コンペ部門-19作品紹介!
第63回カンヌ国際映画祭
タイののどかな村で暮らす男性は生まれる前のはっきりとした記憶を持っており、そのことからも輪廻(りんね)を信じて疑わなかった。彼の記憶の中には、1965年にタイ政府軍が行った共産主義者たちへの弾圧の歴史も残っており……。
タイの映像作家、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督が自らの短編『ブンミおじさんへの手紙』に再挑戦した長編版。仏教徒が大半を占めるタイならではの視点で、美しい田舎の風景と共に輪廻(りんね)の物語を紡ぐ。監督は2004年の本映画祭で賛否両論を巻き起こしながらも『トロピカル・マラディ』でコンペ部門審査員賞を受賞した実力の持ち主。東洋的な輪廻(りんね)の思想がどこまで受け入れられるのかがポイントだ。
1990年代、アルジェリアの山間。内戦による影響がこの山にも及び、修道士やイスラム教徒たちを取り巻く脅威は大きくなる一方だった。しかし、修道士たちは何が何でもここに残ろうと決意する。
1996年に北アフリカのアルジェリアで起きた、イスラム武装集団による修道士暗殺事件を基に映画化した問題作。『ポネット』『ルパン』などに出演するグザヴィエ・ボーヴォワだが、アンドレ・テシネやマノエル・デ・オリヴェイラの助監督を務め、1995年には自身の監督作で本映画祭コンペ部門の審査員賞を受賞している。15年ぶりの出品となる本作で、パルム・ドールへの期待も高まる。
© Armada Films/Why Not Productions
かつては華やかなショーの世界にいたプロデューサーが、バーレスクのダンサーたちを引き連れてカムバック。どぎつい化粧を塗りたくったストリッパー一座と共に、旅から旅へとフランス中をめぐりパリを目指す。
『潜水服は蝶の夢を見る』『007/慰めの報酬』の実力派俳優、マチュー・アマルリックが長編監督4作目にして本映画祭コンペ部門に初登場。マチューはフランスでは人気のある俳優だけに、カンヌでの注目度も抜群。アメリカのニューバーレスク界で知られたセクシーなダンサーたちも出演し、エロチックな世界を存分に堪能できそうだ。
チャドで水泳の国内チャンピオンだったアダムは60代になり、仕事の水泳コーチの座を息子に譲った今では落ちぶれていた。内戦状態の街では武装化した反乱軍が権力者を脅し、政府はこれに反発。侵略軍と戦う若者と金を、国民から集めようとするが……。
マハマット=サレー・ハルーン監督は1999年のデビュー作がヴェネチア国際映画祭コンペ部門で評価され、2006年には審査員特別賞を受賞するなどアフリカを代表する映画監督。ダルフール紛争や中国のアフリカ政策の影響を受けるチャド共和国で、そこに生きる人たちの姿を切り取る作品に注目が集まる。
かつて共に遊んだ幼なじみ二人は立派な大人に成長し、主人公は今や警察官となったかつての友人のせいで不正取引にかかわるハメになる。どうしようもない状況の中、何とかしてその状況から脱出したいと思うのだが……。
『バベル』で2006年の本映画祭で監督賞を受賞したメキシコの鬼才、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督最新作。今回は『ノーカントリー』で2008年アカデミー賞助演男優賞を受賞したスペインの旗手ハビエル・バルデムを主演に迎え、堕(お)ちていく男の物語がダイナミックに展開する。世界的に評価の高い監督&スペイン人俳優として初のアカデミー賞に輝いた名優による強力タッグに期待大!
