『アマルフィ 女神の報酬』織田裕二 単独インタビュー
悩み、苦しみ、一生懸命にもがいている姿は色っぽい
取材・文:鴇田崇 写真:吉岡希鼓斗
フジテレビ開局50周年記念作品と銘打ち、イタリアのアマルフィ海岸など数々の世界遺産をバックに、サスペンスフルな物語が展開していく映画『アマルフィ 女神の報酬』。主演の織田裕二が、信念を貫く外交官・黒田康作にふんした。今回のキャラクターを演じる上で、新しい自分を出さなくてはならなかったと語った織田が、日本映画のスケールと常識をはるかに超えた本作についてさまざまな話をしてくれた。
すべてが楽しくてまるで夢のような企画
Q:『アマルフィ 女神の報酬』の企画を最初に聞いたときはいかがでしたか?
4年ほど前にこの映画のお話をいただいたときに、正直言って夢みたいな話だと思いました(笑)。ドリームチームを組んで、しかも撮影場所は日本でもアジアでもなく、ヨーロッパだと聞いて大変だと思ったし、それにチネチッタの撮影所まで使って撮る日本映画なんて、なかなかないですよね。僕自身、観たいけど、現実にできるのだろうかと思っていました。ただ、一俳優としては面白そうだと思っていたので、撮影が楽しみでした。
Q:豪華キャストや、織田さんと親交の深い製作陣の顔ぶれも見逃せませんね。
プロデューサーの大多(亮)さんと、原作の真保(裕一)さんとの組み合わせが、未知で面白そうでした。お互い、別の作品でご一緒していまして、大多さんは「東京ラブストーリー」や「ラストクリスマス」といったラブストーリー系をやってきて、真保さんは『ホワイトアウト』でご一緒させていただいました。そんな二人が組むと一体どんな作品ができるんだろう? と、とにかくすごい楽しみでした。
Q:西谷弘監督とも『県庁の星』をはじめ、一緒に仕事をされてきた旧知の仲ですね。
ええ。西谷監督は、日本一、いや世界一かな、なかなかOKとは言わない監督なので(笑)。そのバイタリティーというのが、日本じゃなくてほかの国に行っても変わらないのか興味がありました。日本とは全然違う条件で撮らないといけないので、考えもしなかった問題点が出ると思いましたけど、監督ならねじ伏せてしまうのではないかという希望もありました(笑)。すべてが楽しみで、でも、できるのかという漠然とした夢のような企画でしたね。
この年齢だからこそ出すことができる色気がある
Q:西谷監督によると、本作には織田さんの色気や、素の部分が出ているとか?
最初に、大多プロデューサーに色気を出すように言われたんです(笑)。色気って、福山雅治さんや佐藤浩市さんがいるのに、ここにいるのは織田ですけど(笑)? 何を言っているのかと思いましたけど、色気って何って考えたときに、独りよがりのキザなセリフとは違うだろうと考えました。いくらイタリアに行ったからって簡単に出るものじゃないですよね(笑)。
Q:とはいえ、皆さんイタリアという土壌にぴったりとはまっていましたが。
バルトリーニ警部をはじめ、イタリア人の俳優は、あいさつをするときにキスするのが当たり前ですよね。でも、片や僕は日本人。そんな文化がない中で生まれ育っているので、(僕があいさつをするときにキスしたら、周りから)ちゃかされちゃいますよ。僕には無理があると(笑)。ただ、もしかすると、やっとこの年になって出てくるものはあるのかもしれません。悩んだり苦しんだり、一生懸命にもがいている姿にしても、はたで見ていて色っぽい感じが出せるかもしれない。そこに希望を持ちました。
Q:ポーカーフェイスで物事にあたる黒田は、セクシーに映っていたと思います。
口には出さないけど、黒田本人は相当大変だったと思います(笑)。結局、自分一人で役について悩んでいても始まらないし、客観的に観て色気があるのかどうかは人の判断によるので、預けます、色っぽく撮ってくださいと監督に投げました(笑)。具体的には、目力を抜いて、やわらかい感じで演じてくれと言われました。人と話すだけにしても黒田はクールで冷静。言いにくいこともズバッと言う人なので、難しかったですね。
かつてない織田を見せるために、熟考を重ねた黒田像
Q:そのクールで冷静な黒田を演じて、どのような感想を持たれましたか?
