『少年メリケンサック』宮崎あおい、勝地涼 単独インタビュー
自分の中にこんなにも弾けた部分があることに気付いた
取材・文:鴇田崇 写真:田中紀子
宮藤官九郎が監督する映画『少年メリケンサック』。ひょんなことから、粗暴な4人組オヤジからなるパンクバンドの全国ツアーに同行するハメになったOLの奔走をコミカルに描く本作で、宮崎あおいが弾けた主人公を好演した。かつてないほどのコメディエンヌぶりを見せつけた彼女と、主人公の恋人を演じた勝地涼に話を聞いた。
宮藤監督が作った自由な世界が心地良かった
Q:完成した作品を観た第一印象はいかがでしたか?
宮崎:撮影現場がとても楽しかったので期待して観ましたけど、期待以上のものが出来上がっていました! 宮藤監督作品というだけで毎回皆さん期待されていると思いますが、毎回期待以上のものを成し遂げてしまう宮藤さんって、やっぱりすごいと改めて思いましたね。本当に参加ができて良かったと思いました。
勝地:僕は“少年メリケンサック”のバンドメンバーではないし、あおいさんが演じるかんなちゃんとのエピソードしかないので、撮影している段階ではどんな映画になるのか想像つかなかったんです。一観客として初めて完成した映画を観たときは、脚本以上のクドカンワールドが広がっていて“すげーな”って思いました。
Q:本作はパンクがモチーフとなっていますが、もともとなじみはありましたか?
宮崎:聴いたことがある程度だったので、映画を通してこれがパンクなんだって思いました。その後、パンクを聴くようになったのかと聞かれたら、聴いてはいないですね(笑)。少年メリケンサックのメンバーがパンクをやっているのはわかるんですけれど、どの音楽がパンクなのかはいまだにわかっていないんです。
勝地:パンクとロックの違いがよくわかっていなかったですね。僕らが普段あまり触れていない音楽でした。パンクとロックは境目が難しいんですよね。両方とも激しいイメージなんで(笑)。
Q:宮藤さんはほかの監督たちと比べ、どういった魅力的があるのでしょうか?
宮崎:一緒に仕事をしたのは今回初めてでしたけれど、あれほど現場を楽しんでいる方も珍しいと思いました。もちろんほかの監督さんも楽しんでいると思いますが、隠すことなくゲラゲラ笑うし、監督が楽しいと周りの人もリラックスできますよね。あの空気の良さは、宮藤さんが作り上げたものだと思います。自由な世界が心地良かったです。
勝地:宮藤さんは俳優もやられているので、演出も実際に自分で演じてみせてくれるんです。それがとてもわかりやすく、テストの段階から映画の世界観を作ってくださるので助かりました。表情までキャラクターに成り切ってくれるので、一緒の世界にいてくれるような気がして、俳優としては安心できましたね。
会話じゃなく演技でキャッチボールしました
Q:恋人同士を演じられた感想は?
宮崎:勝地君とは5回目の共演になるので、恋人役を何の気兼ねもなしに演じることができました。遠慮なくできるし(笑)、相談もほとんどしなかったんです。勝手に自分たちで好きなように演じて、勝地君の演技にわたしが応えて、わたしも彼の演技に応える感じで、会話よりも演技でキャッチボールをしていた感じです。
勝地:初共演の女優さんとは、今回の『少年メリケンサック』のようなラブラブなカップル役は難しいと思います。友だち同士の役ならともかく、ベースでお互いのことを知っていないと今回のバカップル役は難しかったでしょうね。
Q:恋人同士という役ではなく、お互いについてはどう思われていますか?
勝地:あおいさんは見た目がとてもかわいくて、しかも撮影現場では気さくに話しかけてくれるんです。また、ベテランの俳優さんともうまくコミュニケーションを取っていて、大人だと思います(笑)。お姉さんという感じまではいかないですが(笑)、尊敬しています。ただ、僕はいつもあおいさんにイジメられています(笑)。
宮崎:勝地君は面白いです。イジメっていっても、愛情があるイジりです(笑)。勝地君はまじめな性格なのでインタビューでもヘンに固く答えていて、それが面白くて笑ってしまうときがありますね。
Q:本作ではベテランの方々も登場しますが、先輩方との仕事はいかがですか?
