『かいじゅうたちのいるところ』永作博美 単独インタビュー
やっぱり子どもってお母さんが一番なんだと思う
取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美
世界中で愛されるモーリス・センダックの絵本「かいじゅうたちのいるところ」が、『マルコヴィチの穴』のスパイク・ジョーンズ監督の手によって映画化された。本作は、母親とケンカをして家を飛び出した少年マックスが、かいじゅうたちの暮らす島に迷い込み、みんなが幸せになれる方法を考えるというファンタジー。その日本語吹き替え版で、マックスを助けるかいじゅうKWの声を担当した永作博美に、アフレコの苦労や子どものころの思い出など、さまざまなテーマで話を聞いた。
かいじゅうの声だけに、テンションを上げるのが大変!
Q:絵本の世界が見事に実写化された作品ですが、永作さんはどうご覧になりましたか?
絵本の要素をあんなに膨らませているのに、余計なものが全然なくて、本当に秀逸だなと思いました。今回の映画を観て、やっと原作の本質がわかったような気がしたんです。あの中には、暴れん坊でやんちゃな少年の、誰にもわかってもらえない憤りが詰まっているんですよね。あとは、「やっぱり子どもってお母さんが一番なんだなぁ」と思って、何だかホッとしました(笑)。
Q:日本語版の吹き替えに挑戦した感想はいかがですか?
最初は難しかったんですけど、すごく楽しかったです。役者の演技は常に主観的なんですが、吹き替えは客観的に動いている姿を見ながら演じることができるので、役に気持ちが入り込めるんです。役者以上に役に成り切れるというか、不思議な感覚がありましたね。
Q:アフレコで一番ご苦労されたのはどんなところですか?
かいじゅうの役なので、テンションを上げるのが大変でした。遠ぼえや遊びながらはしゃいでいるシーンが多くて、テンションを上げないと浮いちゃうんですよ(笑)。だから、ブースの中で遠ぼえの練習をしたり、一人で遊んでみたりして、気持ちを高揚させてから挑みました(笑)。
かいじゅうのKWと永作は雰囲気がピッタリ!
Q:永作さんが声を担当したKWは、マックスと心を通わせるお姉さんのようなかいじゅうでしたね。
ほかのかいじゅうたちは感情的なんだけど、KWは一番大人で、物事を建設的に考えられるんですよね。かいじゅうの島にやってきたマックスを守りながら、彼をちゃんとかわいがって。マックスのお姉さんのようであり、お母さんのようでもあり、最後は本当の仲間になるという、とてもステキなキャラクターだと思いました。
Q:永作さんの声もKWにピッタリでした。
ありがとうございます! 吹き替えのときのディレクターさんも、すごく雰囲気が合っていると言ってくださって、「いやいや、わたしはオリジナル版のKWの声をマネしているだけです!」って言ったんですけど(笑)。
Q:ほかにも個性的なかいじゅうがたくさん登場しますが、永作さんが印象に残っているかいじゅうは?
乱暴者だけど、実は繊細なキャロルが印象に残っています。暴れすぎて行き場がなくなってしまったキャロルが、一人で道をトボトボ歩いているシーンが妙に好きでした。あのふてくされた姿が、(日本語吹き替え版でキャロルの声を担当した)高橋克実さんと重なるんですよ! オリジナル版を最初に観たときにそう思ったので、克実さんの吹き替えがすごく楽しみでした(笑)。
人間もかいじゅうも、仲間との関係で悩むところは同じ
Q:KWは、仲間と一緒にいてもベッタリではなく、自分の世界を大切にしたいタイプでしたが、永作さんご自身と重なるところはありますか?
非常に似ているところがあると思います。わたしも学生のころは、集団でいることがあまりなかったんです。学校行事などは張り切ってやっていましたけど、基本的に誰かを巻き込むことはなく、いつも一人で思うがままに行動するタイプでした。小さいころからずっとそうだったので、少々変わった子どもだと思われていたかもしれません(笑)。
Q:かいじゅうたちの感情のぶつかり合いは、人間関係の難しさを表しているように感じました。
そうですね。仲間との関係で悩んでいたKW は、本当につらいだろうなって思います。だって、誰も話を聞いてくれないんですよ! 一番近くにいたはずのキャロルも、KWが距離を置いてしまったせいで大暴れしてしまうし……本当に難しいですよね。
Q:永作さんご自身も、人間関係で悩んだことはありますか?
自分一人で生きる方が楽なこともありますけど、社会で生活するには仕事の仲間も友人もいますから、その中でいろいろと思うことはありますよね。一人でいることは好きなんですけど、お節介なところもあるので、「こうしたらもっとステキになれるんじゃないかな?」と思う人には、どういう風に言ったらうまく伝わるのか慎重に考えます。あまり上から言ってしまうと、はねのけられてしまうことも多いので。まあ、人のことが気になってしまうのは、わたしの年齢のせいもあるかもしれませんけど(笑)。
子どもたちに観せてあげたい!
Q:やんちゃなマックスの暴れっぷりを見て、永作さんも子どものころを思い出しませんでしたか?
マックスの暴れん坊ぶりは本当に楽しかったですね! でもわたしは三人姉妹で女の子だけだったので、あそこまで暴れた記憶はないです(笑)。幼なじみの男の子とは、外で釣りをしたりキャッチボールをしたりしましたけど、普段は女の子らしくお人形さん遊びをしていました。ただ姉とはよくケンカをしましたね。さすがに取っ組み合いのケンカはしませんけど、エスカレートするとよくモノを投げたりしました(笑)。
Q:子どもの気持ちがリアルに描かれた本作を、自分の子どもに観せてあげたいと思う方も多いと思います。永作さんはいかがですか?
観せてあげたいですね! 特に男の子は喜ぶと思いますけど、ナイーブな女の子だと、かいじゅうたちの描写が激しいところがあるので、ちょっと怖がってしまうかも……。でも、子どもたちは純粋だから、あの中にある純粋な部分を拾って観るのかもしれませんね。みんなに気に入ってもらえたらうれしいです。
Q:最後に、これから映画を観る方に一言お願いします。
映画に引き込まれて、始まったと思ったらあっという間に終わってしまいます。大人が観ても間違いなく楽しめる作品なので、ご家族でご覧になってほしいですね。
まるで少女のようにかれんでありながら、話してみると落ち着いた大人の女性という、見た目と中身のギャップが何とも魅力的な永作。終始穏やかな笑みを浮かべてインタビューに応じる姿から、仕事もプライベートも充実している様子がうかがえた。そんな彼女が、「スパイク・ジョーンズ監督の素直さがよくでていると思う」と語る本作は、鬼才ジョーンズ監督ならではの解釈で、絵本の名作を独創的に映像化した意欲作。日本語吹き替え版を観るときは、永作がテンションMAXで挑んだ"かいじゅうの遠ぼえ"をチェックしよう!
(C) 2009 Warner Bros. Entertainment Inc.
『かいじゅうたちのいるところ』は1月15日より丸の内ルーブルほかにて全国公開