『クヒオ大佐』堺雅人 単独インタビュー
演じる上で準備したのは、腕立て伏せを頑張ることですね
取材・文:シネマトゥデイ 写真:秋山泰彦
純日本人であることを隠し、自分はアメリカ空軍のパイロットと偽って、女性たちから1億円以上のお金を騙し取った実在の結婚詐欺師クヒオ大佐と、彼のウソに翻弄(ほんろう)される3人の女性の姿をコミカルに描いた映画『クヒオ大佐』。付け鼻で、どこかたどたどしい日本語を話すクヒオ大佐を演じるのは、映画『南極料理人』も公開されたばかりの俳優、堺雅人。女性を惑わせ、大金を騙し取る結婚詐欺師でありながら、どこか憎めない男を演じた彼が、撮影時のエピソードを語ってくれた。
カタコトの日本語にはこだわりのある演出が!
Q:本作の話を知ったときの感想を聞かせてください。
原作を読んだときは、ある種の中年男の悲哀というかそういうものを感じましたね。
Q:クヒオはとてもユニークなキャラクターだと思いますが、役作りはどのようにされましたか?
役作りはなかったですね。脚本を読んだときに、ずっと腕立て伏せをするっていうくだりがあったんで、今回演じる上で準備したのは、腕立て伏せを頑張ることですね(笑)。
Q:彼が話すカタコトの日本語は、滑稽(こっけい)過ぎず独特な印象を受けました。
それは監督の指示通りやりました。セリフに関して、結構細かく指導してくださったんですよ。「そこは、もう少しカタコトに」とか「もう少し日本語っぽく」とカットによって細かく指示があったんです。こだわりのある演出だったので、ひとつのシーンでも何パターンか撮ることが多かったですね。
Q:苦労したセリフはありましたか?
苦労は全部苦労でしたね。何が正しいという指針があまりないまま、ずっと演じていて、すべてを監督に預けてやっていた感じでした。だから自分で「ここは、こうしよう」と提案することはなかったです。
人が恋に落ちるのは、言葉じゃ説明できないこと
Q:なぜクヒオは、詐欺師の道を選んだのでしょうか?
僕は、クヒオには、人を騙そうとする余裕がないと思うんです。例えば、彼のウソの中で、映画のワンシーンをあたかも自分が体験したように話しているシーンがあるんですけど、あれも一生懸命その場面を再現しようとしているだけなんです。そういう意味で、彼の中でウソではないんですよね。一生懸命しゃべっているというか。映画を観て、かなり感情移入をしたとしたら、あれぐらいの語り口調になってもおかしくないと思うし。だから彼には、全体的に騙そうっていう意図があまりなかったのではないかと思うんですよ。
Q:ウソをつく動機や理由はあったのでしょうか
それもわからないんですよね。 理由がわからないし、ひょっとしたら彼のついたウソに意味なんてないのかもしれないですよね。なんでうそつくの? っていう前に彼の行動そのものに動機がなかったんじゃないですかね。
Q:では、逆になぜ本作で登場する女性たちは、クヒオのウソに騙されたのでしょうか?
それは僕もわからなかったですね。それは多分、説明できないんじゃないかな。自分が演じても(本作を)観たあともわからなかったし、監督もそのことについては説明してなかったんですよ。人が恋に落ちるのは、言葉じゃ説明できないことなんでしょうね。
Q:クヒオは、3人の女性を好きだったと思いますか?
好きだったんじゃないですか。愛はあったと思いますよ。でも、僕もわからない。みち子に関しては、最初は彼女の友だちを狙っていたはずなんです。だから、愛があるといえばあるけれども、同じだけの愛をいろんな人に振りまけるかって言ったら……、振りまける男なんでしょうね。
Q:恐ろしい……。
恐ろしいんです(笑)。
クヒオにとって、3人の女性はなくてはならないもの
Q: クヒオに翻弄(ほんろう)される女性たちは、それぞれすごく個性的でしたね
今回一番大切だったのは、彼女たちの存在感だったと思います。クヒオを取り巻く、生命感あふれる3人の女性たちが、裏を返せば主役なんです。クヒオにとって、3人の女性たちはなくてはならないものですよね。
Q: 本作では、松雪泰子さん、満島ひかりさん、中村優子さんなど豪華な女優さんたちが登場していましたね。彼女たちとの駆け引きは見ものでした。
そうですね。皆さんの生命力というか、存在感は一緒に演じていてもすごいなと思いましたね。僕は、彼女たちを寄りどころにしてお芝居ができましたし、出来上がった作品を見ても、やっぱり3人の存在感が物語をグイグイ動かしていましたね。
Q: 本作では、クヒオの不幸な少年時代が描かれていましたが、それを観ると彼に同情してしまいました
そうですよね。でも、もしかしたらあれもクヒオが作ったウソかもしれないですよね。
Q: なるほど……。実はかわいそうな過去を自分で作っているだけかもしれない。それを言われると、クヒオの何を信じればいいかわからなくなりますね。
そうでしょう? だから演じているときに、何にも手掛かりがなかったっていうのは、そこなんです。でも、その謎が大事だったと思います。
ハリウッドでの撮影でびっくり!
Q: ラストシーンは、ハリウッドで撮影したと伺いましたが、いかがでしたか?
ロサンゼルス近郊の牧場で、撮影しました。実際、ヘリコプターも飛ばしてかなり大掛かりでしたよ。でも、一泊三日だったんで、行って、翌日から朝まで撮って、その日に帰ったという、ハードスケジュールでした。だから、残念ながらあまりロスに行ったって実感はなかったですね。
Q:ロスでの撮影で、印象に残っていることはありますか?
兵士役の方は、実際、アメリカの軍隊を経験のしたことのある方々だったらしいんです。動きも非常に機敏でしたよ。でも、その元兵士の方たちも撮影の後半には「疲れた。もうやだ」なんて言っていましたからね。映画の撮影は、兵士も疲れる仕事なんだなってしみじみ思いました(笑)。
Q: 最後になりますが、世の女性たちにメッセージをお願いします!
僕はこのクヒオという役を、不思議な気持ちで演じていました。それは出来上がった作品を観た今も、居心地の悪さを感じるのですが、そこを観てもらいたいですね。この映画を観てクヒオに恋をするもよし、戒めにするもよしですけど、女性の目から見たらどんな風に映るのかは、いろんな方の意見を聞いてみたいです。
演じている本人は、きっとウソがつけないタイプなのだろう。「本当に居心地が悪かった」という言葉を、インタビュー中、何度も繰り返していた堺の姿がとても印象的だった。彼の言葉どおり、スクリーンのなかのクヒオ大佐は、最後の最後までつかみどころのない男だ。しかしそんな男でも、堺が演じるとどこか憎めない。女性の敵であるはずの結婚詐欺師が、ここまで魅力的なキャラクターになったのは、まさしく堺雅人のマジックといえるだろう。本作を観たら、あなたもクヒオに魅せられて、恋に落ちてしまうかもしれない。
(C) 2009『クヒオ大佐』製作委員会
スタイリスト/mick
ドレスシャツ/CICATA(CICATA NIPPON)、Vネックニット/THE LOCAL FIRM 、レザーブーツ/n.d.c.(JACK OF ALL TRADES)、ウールカーゴパンツ/APOLIS ACTIVISM(Chimera Luxe)
映画『クヒオ大佐』は10月10日より渋谷シネクイント、新宿バルト9ほかにて全国公開