『ゴールデンスランバー』堺雅人、竹内結子 単独インタビュー
別れってこういうものなのかって実感します
取材・文:斉藤由紀子 写真:尾藤能暢
映画『アヒルと鴨のコインロッカー』『フィッシュストーリー』に続く、中村義洋監督による伊坂幸太郎原作の映画化作品『ゴールデンスランバー』が完成した。本作は、総理大臣暗殺事件の犯人に仕立て上げられた男が、大学時代の仲間や出会った人々に支えられながら、必死の逃亡劇を続けるサスペンスミステリー。主人公の青柳を演じた堺雅人と、青柳を助ける元恋人の晴子を演じた竹内結子が、作品への思いや撮影の裏話をじっくりと語ってくれた。
主人公を演じる堺は、糸の切れた凧(たこ)のようなもの!?
Q:演じられているお二人から見て、完成した作品はどう思われましたか?
竹内:わたしは、「映画を観たな!」という感じがしました。すごく密度の濃い何かが心の中に残ったというか、映画として面白いものをすべて持っていると思ったんですよね。登場人物の何げない一言が、後々のストーリーに大きな影響を与えていたり、人を思う気持ちの強さとか、悲しいのに出てくるどうしようもない笑いとか、いろんな要素が含まれていて……。この作品で、中村監督の演出って好きだなと改めて思いました。
堺:僕は、あんまり客観的に観ることができなかったんです。主人公の青柳って、最後まで自分のペースをつかむことができなかった男なんですよね。だから、演じている自分も最後までペースがつかめていないんですよ。共演者の皆さんにフワフワ影響されながら風に舞う、糸の切れた凧(たこ)のようなものというか。凧(たこ)の僕自身に思惑がないので、映画を観ているときも撮影時の楽しい雰囲気ばかり思い出してしまうんです。そんな経験は初めてなので、かなり珍しい作品なんですよね。
Q:堺さんのその気持ちは、時間がたって作品をもう一度観たら変わると思いますか?
堺:20年後ぐらいに観れば変わるのかもしれませんけど、かなりの時間が必要な気がします。ただ、原作者の伊坂さんも中村監督も僕と同世代で、この作品に描かれている青柳も晴子も、僕らとほぼ同じ時代の人なんですよね。同世代の作家さんの作品を、同世代の監督の演出で演じることができて、それを2010年に観ていただくというのは、とても幸せなことだと思います。僕が20年後にこの映画を観たら、その幸運をもっと実感するでしょうね。
原作が伊坂幸太郎の人気作品だけに、プレッシャーも大きかった!
Q:本作は、伊坂さんと中村監督とのコンビ第3弾でもあります。ファンの期待もかなり大きいと思うのですが、プレッシャーはありませんでしたか?
竹内:そりゃありますよ! だって原作は本屋大賞に選ばれたベストセラーですし、すさまじい数の伊坂ファンが注目して下さってるんですもん。「いや、晴子は竹内じゃないっしょ!」と言われる怖さはありますよ。もちろん。
堺:でも、それはあらゆる原作を持つ作品に当てはまることだと思うんですよね。それをプラスのプレッシャーに感じて変えていかなければダメだし、われわれの解釈でしか作品はつくれないですしね。観た方がお気に召さなかったら、「申し訳ありません!」って言うしかないです(笑)。
Q:原作も読ませていただきましたが、個人的には原作ファンもナットクの映画化作品だと思いました。
竹内:ありがとうございます! 伊坂さんが書かれた原作の世界と中村監督の作る世界、二つの「ゴールデンスランバー」があるとして、わたしが参加しているのは映画の方なんだからと開き直ってましたけど、内心は怖いんですよ。だから、原作ファンもナットクですとおっしゃっていただくと、シュワ~ッて身体の力が抜ける気がします(笑)。
堺:本当にホッとしますよね。
Q:中村監督は、堺さんを「青柳のように助けたくなっちゃう人」とおっしゃっていたそうですが、竹内さんも青柳と堺さんには共通点を感じますか?
竹内:感じますね。堺さんって人当たりがよくて、どんな人のことも「ウェルカム!」って言ってくれそうな雰囲気があるんです。そう考えると、悪いたくらみもウェルカムにしてしまう青柳くんと、少しかぶるような気がするんですよね。
堺:青柳は、無防備で真っすぐで、すべてを受け入れる男なんだけど、だからこそ、人にだまされてしまう。それって、同じ力の表と裏なんですよ。彼は、他人の偶然の好意によって助けられるけど、他人の偶然の悪意によって追い込まれる。伊坂作品の一筋縄ではいかないところって、そういうところだと思うんですよね。
仙台の撮影現場で、やっと会えたと思ったら……?
