『カムイ外伝』小雪単独 単独インタビュー
アクションシーンの撮影は汗だらだらで、アスリートのようでした
取材・文:シネマトゥデイ 写真:尾藤能暢
白土三平による原作「カムイ外伝」の中で最も印象的なエピソード「スガルの島」を、崔洋一監督が映像化に挑戦した映画『カムイ外伝』。忍者を抜けた抜け忍として、終わらない逃亡の日々を続けるカムイが流れ着いた島には、かつて仲間として共に働き、カムイよりも先に抜け忍となったスガルの姿があった。カムイを追っ手である追忍だと信じてやまないスガルとカムイの運命を描いた本作には、誰も知らない苦労がたくさん隠されていた。本作のキーパーソンであるスガルを演じた小雪が、撮影の裏側にあった役者やスタッフの努力を語った。
小雪から見た崔監督は意外にも……!
Q:スケールの大きい作品に仕上がっていましたね。
カムイの世界そのものを描くのは大変だと思うんです。漫画の悲壮感とか、カムイが感じている孤独さとか、そういったものをベースにして描いてしまうと、リアルだけど本当に暗い映画になってしまう。だからエンターテインメントとしては、ちょっと希望を持てる生き方も提案しないといけなかったんです。出来上がったものを観たときは、言葉にならない感動を覚えましたね。
Q:厳しいと評判の崔監督の印象はいかがでしたか?
優しいですよ、女性には(笑)。いつも噴火しちゃうんで、噴火1分前になると周りの空気が変わっていくんですよね。でも監督の場合、それで現場を引きしめるという意図があるんだと思います。たまに、引っ込みがつかなくなって怒り続けているのを観たこともありましたけどね(笑)。
Q:崔監督は小雪さんを絶賛されていました。アクションの吹き替えがほとんどなくて、ワイヤーでつられているのも、全部小雪さんだとおっしゃっていました。
何であれをわたしが全部やったんだろう(笑)。普通、見えないところはスタントマンにお願いするんですけど、ファーストシーンのときにスタントマンがけがをしたんです。それで、わたしがやるしかなくなっちゃったんです(笑)。あのときは、ほんとにつらかったです。今までで一番大変な現場でしたが、終わってみたら、みんな生きていたので良かったです(笑)。
アクションを通して表現したかったこと
Q:スクリーンであれだけ活躍するご自身の姿を見ていかがでしたか?
もう自分のことに関しては足らない事ばっかりで。もっとああすればよかった、こうすればよかったってことがいっぱいありますね。アクションを通して、スガルに近づきたいという気持ちはありましたね。常に、根底に疑心や死への恐れ、そして孤独を立ち姿だけで見せたかったので、それはアクションと付随しているところがありました。
Q:アクションを通して、お芝居の幅も広がったのではないでしょうか?
アクションで芝居的な表現をするっていう面白さもわかったし、芝居をしていく上で、こういうアプローチもあるんだということも知りました。けり一つで喜怒哀楽を表せるのは、奥が深いですね。練習をしているうちに、わたし自身が強くなりましたね。そして、どんどん楽しくなりました。だって毎日できることが増えていくんですよ! 撮影前の練習を1か月半やって、撮影に入って半年くらい経つと、人の動きが見えるんですよ。切られる瞬間に、刀の動きが見えるようになって、ぎりぎりで避けることができるようになったんです(笑)。
Q:アクションスターになれますね!
どうでしょう(笑)。でも女の子が、スタイリッシュなアクション映画に出られるのはすごくすてきなことだと思うんですよ。日本ではなかなかない事なので。だから、スタイリッシュアクション映画みたいな作品に出てみたいですね。
筋肉回復のために、女優にあるまじき荒療治!?
Q:砂浜を走るシーンがとても印象的でしたが、女優さんである小雪さんはもっと大変だったのでは?
海のシーンは本当に大変でした。夜明けまで撮影が続くんですけど、やっぱり人間って夜は寝る構造になっているんですよね。体が寝ているので、太ももは上がらないし、忍者って前かがみに走らなきゃいけないのに、わたしも松山さんも気付いたら直立で走っていました(笑)。足袋も一回走るごとに、駄目になっちゃって……。一回ダッシュするごとに、汗だらだらで、もうアスリートのようでした。カットがかかるとすぐに、筋肉を守るために氷水に足をつけていましたね。
Q:ハードですね……。
もう最後は氷水に足つけるのが嫌で、直接海に足をつけていました。女優さんは、メークさんに霧吹きで水を吹きかけてもらうんですけど、わたしは面倒くさくなっちゃって、海にジャバって顔をつけていました(笑)。
松山ケンイチを呼ぶときはカムイ?
Q:共演者の松山さんも砂浜を走るシーンがありましたね。
彼はね、ある意味、病んでいました(笑)。肉体の限界を感じていたからだと思うんですけど、思い通りにいかなかったことで精神的に内にこもっている状態でした(笑)。多分主役としてのプレッシャーもあったと思うんですけど、いつもショボーンとしていましたね。でも、役としてはぴったりですよね。だってそれがカムイですから。
Q:もうカムイと同化されてたんですね。
ぴったりでしたね。撮影中も、急にふらっといなくなってしまい、みんなで「カームイ~」って呼んでいました。でもその辺で、一人ぽつんと砂団子を作っているんですよね。でも、その姿もまさにカムイでしたね(笑)。「砂団子何個作れるかなあ……」ってつぶやいているのを見て、ちょっと病んでるかも、この人って思いました(笑)。
Q:撮影のハードさが、本当に伝わるエピソードですね。苦労も多かった分、思い入れも強いと思いますが、最後に観客の皆さんには本作のどんなところを観てほしいですか?
松山さんが、撮影を思い出して落ち込んじゃう気持ちがわかるんです。本当に大変だったし、彼も相当つらかっただろうから。でも、そういう苦労をたくさん見てきたからこそ、簡単に一言で撮影を振り返って大変だったって言えないんですよね。役者もスタッフも本当に大変な思いをして作り上げた作品なので、この映画にかかわった人全員の努力や熱意を作品から少しでも感じ取ってもらえればうれしいです。
クールな印象のある小雪だが、実際に会ってみると信じられないくらいフレンドリーで、人当たりのいい女性だ。取材の途中で、一瞬恋愛の話が出たとき、目をキラリと輝かせて「恋しているときは、何でもポジティブに考えなくちゃ! ネガティブなことで不安になると現実になっちゃうよ!」と話してくれた一言がとても印象的だった。小雪が見せてくれた一面は、スガルのように強い芯(しん)の通った頼もしい女性であり、強くて優しく、そして楽しい。そんな小雪が女優魂を注ぎ込んだ映画『カムイ外伝』を、ぜひ映画館で観てもらいたい。
『カムイ外伝』は9月19日より全国公開