『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』マーティン・スコセッシ監督&ザ・ローリング・ストーンズ インタビュー
これは本当にマーティンの映画で、僕らは単なる主役にすぎない
文・構成:シネマトゥデイ
2006年秋、ニューヨークのビーコン・シアターで行われたザ・ローリング・ストーンズのライブを、ロックやブルースをこよなく愛するマーティン・スコセッシ監督が一流の撮影スタッフとともに脈動感あふれるステージや舞台裏をカメラに収めたドキュメンタリー映画『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』。今回、そのスコセッシ監督をはじめ、ザ・ローリング・ストーンズのメンバーに話を聞くことができた。
強力でパワフルなクリエイティブ・イメージ
Q:スコセッシ監督が、ドキュメンタリー映画を作ろうと思ったきっかけは何ですか?
マーティン・スコセッシ監督:ドキュメンタリーじゃないよ。ザ・ローリング・ストーンズのパフォーマンスをクリエーティブに閉じ込めた作品さ。最初に彼らの音楽を聴いたときに「いつか彼らを撮影してやるぞ」と思ったんだ。「いつか」ね(笑)。40年以上かかるとは思っていなかったけど……。あいまいな欲望の対象だったわけだ。
ミック・ジャガー:ドリームズ・カム・トゥルーだね!
マーティン・スコセッシ監督:そうだよ。それがいきなり実現した。だから、この作品を作るプロセスをとても楽しんだよ。撮影して編集するのは、すでに知っていたことを再び認識する作業だったからね。情熱とインスピレーションが沸いてきて、まるで若返るような体験だったよ!
Q:この作品は、監督の個人的な決断で作ることになったのですか?
マーティン・スコセッシ監督:すべての決断は個人的なものだ。映画を作るという決断も個人的なものだよ。ミックと僕は、長年一緒にプロジェクトをやりたいと話してきた。そして、彼らのショーを見るたびに興奮して、カメラを持ち込みたくてたまらなくなったものだ。だからある日その話をしたら、とんとん拍子に話が進んでね!
キース・リチャーズ:そう。これはマーティンの映画さ。僕は皆にマーティンが作った映画を観てほしい。誰かが「ザ・ローリング・ストーンズの映画を作りたい!」とか何とか言ってきても、僕は聞きたいとも思わないね。でもそれがマーティンとなると、いきなり面白い話になってくる。そうやって始まったわけさ。これは本当にマーティンの映画で、僕らは単なる主役にすぎないんだ。
Q:これまで、映画『グッドフェローズ』『カジノ』『ディパーテッド』と、ザ・ローリング・ストーンズの音楽を多用していますが、彼らの音楽のどこに惹(ひ)れるのでしょう?
マーティン・スコセッシ監督:彼らのサウンド、コード、ボーカル、全体の雰囲気が、僕に大きなインスピレーションを与えてきた。そして、それがほとんどの作品の土台となっているんだ。『ミーン・ストリート』から『レイジング・ブル』『カジノ』『ディパーテッド』に至るまで、彼らの音楽は常に僕をインスパイアしてきた。僕にとっては時代を超えた音楽なんだよ。彼らのライブを観る前に、すでに僕は音楽を聴いて頭の中で体験していた。実際のショーはもっとテンポが速くて違っていたけれどね。彼らの音楽は、僕の心の中では強力でパワフルなクリエーティブ・イメージだったんだ。
ミック・ジャガー:付け足しだけど、今回の作品は、唯一「ギミー・シェルター」(スコセッシ監督がよく使用するザ・ローリング・ストーンズの楽曲)が入っていないスコセッシ映画だよ(一同、爆笑)。
マーティン・スコセッシ監督:面白いことを言うね。すっかり忘れていたよ。また作らなくちゃいけないな(笑)!
ステージのライブパフォーマンスに迫る
Q:なぜ映画のタイトルを曲名の『シャイン・ア・ライト』にしたのでしょうか?
マーティン・スコセッシ監督:「シャイン・ア・ライト」はストーンズの中で僕が好きな曲のタイトルだけど、映画のタイトルは、ビーコン・シアターの一夜というところから来ているんだ。ビーコン・シアターが、一夜だけニューヨークを照らすという意味でね。
キース・リチャーズ:ビーコン・シアターだけど、あれは素晴らしい会場だね。
マーティン・スコセッシ監督:本当に素晴らしい空間だった。カメラを入れても、演奏の邪魔にならないように配置することができる会場だった。
Q:自分たちをスクリーンで見てどう思いましたか? 自分のパフォーマンスを気に入りましたか?
ミック・ジャガー:チャーリー、答えてやれよ(一同爆笑)!
