・メスリーヌの逃亡劇を映画化した、今秋のフランス最大の話題作。主演のヴァンサン・カッセルは、役作りで体重を20キロも増量。腹回りにでっぷりと肉をつけて、迫力満点にメスリーヌを演じる。また、ジェラール・ドパルデューやマチュー・アマルリックなど名優たちの共演も見逃せない。本映画祭では2部作を一挙上映。
ダルフールのために歌え
英題 : Sing for Darfur
製作国 : オランダ、スペイン
監督 : ヨハン・クレイマー
キャスト : ペール・モリナ、メリーナ・マシューズ、ビッキー・ペニャ
ストーリー : この日、バルセロナではダルフール紛争救済コンサートが開かれる。しかし、早朝から深夜まで相も変わらず忙しく過ごしている人々にとって、コンサートのせいで起こる渋滞のほうが気にかかり、遠くの国のことを想像したり構っている暇などないようで……。
2002年サッカーFIFAランキング最下位決定戦を追ったドキュメンタリー、映画『アザー・ファイナル』を監督したオランダ人クリエイターのヨハン・クレイマーによる一風変わった群像ドラマ。他者や国際情勢に無関心な都会の人々の行動を冷静に見つめ、時間についてモノクロの映像で問いかける。本映画祭での公開がインターナショナル・プレミアとなる。
超強台風
製作国 : 中国
監督 : フォン・シャオニン
キャスト : ウー・ガン、ソン・シャオイン、リウ・シャオウェイ
ストーリー : 中国では国家標準で地表における最大風速が秒速51.0メートル以上を超強台風と分類している。あるとき前代未聞な規模の台風が中国近海に発生。市長は警戒対策を推進する。だが、市民はパニックになり……。
中国の名門、北京電影学院出身のシャオニン監督。同期には(別学科ながら)チェン・カイコーやチャン・イーモウ、フォ・ジェンチイ(今年のコンペ審査員)という、名匠たちがいる。フォン監督自身は戦争ものなど歴史劇を得意としており、低予算にして独自のスタイルを確立。それゆえ万人受けし難い面もある。ところが、今回のテーマは環境問題。初のディザスターものながら万人受けしやすい題材だ。
トルパン
原題 : TULPAN
製作国 : ドイツ、スイス、カザフスタン、ロシア、ポーランド
監督 : セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ
キャスト : アスハット・クチンチレコフ、サマル・エスリャーモヴァ、オンダスン・ベシクバーソフ
ストーリー : 兵役を終えてカザフスタンのステップ地帯に戻ってきたアサの夢は、父親と同じ羊飼いになること。結婚をして家族を持ちたいアサは、砂漠の先に住む羊飼い一家の娘、トルパンに結婚を申し込むが、アサの耳が大き過ぎることを理由に結婚を断られてしまう。
今年のカンヌ国際映画祭ある視点部門でグランプリを受賞した注目作で、監督は本作が長編劇映画デビューとなるカザフスタン人のセルゲイ・ドヴォルツェヴォイ。ドキュメンタリーでは実績があり、山形国際ドキュメンタリー映画祭でも映画『パラダイス』『ハイウェイ』の2本を上映。ステップ地帯の厳しい大自然の中、人々の温かさとユーモアがあふれ出す。
アンダー・ザ・ツリー
原題 : Di Bawah Pohon
製作国 : インドネシア
監督 : ガリン・ヌグロホ
キャスト : マルセラ・ザリアンティ、ナディア・サフィラ、アユ・ラクスミ
ストーリー : インドネシアのバリ島。それぞれ事情を抱えている3人の女性が人生を見つめ直す。19歳のニアンは60歳の男性に惹(ひ)かれる。27歳のマハラニは実母探し。40歳のデュウイは不本意な妊娠に悩む。
バリ島ならではの踊りと詩でつづる女性讃歌。短編やドキュメンタリー出身の鬼才、ヌグロホ監督は本映画祭とのつながりは深く、2006年の本映画祭コンペ部門の審査員を務めたことも。1994年に映画『天使への手紙』で第7回のゴールド賞を受賞し、その賞金2千万円からキャリアをスタートさせたという。また、1998年には映画『枕の上の葉』で審査員特別賞を受賞。過去の受賞実績からみれば、最有力候補といえるかも。
ハーフ・ライフ
原題 : Half-Life
製作国 : アメリカ
監督 : ジェニファー・ファング
キャスト : サノー・レイク、アレクサンダー・アゲート、ジュリア・ニクソン、レオナルド・ナム
ストーリー : 父親はいなくなり、若さへのこだわりを捨て切れない母親と母親の若い彼氏、そして19歳の姉パムと暮らす幼いティモシー。ちょっと変わった家庭環境が段々と崩壊し、ティモシーはストレスに追いやられていくのだった。
監督はアジア系アメリカ人女性で、本作が監督デビュー作となる。映画『JUNO/ジュノ』や映画『スキャナー・ダークリー』風なアニメーションを挿入しながらもドラマ性を失わない、新人とは思えない手腕を発揮しているという。多感な時期に大人の事情を察しつつ生きる姉と弟の心の葛藤(かっとう)を描くものと思われる。映画『ブルークラッシュ』レナ役のサノー・レイクが、姉のパメラを好演。本映画祭での公開がインターナショナル・プレミアとなる。
がんばればいいこともある
原題 : Aide toi et le ciel t'aidera
製作国 : フランス
監督 : フランソワ・デュペイロン
キャスト : フェリシテ・ウワシー、クロード・リッシュ、エリザベス・オポン
ストーリー : ヘルパーのソニアは、パリ郊外に住む美しいアフリカ系女性。娘の結婚式の当日、大事件が発生するが、頼みの綱は隣人の老人ロベールだけ。ソニアが前に進むには、運に身を任せるほかはなく……。
映画『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』のフランソワ・デュペイロン監督が、どこにでもありそうな普通の一家の母親に起こる惨事を切なくいとおしく描きだす家族ドラマ。フランス語の原題は「天は自ら助くるものを助く」の意のフランスのことわざ。映画『黒衣の花嫁』『陽だまりの庭で』のベテラン俳優のクロード・リッシュが、主人公の隣人役で出演している。