Q:お二人は、中村監督の『ジェネラル・ルージュの凱旋』で共演されているだけに、現場ではやりやすかったのではないですか?
竹内:それが、堺さんとは現場で会うことはほとんどなかったんですよ。わたしたちの共演は、ほとんど回想シーンでしたし。撮影はすべて仙台で行われたので、お互いに近くにいるのはわかっていたんですけど、監督が「そんなに簡単には会わせてやらないからな」ってニヤニヤしながらおっしゃっていて(笑)。それは監督の狙いだったみたいですね。
堺:スタッフさんも、僕たちのスタンバイをわざとずらしていたみたいなんですよ。だから、竹内さんと会えたときはすごくうれしかったですね。でも、やっと会えたと思ったら、次の日の撮影が青柳と晴子の別れ話のシーンだったので、一気にさみしくなっちゃいました(笑)。
Q:いつもと変わらない日常の中で、晴子が青柳に突然別れを告げるシーンですね。
竹内:でもね、晴子はチョコレートをきっちり割ってくれる青柳くんがいやになったわけじゃないんです。シーマンに「小さくまとまるなよ」って言われたことだけが原因じゃないんです。すべてはトータルなことだと思うんですけど、恐ろしいシーンですよね。別れっていうのはこういうものなのかって、実感しちゃいますよ(笑)。
Q:「小さくまとまるなよ」といえば、自分が小さいなと思ったことはありますか?
竹内:あります! お腹が空いたら機嫌が悪くなるとか、家で見てはいけないものを見たら「ワアアア!」って叫んだりとか……(笑)。
堺:これ、ゴキブリの話ですよ(笑)。
竹内:それで、恐怖を紛らすために、いろいろな人にメールしてみたりとか(笑)。あとは、ちょっとガラの悪い知らない男の人に、「おい、竹内!」って小さなケンカを売られたとき、「何だよっ!」って言い返しちゃったことがあるんです。そしたら、その人は隠れて出てこなくなったんですけど(笑)、小さなケンカを買ってしまった自分が一番小さいな~って思って切なくなって、またみんなにメールしちゃいました(笑)!
堺:(爆笑)!
「信じる」と「知っている」との違いとは?
Q:青柳の武器は信じることでした。お二人の役者としての武器は何だと思いますか?
竹内:いつも自分が幸運だと思うときって、周りがいい人なんですよね。だから、幸運に恵まれるタイミングがあるとすれば、それが自分の武器なのかもしれません。とはいえ、宝くじに当たったことはないし、打ち上げの抽選も当たらないんですけど(笑)。それから、デビューしてからずっと、いい共演者と巡り合ったとか、勉強させてもらったことはあっても、これをやらなきゃよかったと思う作品がなかったんです。ちょっと恥ずかしい思いをしたことはありますが、やって後悔したことがない。そこが自分の武器だと思います。
堺:すごい! 感謝と自己肯定ですね。それ、僕も乗っかります! この質問の答えを、竹内さんと同じにしておいてください(笑)。
Q:では、これから映画を観る方にメッセージをお願いします。
堺:非常に映画らしい映画、物語らしい物語になっていると思います。言葉で説明するよりも、観ていただければ伝わるものがあるはずです。ぜひ映画館で観ていただけたらと思います。
竹内:誰かのことを「信じる」ことはできるかもしれないけど、その人が犯人ではないことを「知っている」と言い切れるところまで相手を思えるのって、そうそうできないと思うんです。わたしにはどれだけ「知っている」と言い切れる人がいるのかと、強く感じた作品です。皆さんにも、この映画からいろんなことを感じていただけたらうれしいです。
「竹内さんと一緒だと楽だわ!」と堺がつぶやけば、「わたしも安心してしゃべれます!」とすかさず答える竹内。息のピッタリ合った二人の醸し出す空気に、最初から最後まで引き込まれっぱなしのインタビューだった。「撮影が本当に楽しかった」という堺の言葉通り、完成した作品を観れば、現場の雰囲気の良さが伝わってくる。中村監督の手によって見事に映像化された伊坂ワールドは、原作ファンの拍手喝采(かっさい)を浴びること必至! もちろん、原作未読の方も思いっきり楽しめる作品なので、ぜひご覧あれ!
映画『ゴールデンスランバー』は1月30日より全国公開