『山形スクリーム』成海璃子、竹中直人監督 単独インタビュー
苦労が、映画を作るエネルギーになった
取材・文/内田涼 写真/吉岡希鼓斗
800年間地中で眠っていた落ち武者が、夏休み旅行で山形を訪れた女子高生に一目ぼれ!? そんな前代未聞・抱腹絶倒なホラーコメディー映画『山形スクリーム』でヒロイン美香代を演じた成海璃子と映画『サヨナラ COLOR』以来、久しぶりに監督を務めた竹中直人に話を聞いた。ホラー+女子高生+山形=……? そんなありえない化学反応が生み出した「とでづもねぇ(山形弁)」"笑撃"作の舞台裏を明かしてくれた。
文句なしの理想的なキャスティング
Q:主演の成海さんをはじめ、EXILE のAKIRAさん、マイコさん、そして落ち武者役の沢村一樹さんなど超個性的なキャスティングが見どころですね。
竹中:これ以上はない理想のキャスティングが実現して、監督としてとても幸せでしたね。
Q:特にヒロインを演じた成海さんについては、どんなところに惹(ひ)かれましたか?
竹中:璃子ちゃんの主演が決まって、映画の"核"が出来たと感じました。この映画はとにかく周りが個性的な役なので、ヒロインは凛(りん)とした、大黒柱でないといけない。璃子ちゃんはその部分を完ぺきに演じてくれましたね。
成海:今回は、周りにいる人たちがみんな本当に変わっているので(笑)。わたしは唯一まともな人間として、大変なことが起こっているのを客観的に見る部分が多かったかもしれないです。
Q:でも、落ち武者に追いかけ回されたり、大声で叫んだりするのは今までにない演技でしたよね?
成海:逃げたり叫んだりするシーンに関しては、監督から「もっと目を見開いて」とか「こういう風に逃げてみて」って実際に動きを見せていただきました。
竹中:そうそう!「もっとメチャクチャな顔して!」とか注文して(笑)。でも、璃子ちゃんはどんな役柄であっても"ある状態"というものをスッと演じることができる女優だと思うんですよ。空気や状況を感じ取れるというか。語弊があるかもしれないけど、璃子ちゃんは役作りとかあまり意識せずに、自然と周りとの距離やバランスを取って、演技ができる。そういう意味ではすごく信頼できたし、安心して演出できましたね。とっても素直だし。
白目をむいたマイコにビックリ!!
Q:映画を通して、撮影現場の楽しい雰囲気が伝わりました。
成海:わたしはクランクインして数日後に、ちょっと遅れて現場に入ったんです。ちょうどその日はマイコさん(ヒロイン美香代が所属する歴史研究会の引率者役)が白目をむいているシーンの撮影で……。
竹中:あぁ、「原稿用紙4枚にレポート書いて提出するように!!」っセリフのとこだね(笑)。
成海:白目をむいたマイコさんを見て、正直「えぇ~っ!」って(笑)。それにわたし、数日前まで戦争もののドラマを撮影していたので、あまりのギャップに驚いてしまって。
Q:マイコさんが「チンスコウ!」って大声で叫ぶシーンもありますね。
竹中:とにかくマイコさんには、はじけてほしくて。マイコさんも楽しんで演じてくれました。
成海:みんな、監督のことが大好きなんですよ。だから面白がって映画が作れる。とても幸せなことだって思いました。
竹中:うん、とにかくみんなが信頼し合えた現場だったね。さっきも言ったけど、キャスティングが完ぺきだから、後は僕が思い描いたイメージに、みんなのテンションをどう高く持っていけるかが大切だった。みんながテンション高くはじけてくれる時間を作りたいと願ってました。
Q:ズバリ竹中監督ってどんな人ですか?
竹中:本人を、目の前にして答えづらいよねー(笑)。
成海:わたしは自分から話しかけるのは苦手ですし、緊張してしまうんですけど、監督が「僕も役者だから、すごく気持ちはわかるし、芝居のことで何かあったら、何でも言って」って撮影の前に言ってくださいまいした。撮影中も、セリフを何パターンか撮って「どれがいいと思う?」って聞いてくれたり。素直にうれしくて、とても心強かったですね。
竹中:こういう作品なんで、非常に現場での即興的なものを大切にしたかった、脚本に沿って……という感じだけだと堅苦しいものになってしまうので、突然「この辺、微妙にせりふを変えてみよう」とか「こういう動きしてみようか」とかいろいろアイデアは出しましたね。みんなには楽しんで演じてほしかったし、こちらも役者が飽きないうちに新鮮な状態を切り取りたかった。
どんな映画に仕上がるかイメージできなかった!?
Q:そもそもなぜ『山形スクリーム』を撮ろうと?
竹中:ホラーはジャンルとして大好きなんですが、まじめなホラーはね、すでにたくさんの監督さんが素晴らしい作品を撮られているので……。じゃあ、ホラーコメディーはどうだろうって。そういう気持ちはずっと僕の中にあったので、今回やっと撮れたという感じですね。
Q:成海さんは撮影中、どんな作品に仕上がるかイメージできましたか?
成海:あんまりイメージはできなかったですね。完成するまで、本当にわからなかった。だから撮影中は「どんな作品になるんだろう」とすっごく気になっていましたね。
Q:今回は、落ち武者に一目ぼれされてしまう役柄でしたが。
成海:かつての婚約者とわたしがソックリっていう設定なんですよね。それにしても、800年間も、相手のことを思い続けるってすごいと思いますけど。
竹中:しかも土に埋まりながらね(笑)。
成海:実際、あんな風に思いを寄せられると……うーん、やっぱり相手によりますね。
Q:山形での撮影はいかがでしたか?
竹中:雨が多かったのは大変でしたね。助監督がスケジュールを組み直したり、いろいろ苦労もありましたが、それが映画を作るエネルギーになりますから、撮影が進むにつれて、苦労も苦労じゃなくなってくるもんなんです。それに山形は食事がおいしい!
成海:おいしかったですねー、メンチカツ!
竹中:さくらんぼ、ブルーベリー……それに……。
成海・竹中:だだちゃ豆!!
Q:それでは公開を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします!
成海:現場で、みんなが本当に面白がりながら作れた映画だと思うんで、ぜひご覧になって元気になってもらえればと思います。
竹中:すべてのキャストがチャーミングで、最高にはじけてます! この夏、ぜひこの映画で楽しんでください!!
フィッシュマンズの名曲「Go Go Round This World!」を一緒に口ずさみながら、取材部屋に仲良く入ってきた二人は、まるで恋人(!?)のように和気あいあいとした雰囲気で、息もぴったり。お互いを女優として、そして監督として信頼し合ったからこそ生まれたきずなが自然とこちらに伝わってくるインタビューとなった。『山形スクリーム』もまたスタッフ、キャストの熱気がビシバシと感じられるパワー全開の怪作だ。この夏、恐怖と笑いを一緒に体感したいという欲張りなアナタはぴったりの本作をお見逃しなく!
『山形スクリーム』は8月1日より全国公開