『インビクタス/負けざる者たち』クリント・イーストウッド監督、モーガン・フリーマン、マット・デイモン単独インタビュー
これは、歴史上の重大事件のひとつなんだ
文・構成:シネマトゥデイ 写真:Kaori Suzuki
アパルトヘイトが解除された直後の南アフリカに実在したラグビー・チームとネルソン・マンデラ氏の交流を描いたジョン・カーリン原作のノンフィクション小説を映画化した『インビクタス/負けざる者たち』。監督のクリント・イーストウッドとネルソン・マンデラ氏を演じたモーガン・フリーマン、ラグビー・チームのキャプテンを演じたマット・デイモンの3人に、実話を描くことの責任の重さや、アパルトヘイトという根の深い問題に慈悲深く取り組んでいったネルソン・マンデラ氏の人柄などについて語ってもらった。
モーガン・フリーマン(ネルソン・マンデラ役)
Q:クリント・イーストウッド監督とは長いお付き合いだと思いますが、あなたから見たクリントはどういう監督ですか? あなた自身、彼との仕事はやりやすいですか?
モーガン:まず言えるのは彼の物静かさ。それを体現しているのは彼の強さと統率力だ。彼は俳優に指図しない。一度俳優を決めたら後は下がって見ている。まるで「あなた方を配役したのは自分たちがどうすればよいかわかっている人たちだからだ」と言っているようだ。わたしは何をすべきかわかっていたから、その仕事に打ち込むだけだった。そこから先の彼の仕事はとにかく速い。ワンテイクで思い通りに撮れたらすぐ次だ。あのやり方は大好きだね。
Q:ネルソン・マンデラ氏とは個人的に親交もあるとうかがいましたが、彼の持つ哲学についてどのようにお考えですか?
モーガン:彼は魔法だよ。そして魔法というのは説明できないものだ。彼には純粋な直感が備わっていた。そして人々をいかにして操り、そして善の道へと導くかを理解していた。それが彼の仕事・人生の天命であり、彼はその天命に従って生きたんだ。彼は復讐(ふくしゅう)を考えなかった。彼が考えたのはいかにして国家の救済を実現するかだ。ロッベン島の牢獄にいるときに看守たちを仲間に取り込むことから始めていき、彼らに柔和に接していったんだ。
Q:この映画は人々の心をとらえて離さない強い魅力を持った作品だと思いますが、それは物語のいったいどの部分だとお考えですか?
モーガン:これは、単なるラグビーの試合ではなく、歴史上の重大事件のひとつなんだ。そしてこの話の素晴らしい点は結末にある。ある一日の昼から夜にかけての時間。いかにマディバ(マンデラの通称)とピエナールが「仕掛け」をしたかだね。
マット・デイモン(フランソワ・ピエナール役)
Q:あなたが演じたラグビー南アフリカ代表チームのキャプテンは弱小チームを最強チームへ導きます。彼は、どんな心境でこの重責な任務をこなしていったのでしょうね。
マット:ある日彼は、大統領からお茶の誘いの電話を受ける。何が起こるかもわからずとにかく行ってみたら、マンデラ大統領という人間に圧倒されることになる。マンデラが彼に依頼したことは彼の予想、国民全体の予想をはるかに超えるものだっんだ。ピエナールの視点から観たこの映画は、まさに旅路だよ。チームがどうやって一つにまとまっていき、どう準備をしたか。大会までの過程でチームの面々はこれが単なるラグビーを超えたものだということ、国を一つにまとめるために自分たちが重要な役割を担うことを理解していくんだ。
Q:この物語は、実話で、しかも当時の南アフリカはアパルトヘイト解除直後で、複雑な問題を抱えています。演じる上で責任感のようなものは、あったのでしょうか。
マット:正直言ってこれほど重責を感じた作品はなかった。僕の私見だけどマンデラは僕たちが同時代に生きたなかで最も偉大なリーダーだ。彼の功績、そして南アフリカという国家が成し遂げたことは最も偉大な物語の一つだよ。あと60年生きてもこれだけの話にはめぐり会えないと思うよ。この国の成し遂げたことはすごいことだよ。僕たちがこの物語を語りたい理由はまさにそこだよ。
Q:クリント・イーストウッド監督は言うまでもなく、優れた監督だと思いますが、あなたから見たクリント監督の力量というのはどれほどのものでしょう。
マット:クリントは映画という言語をとても流暢に使いこなすと感じたよ。一つの題材で20通りの撮り方で20通りの物語を紡ぎだせるような感じだ。経験豊富で、映画がうまくいくには、どうすればよいかを知り尽くした監督だ。
クリント・イーストウッド監督
Q:ネルソン・マンデラ氏と対面されたようですが、どのような人だったでしょうか?
クリント:マンデラ氏とは撮影中に対面した。われわれがこの映画を作っていることを彼も喜んでいると聞いていたので映画については話もしなかった。「いよいよ、来ました」「よく来てくれました」「どうもありがとう」という具合だった。マンデラの功績については言うまでもないが、当時の南アフリカで後ろ向きの不平不満が噴出する中でマンデラが大統領に就任して、すぐに人々は彼の持つ慈悲深さ、そして恐怖ではなく統一の精神で国を指導していく姿に驚かされることになるんだ。
Q:そんなマンデラ氏は、なぜ南アフリカ代表のラグビー・チームを応援したのでしょうね。
クリント:誰もが祝祭が必要だと感じていた。映画のせりふにもなっているが、ワールドカップに関して話し合っているときにマンデラはこう言った。「今この国に必要なのは偉大さだ」彼はラグビーの中にそれを見いだすが、ほかの人々は「何のために単なるスポーツにそれほどの関心を寄せるのだ? どうせ勝てないし何も得られない」という考えだ。結果的にマンデラが正しく、代表チームが偉大な瞬間を実現することになる。
Q:南アフリカで撮影されたそうですが、似たような場所ではなく本当の南アフリカで撮影されたことに意味はあるのでしょうか。
クリント:南アフリカ以外での撮影は考えられなかった。南アフリカという土地、そこに住む人々が必要だったからだ。ほとんどの役に南アフリカの俳優を配役した。英米の俳優もいるが、大部分は地元の俳優たちだし、エキストラも地元の人たちだ。
Q:この物語の何がここまで興味深い話にさせているのでしょうか?
クリント:ラグビーという競技の魅力、スポーツマンシップ、そして物語のシンデレラのような劇的な結末。あのような結果になるというのは皮肉なことだ。これほど「祝祭」となったスポーツの試合をほかにわたしは知らない。まるでいつも勝てないアメリカがホッケーでロシアに勝利するようなものだよ。
マンデラ氏本人から映画を作るのであれば、自分を演じる役者はモーガン・フリーマンがいいといわれていただけあり、劇中でのモーガンはしゃべり方から、たたずまいまでマンデラ氏そっくりだった。またマットもフランソワ・ピエナール氏本人に会って彼の精神を学んだというだけあり、その抑えつつもアクティブな演技にはリアリティがあった。そして哲学を持った監督、クリント・イーストウッドが彼らを撮り上げるとなればいい映画ができないはずがない。多くの人の予想どおり、本作は第82回アカデミー賞でモーガン・フリーマンが主演男優賞、マット・デイモンが助演男優賞にノミネートされている。
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『インビクタス/負けざる者たち』は2月5日(金)より丸の内ピカデリーほか全国にて公開