『蟹工船』松田龍平 単独インタビュー
願望を実行に移せる男って、単純にかっこいい
取材・文:シネマトゥデイ 写真:吉岡希鼓斗
プロレタリア文学の代表作として知られる、小林多喜二原作の「蟹工船」が、映画『MONDAY マンディ』などを手掛けたSABU監督と、日本の映画界を代表する役者の一人である、松田龍平のコラボレーションによって映画化された。原作の世界観はそのままに、現代に生きるわれわれが観ても、胸に突き刺さるような熱いメッセージを込めた本作。蟹工船の中で過酷な労働を強いられながらも、希望を持って前向きに生きている乗組員たち。そんな彼らのリーダーにふんし、白熱の演技を見せた松田に話を聞いた。
鬼才・SABU監督について
Q:今回、出演を決めた一番の理由とは?
一番の理由は、SABU監督と一緒に仕事ができるということですね。ずっとご一緒に仕事をしたいと思っていました。
Q:SABU監督の作品はかなりご覧になっているのですか?
そうですね、特に映画『POSTMAN BLUES ポストマン・ブルース』が好きですね。
Q:SABU監督の演出はいかがでしたか?
SABU監督はたくさん絵コンテを描く方で、現場では、あまり細かく演出をしないんですが、SABUさんの中でイメージがちゃんとできていて、それに対する信頼があったので安心して芝居できましたね。
Q:演じられた新庄のイメージは?
みんなが後ろ向きになっている状況の中で、すごく前向きで、何かを変えたいと思っている。でも思っているだけじゃなくて、願望をちゃんと実行に移せる男。単純にかっこいいと思いましたね。
Q:実際に演じる段階になって、原作にはない自分なりのオリジナリティーを加えましたか?
逆に、人間くさくなさ過ぎる……と思ったんです。だから、ヒーローではなく、きちんと人間らしさのある男にしたいと思っていましたね。
首吊りのシーンは、本当に苦しかった
Q:男だらけの現場はいかがでしたか?
デビュー作の映画『御法度』から、結構多いんですよ、男子ばっかりの現場って(笑)。この間出演した映画『劔岳 点の記』もそうだったし。今回は、自分より年下の俳優さんも多かったですね。今までは年上の俳優の方に囲まれて、自分が一番年下だったことが多かったんで、いい刺激になりましたね。
Q:新庄が乗組員たちに「死んでしまおう! 集団で死のう!」と語りかけるシーンは強烈でした。あのシーンで、一番意識していたことは?
彼らが置かれている状況が状況だけに、大変な強制労働を強いられている中で、あれだけの人数を納得させる力を出さなきゃという気持ちが必要だと思いましたね。それに、自分の言葉であれだけ大勢の男たちを動かすという。それってどういう説得力なんだろうと考えて演じました。
Q:首つりのシーンは、撮影自体も大変でした?
あれ、本当に苦しかったんです(笑)。あれだけ大勢の人が一気に首をつるので、事故でも起きたらどうしようとか、いろいろ不安はありましたね。
Q:シリアスな映画なのかと思いきや、首つりのシーンもそうですが、かなりコミカルなシーンもありましたね。
コサックダンスとか(笑)。ちゃんとできていました?
Q:できていましたよ! 練習しました?
撮影のときに、ロシア人の方が結構いらしたんで、教えてもらって練習していましたね。コサックダンスって見た感じ簡単そうですけど、見た目よりずっと難しいんですよ。
本当に前向きなパワーをもらえた作品
Q:ここ最近の松田さんを見ていると、お芝居が変わった気がしたんです。ご自身でそういう意識はありますか?
具体的に何があったっていうわけじゃないんですけど、今までは自分の中で、「こうしたい」という思いがあっても、それをうまく表現できなかったんです。でも、それが前に比べて、うまくできるようになった気がしますね。
Q:先日は、大人計画とのコラボレーションでロボットというコミカルな役柄にも挑戦しました。それも、ある意味変化ですよね。
そうですね。自分がやったことのないことをやるのはすごく怖いことで、不安もあるんですけど、それができないと思わなくなったんですよ。やったことで、得るものはたくさんある。そういうことを考えられるようになった気がしますね。
Q:今回の『蟹工船』では、何を得ましたか?
役柄自体が、すごく前向きだったんでパワーをもらいましたね。自分の中でやれると思っていればやれるし、やれないと思えばやれない。新庄が船員に向かって演説するシーンも、最初はくどいと思っていたんです。でも実際に演じてみたら、周りで聞いている船員たちと自分が出す空気感がすごく良くて、セリフもスラッと言えましたね。
Q:あの演説シーンは、こっちの胸まで熱くなりました。
自分で実際に出来上がった映画を観たときも、新庄の言葉にとても納得させられたし、パワーももらいました。やっぱりやれないと思うと、何でもやれなくなってしまう。だから、何でもやってやろうと思うことが大切だと思いましたね。使い古されている言葉でも、真剣に人に伝えようとすることで、相手には伝わる。本当に前向きな気持ちをもらえた作品だと思います。
最近の松田はかっこいい。スクリーンの中から香ってくる色香は、男くさく、デビュー作『御法度』では感じることができなかったものだ。今回のインタビューで、彼の魅力が磨かれた原因がわかった気がした。それは自分にできないことは、ない。そう思うことが大切と気付いたからではないだろうか。そんな彼に、もう怖いものはないはずだ。まだまだ成長している彼のこれからに大いに期待していきたい。
『蟹工船』は7月4日よりシネマライズ、テアトル新宿ほかにて全国公開