ローマ郊外で暮らす労働者のクラウディオ。妻は3人目の子どもを妊娠していたが……。彼は妻と死別したトラウマに苦しみながらも、2人の息子を養うために違法ギリギリの方法で金を稼ぐことにする。
『息子の部屋』のナンニ・モレッティ監督の助監督をしていたダニエレ・ルケッティ監督は、1991年の『Il Portaborse』以来2度目の本映画祭コンペ出品。『NINE』のエリオ・ジェルマーノや『エイリアンVS. プレデター』のラウル・ボヴァなど、イタリア内外で活躍するキャストをそろえた。パルム・ドールを受賞して、師のモレッティ監督に続きたいところ。
イタリアに最新作のプロモーションのために出掛けたミドルエイジのイギリス人作家は、偶然そこで美しいフランス人女性と出会う。意気投合した二人は、今も中世のたたずまいを残す優雅な街サン・ジミニャーノを訪れる。
素人俳優を使って希有な作品を撮ることで有名な『明日へのチケット』などのイランの巨匠、アッバス・キアロスタミ監督の最新作。本作では珍しくメインキャストに『ショコラ』などのフランスの大物女優ジュリエット・ビノシュを起用。監督の本映画祭とのかかわりは深く、1997年には『桜桃の味』で最高賞のパルム・ドールを受賞していることからも、久々の栄冠に輝くのかが注目を集めている。
© Laurent Thurin Nal/MK2
生活保護を受けながら娘から預かった孫の面倒を見ている60代の女性は、ある日、詩の講座に参加することになり、それまで文学とは無縁の世界で慌ただしく生きてきた彼女が、生まれて初めて詩を詠む喜びを知るのだった。
昨年の本映画祭コンペ部門の審査委員を務めたイ・チャンドン監督が、『シークレット・サンシャイン』に引き続き本映画祭に招待されたヒューマン・ドラマ。韓国の往年の名女優、ユン・ジョンヒの15年ぶりのスクリーン復帰作としても話題を集めている。『シークレット・サンシャイン』ではチョン・ドヨンに主演女優賞をもたらした監督だけに、今回は自身が監督賞を狙いたいところだ。
© 2010「アウトレイジ」製作委員会
ルネサンス後期のフランス。メチエール嬢とギーズ公爵はお互いに愛し合っていたが、メチエール嬢はモンパンシエ家の王子と結婚させられてしまう。
16世紀の貴族階級を描いたラファイエット夫人のロマンス小説を、『レセ・パセ 自由への通行許可証』の巨匠ベルトラン・タヴェルニエ監督が映画化。監督が本映画祭のコンペに出品するのは実に20年ぶり。モデル出身のメラニー・ティエリー、ギャスパー・ウリエルやグレゴワール・ルプランス=ランゲという、フランスの若手美形俳優のコスチューム姿が見どころ。
家族とともに日々を楽しんだ春、旧友と過ごした夏、息子に美しい恋人ができた秋……。トムとジェリの夫婦は過ぎ行く時の中で、孤独な友人、身近な者の死など、数々の問題や悲しみを乗り越えながら、幸せな冬を迎える。
『秘密と嘘』ですでにパルム・ドールを受賞しているマイク・リー監督の最新作は、過去の同監督の作品でもおなじみのジム・ブロードベントやイメルダ・スタウントンなどイギリスの名優たちが出演。前作の『ハッピー・ゴー・ラッキー』でもさまざまな映画賞を受賞したイギリスの名匠だけに、2度目のパルム・ドールも十分ありうる。
アルジェリアの地を追われた3人の兄弟と彼らの母は、離れ離れになってしまう。第2次世界大戦後のフランスでは、アルジェリア独立のためのデモが盛んに行われるようになっていて、パリで彼らは再会することになる……。
2006年の本映画祭で5人の俳優たちに主演男優賞が贈られた『デイズ・オブ・グローリー』の主要キャストと監督が再び集結。前作の数年後のフランスを舞台に、ジャメル・ドゥブーズ、ロシュディ・ゼム、サミ・ブアジラが演じるアルジェリア人3兄弟の目を通してアルジェリアの独立運動を描く。2度目のアンサンブル受賞なら話題になること必至。
船長のリンが6か月の航海から戻ると、25歳の息子が警察によって射殺されたという訃報がもたらされる。彼は一体何が起きたのかを理解しようと思うのだが、自分が息子についてほとんど何も知らないということに気付き、がく然とする。