宮崎:今回に限らず、年上の先輩方とお仕事をする機会が多いので、学ぶことがたくさんあります。いろいろな方がいるので、皆さん撮影現場での過ごし方も違うんです。役の設定上、仲が悪い場合はあまり仲良くしないこともあるとは思いますが、今回の撮影現場では和気あいあいとしていて、皆さんかなり楽しそうでした。
勝地:僕はちょっとしか絡んでいないですが、先輩方の話を聞くだけで勉強になります。ただ、初めて接する方の場合、どうすればいいのか委縮するときもありますが、まだ若いのでガツガツいかないといけないと思っています。プライベートではガツガツしているのに、どういうわけか現場に行くといい子になっちゃうんです(笑)。
僕は刑事役の宮崎あおいに捕まりたい!
Q:宮崎さんの弾けた演技も話題です。いろいろな役ができる演技の楽しさは?
宮崎:さまざまな人と出会えることや、自分の感情にない部分で演技をしていて、別の感情が動いてドキドキしたり悲しくなったりすることが楽しいですね。わたしならここでは泣かないけれど、急に胸が苦しくなって涙がこぼれたりしたときに、すごい気持ちいいって感じます。毎回、役を生きているという感覚でいるんです。
勝地:10代からこの仕事をさせていただいていますが、演じる役を通じて自分の新しい一面に気が付くことが多いです。自分の中の意外な性格を知るのは楽しいですし、一生この仕事を続けてきたいと思っています。ほかの人の人生を疑似体験できるのも楽しいですね。
Q:『少年メリケンサック』を通じて、次の仕事で生かせそうな発見はありましたか?
宮崎:すべての仕事が次の仕事につながるような新しい発見があると思いますが、特に今回は、わたしがこれほど弾けた人物を演じ切ることができたのも宮藤さんのパワーのおかげだと思います(笑)。そういう部分がわたしの中にもあるんだって気付かせてくれたので、すごく大きな財産になったと思います。
勝地:脚本で読んでいたときの感情より、現場でもっと生々しくなっていったんです。宮藤さんの演出でどんどん変わって、どんどん具体化していく過程を経験して、もっと自分も思い切ってやっていいんだって感じました。歌のシーンでも、ヘタでも一生懸命やるから面白いんだと。改めてそういうことに気付かされましたね。
Q:もし次回6回目の共演をするなら、どんな役同士で共演してみたいですか?
宮崎:ここまで共演を重ねている人もなかなかいないし、これまでカップル役が多かったので、そうじゃない関係の役で共演してみたいですね。その関係の中で演技をして生まれてくるものを想像すると楽しみです。
勝地:兄弟でもないし(笑)。仲がいい役が続いたので、反対に仲が悪い役をやってみたいですね。犯人とかいいですね。僕が犯人で、あおいさんが刑事なんていいですね。僕は宮崎あおいに捕まりたいです(笑)!
Q:最後に、公開を待っているファンの方々にメッセージをお願いします!
勝地:とにかく楽しい映画です。基本的にはコメディーですけど、意外に考えさせられちゃうような部分もあるんです。ダメな大人たちが再起を賭ける姿も感動を呼びますよね。自分に重ね合わせたりして、グッとくる部分もたくさんあると思います。明日を頑張ろう! と思えて元気が出る映画だと思います!
宮崎:ふざけたシーンも多くて、笑ってもらえると思いますが、まじめなシーンもたくさんある映画です。パンクになじみがないわたしの年代の人が観ても楽しいと思えるし、パンク世代の人たちが観たときには懐かしんでもらえると思います。自分にも何かできるかもしれないと思えるような、勇気をもらえる映画だと思います!
宮崎と勝地は終始息がピッタリで、その関係が心地良く感じられた。劇中で演じたかんなとマサル君という恋人同士とはまた違った信頼関係は、「演技でキャッチボール」という宮崎の言葉のとおり、きっと次回作以降にも生きるはず。まずは『少年メリケンサック』で彼らのキャッチボールを楽しんでほしい。
『少年メリケンサック』は2月14日より全国公開