黒田は物事をはっきりと言う。例えば、「赤ん坊を抱えている女性はスリです」とかね。大多プロデューサーは冷たくない? って心配していましたが、僕はそうは思わなかった。むしろ海外に行ったときに、はっきりとズバズバ言ってくれた方が安全ですよね。日本の常識だけで判断すると、危険なことが多そうです。ダメなものはダメ、法律違反になる、そういうことを言ってくれた方がいいと思います。
Q:黒田のようなキャラクターを演じる織田さんの姿も斬新に映っていました。
西谷監督は今までに見せたことがない織田の芝居を見せたいとおっしゃってくださったので、NGをもらってもなぜだ? とは言わず、どういう風にすれば黒田をよく見せられるのか考えました。しかも、撮影開始前に「今回はお前を欲求不満にさせる」「満足するような芝居はできないぞ」とまで言われていました(笑)。もの足りないぐらいの芝居を要求するよと言われていたので、後は監督を信じて、作品を観るまでドキドキしていました(笑)。
Q:完成した映画をご覧になった感想はいかがでしたでしょうか?
僕はいろいろな意味でチャレンジが重なって、こうなったら心中だ! という覚悟で撮影していたので(笑)、客観的には観られなかったんですが、隣で観ていた天海祐希さんも含め、周りの人がみんな泣いていたんです。確かに胸に迫るドラマで、サスペンスがいつの間にか人の気持ちを追ってくストーリーに変わって、さまざまな登場人物の感情に入り込める映画だと思いました。
謎めいた黒田という男をもっと知りたくなるはず
Q:ドコモ動画で限定配信されている「アマルフィ ビギンズ」では、黒田の過去が明かされているそうですね。
本編を撮ってから「アマルフィ ビギンズ」を撮りましたが、演じていて、もっと黒田を知りたくなりました。とても興味が沸きましたね。どうも外交官の仕事をしている以前に、過去にほかに何かをしていたようだと想像したくなる。ほかにも、黒田は普通の人が一生に一度経験するか、しないかという大事件に、しょっちゅう遭遇しているのかもしれないとかね(笑)。謎が多いからこそ知りたくなりますよね。
Q:今後は外交官・黒田のシリーズ化の可能性もありますが、いかがでしょう?
まだまだ気が早いですよ(笑)。気が早過ぎますけど、僕自身もっと黒田を見たいし、知りたいという希望があります。今回のイタリアロケで感じたことですが、イタリアを知ることで、今の日本が見えたりする。海外に行くと、そういう経験をするじゃないですか。例えば、日本の治安はいい方だというけど、それがどういうことなのかとか。そういう知りたい願望が黒田に関してもあると思います。
Q:最後に公開を楽しみにしている人たちへ一言お願いします。
『アマルフィ 女神の報酬』は、数々の奇跡が重なった映画だと思います。本物のイタリアを撮るならと、製造中止のフィルムを持ち込み、その思いは映像となって作品に生かされていましたし、音響も拍手を送りたいほど素晴らしい仕上がりになっています。音を聞くだけでも絶対に映画館で感じてほしいです(笑)。『アマルフィ 女神の報酬』はあらゆる意味で今までにない日本映画なので、どう受け止められるのか本当に楽しみですね。
長期海外ロケをはじめ、40代の男の色気を出さなくてはいけないなど、いろいろな意味でチャレンジが重なったという織田。国民的人気シリーズ『踊る大捜査線』の青島俊作で知られる織田が、外交官・黒田という新しいヒーロー像を『アマルフィ 女神の報酬』で見事に作り上げた。織田自身が、改めて日本映画界のスーパーヒーローだということを再認識させられた。俳優・織田の新たな魅力を、ぜひ劇場で確かめてほしい。
『アマルフィ 女神の報酬』は7月18日より全国公開