『ルアンの歌』のワン・シャオシュアイ監督が『ソフィーの復讐』などの中国の人気女優ファン・ビンビンらを迎えて贈る人間ドラマ。日本では知名度が低いものの、監督は『青紅/Shanghai Dreams』で2005年に本映画祭で審査員特別賞を受賞した実力派。ほぼ3年に一度の割合でアジア映画がグランプリに輝いているカンヌのジンクスからすると今年はその当たり年なので、本作にも熱い視線が注がれている。
ドイツ、ウクライナ、オランダ
セルゲイ・ロズニツァ
Victor Nemets, Olga Shuvalova
連日の過酷な労働で疲れ切っていたトラック運転手のゲオルギーは、不運にも高速道路の出口を間違えてしまったため、ロシアの片田舎の荒野で立ち往生するハメになる。やがて彼は退役軍人や幼い売春婦たちと出会い……。
ウクライナのドキュメンタリー作家であるセルゲイ・ロズニツァは日本では無名だが、ポーランドのクラクフ映画祭や、チェコのカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭などの常連で、主に東欧で高い評価を受けている実力派。世界各国の巨匠と呼ばれる大物監督たちの作品がこぞって上映される中、本映画祭に初参加という栄誉を手にした監督の意気込みが伝わってくる。ここで一発逆転を狙いたいところ。
まだ若かった男は深い考えも持たずに子どもを持ち、長い間息子ルディを寄宿舎に入れたまま放置していた。17歳になった息子は家に戻って両親と共に暮らすことを熱望するが、彼の父親も母親もそれを望んではいなかった。
『デルタ』で2008年度の本映画祭国際批評家連盟賞を受賞したハンガリー期待の星コーネル・ムンドルッツォが監督と出演を果たしたサスペンス。望まないまま子どもを生んでしまった両親と、家族の愛情に飢えた少年の微妙にねじれた関係を寂れた風景と共につづる。2005年の本映画祭では、ある視点部門に出品した『Johannna』(原題)で注目を集めた俊英だけにその動向が注目される。
上流階級の家で住み込みのメイドとして働くことになったウニは、魅力的なその家の主と肉体関係を持つ。その豪華な大邸宅には彼の妻や子どもも一緒に暮らしていたが、二人の情事はより一層激しさを増していくのだった。
『ユゴ 大統領有故』などで注目される韓国のイム・サンス監督が、同国の巨匠である故キム・ギヨン監督の傑作『下女』をリメイク。2007年に『シークレット・サンシャイン』で本映画祭主演女優賞を受賞して以来、芸能活動を休止していたチョン・ドヨンの久々のスクリーン復帰作となる。監督にとっては初のカンヌ国際映画祭入りとなるが、カンヌの女王を伴っての参加に期待も膨らむ。
スターリンの粛清の嵐が吹き荒れる中、かつてのロシア革命の英雄コトフ大佐も正当な裁きを受けることができず、不当な有罪判決を受ける。そんな折り、第2次世界大戦が勃発(ぼっぱつ)し、彼も兵士として戦場に送られることになる。
本映画祭のコンペ部門には1987年『黒い瞳』、1994年『太陽に灼かれて』を出品したロシアの巨星ニキータ・ミハルコフ監督が手掛けた歴史ドラマ。1991年に『ウルガ』でヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞し、その3年後には『太陽に灼かれて』でカンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを受賞。本作は『太陽に灼かれて』の続編ともいえる物語なので、すんなりと受け入れられそうな気配だ。
元英国軍兵のファーガスはイラクで仕事をしていたが、友人を失くしたショックとストレスに苛まれていた。今は故郷の町に戻ったファーガスだったが、幼なじみの葬儀をきっかけにイラク戦争への復讐(ふくしゅう)に燃えるようになる……。
イギリスの巨匠ケン・ローチ監督の最新作が開幕2日前に急きょコンペ部門に選ばれた。これまで、コンペ部門には9回選出され、2006年に『麦の穂をゆらす風』で初めてパルム・ドールを受賞。去年は『ルッキング・フォー・エリック』(原題)が出品されており、まさにカンヌの常連監督。今回選ばれた作品のタイトル「ルート・アイリッシュ」とは、イラク・バグダッドの「グリーン・ゾーン」と呼ばれる多国籍軍や政府関係者らの住まい、政府関係の建物が多くある地域と空港を結ぶ道の名前から付けられている。