チャーリー・ワッツ:オー! ファック! 気恥ずかしいが、とても美しく撮影されていると思うよ。おれの妻は「良かったわよ、ミックが素晴らしかった!」と言ってたぜ。それに音も良かった。こうやって聴こえていたらいい、と思っていた音が出ていたから、とてもうれしかったね。
キース・リチャーズ:自分の姿を見るのは嫌だな。映画としてではなく、自分の演奏部分が気になって、「あそこで一音飛ばしたな」とか、「あそこの音はちゃんと出なかったな」なんてことを無意識に考えてしまうんだ。その点、この映画は普通に楽しめたよ(笑)。
Q:あなた方は今や、有名人でお金も手に入れていらっしゃいますが、この映画でどのくらい儲かりそうですか?
ミック・ジャガー:少なくとも昼食代は払えるよ(笑)!
Q:何台ものカメラを投入してライブを撮っても、それは映像です。本作で映画という媒体の限界を感じましたか?
マーティン・スコセッシ監督:とてもいい質問だね。僕は、生のライブコンサートに限りなく近づけたかった。ライブコンサートの持つエネルギーをカメラに凝縮する形で。カメラの位置はとても重要だった。究極的には、編集の仕方やカメラの動きで良さが決まるからね。もちろんライブコンサートをそのまま伝えることは不可能だ。けれどもカメラワークや編集によって、限りなく近いイメージを作り、ディテールを伝え、うまくカットすれば、ポエトリー・モーション、つまり動きのある詩が出来上がると思うんだ。今回はフレームの中の動きで、ステージのライブパフォーマンスに迫ることができたよ。
ミック・ジャガー:それに、これはライブコンサートじゃなくて、映画だ。まったく別物なんだよ。あの夜が琥珀(こはく)のようにフィルムに封じ込められているわけさ。
ライブも演技も同じパフォーマンス
Q:ジャン=リュック・ゴダール監督とのコラボレーションと、スコセッシ監督とのコラボレーションを比較していかがですか? 偉大な映像作家二人に、共通点はありましたか?
ミック・ジャガー:二人の偉大な映画監督が、2つの大きく異なる映画を作った。でもゴダールの映画『ワン・プラス・ワン』の場合も、限られた時間のある出来事を封じ込めたわけだ。つまりそれが映画さ。「悪魔を憐れむ歌」という曲が生まれてから完成するまでをとらえたわけだからね。一つの出来事を映画的にとらえ、マーティンと同じように別のものに変えたというところが共通していると思うよ。
マーティン・スコセッシ監督:ゴダールの作品は見事だよ。曲が少しずつ出来上がっていく過程を収めている、素晴らしい記録フィルムさ。カメラ・トラッキングのおかげで、最後にはすべてが一つにまとまっていくんだ。かなり強烈だった!
Q:映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』のスター、キースから演技指導はありましたか?(一同、爆笑)
ミック・ジャガー:そのとおり。ステージに出る前に全員を座らせて、どうやったらいいか教えてくれたぜ(笑)。
ロン・ウッド:マーティンとの仕事には、演技指導はいらないよ(一同笑)。
Q:(ミック・ジャガーに)あなたは長編映画にも出演していますが、ステージ上でのパフォーマンスと映画での演技は、共通すると思いますか?
ミック・ジャガー:パフォーマンスはすべて共通しているよ。どちらもパフォーマンスで、映画だからね。こういうコンサート映画と長編映画はもちろん違う。でも、とても似ているものだよね。さまざまな問題に突き当たるし、マーティンと一緒にこれを実現させるプロセスを経て、満足の行くものが出来上がる。それにパフォーマーは、演じなければならないという点では一緒さ。
マーティン・スコセッシ監督:その通り。やり過ぎにはしたくなかったからね。
Q:次に製作予定とされるビートルズのメンバー、ジョージ・ハリソンのドキュメンタリーはどういったものになるのでしょう?
マーティン・スコセッシ監督:ジョージのプロジェクトは、彼の人生などを扱ったストレートなドキュメンタリーだよ。長年にわたるホーム・ムービーや記録映像を、ちょうど観始めたところさ。
Q:ザ・ローリング・ストーンズの未来は?
ロン・ウッド:正直言って、この後どうなるのかは不明だな! もしかしたら、ミックやチャーリーから、「また来年の3月に集まろうぜ!」と言われるかもしれない。そうなったら、きっぱりと生活を切り替えて、その3月に向けて準備をする。集まってみて、マジックが起これば、またツアーをやる。そしてそれを何世代もの人々が観に来てくれる。それってクールだよね!
巨匠スコセッシ監督を囲むように、リラックスした雰囲気で質問に答えてくれたメンバーたち。世界最強のロックバンド、ザ・ローリング・ストーンズは歳を重ねれば重ねるほど無邪気に、そしてパワフルに若返っていくような気がするのはなぜだろうか。『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』はスコセッシ監督の念願の企画でありながら、ザ・ローリング・ストーンズの最高の瞬間を切り取った記録として、映画史の中で輝きを放ち続けていくことだろう。
(c) Kazuko Wakayama
『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』は12月5日より全国公開