『のだめカンタービレ 最終楽章 後編』上野樹里&玉木宏 単独インタビュー
のだめと千秋の恋愛がリアルに描かれています
取材・文:渡邉ひかる 写真:高野広美
2006年10月のテレビシリーズから始まり、スペシャルドラマに続き、前後編2部作の映画版でフィナーレを迎える「のだめカンタービレ」シリーズ。音大での日々を経て、クラシックの聖地ヨーロッパで暮らすのだめと千秋は、音楽家としてどのように成長するのか? そして、二人の恋は、どんな結末を迎えるのか? 映画『のだめカンタービレ 最終楽章 後編』の公開を前に、主演の上野樹里と玉木宏に話を聞いた。
今までとは一味違う? 全部詰まった集大成
すごく感情を揺さぶられる最終楽章の後編でした。
上野:明るいところはすごく明るいんですけどね。やっぱり全体の印象としてはシリアスなので、楽しいシーンが貴重な時間というか(笑)。
玉木:そうなんだよね。今までとは全然違う印象になっています。
上野:観ていて改めて実感したのは、のだめのパワーって強烈だということ。今回、のだめは嫉妬(しっと)や劣等感にどんどん負けてゆがんだ方向へ進んでいきますよね。マイナスの方に振り切れちゃうと、のだめは恐ろしいことになるんだなって(笑)。普段はプラスに働くエネルギーが、マイナスに働くとすごいんです。
Q:確かに、のだめにはハラハラさせられました。
上野:そんなのだめを前に、千秋も「どうすればいいんだろう?」と行動を読めずにオロオロしていますからね。音楽に関してはぶれがない千秋なのに、恋愛に関してはそうもいかない。とはいえ、絶対にのだめをあきらめないでくれている千秋が頼もしいと思いました。これがのだめと千秋なんだというものが描かれている気がします。二人の関係における悪いパターンと良いパターンが、1作の中で両方見られる感じ。言いたいことが全部詰まっているような、いろいろなものを吸収した後編になっています。
玉木:今まで長くシリーズが続いてきた末の集大成だからこそ、一番大事なものが詰まっているんですよね。のだめが成長する過程を一番濃く見られるのも、この後編だと思う。とにかく、のだめと千秋の恋愛がリアルに描かれているんです。もちろん、今までもリアルではあったけど、エンターテインメント性の高さが勝っていた。それがいい具合に抜けて、一人の女性と男性の話になっています。その一方で、連ドラからのレギュラーである瑛太くんや小出(恵介)くんや水川(あさみ)さんが出てくる豪華さもある。本当に見応えのある作品に仕上がったんじゃないかと思います。
面白キャラからリアルな人物描写へ
Q:上野さんは揺れ動くのだめの心に共感できましたか?
上野:ドラマのころは何をやっても笑いを取るキャラクターで、観ている人に「わかる、わかる。あるよね、そういうときって」と思わせるリアリティーは少なかったと思うんです。「面白いなあ」と感じてもらえるキャラクターではあったんですが、人の心に入り込めるキャラクターとして演じられたのは今回が初めて。女の子として揺れ動く気持ちが、生活にゆがみをもたらしちゃったりもしますから。女性って、感情で左右されやすい生き物なんだって(笑)。わたしもそう思いましたし、のだめに感情移入しながら観ていただけるとうれしいです。
Q:千秋の心のドラマもなかなか複雑ですが、玉木さんはどう感じられましたか?
玉木:今回の展開では、千秋として初めて抱く感情が多く、演じる僕もすごく悩みましたね。あくまでも、千秋と一緒に悩んだといえますが。考えていた以上のことが好きな相手に起こったら、男としてはどうしてあげたらいいのかわからない。そもそも千秋は人のいい人間だから、のだめを気遣ってあげたいだろうし。ただし、その分ちょっとおせっかいになってきているとも思うんですよ。どうしてあげたらいいのかわからず、余計な行動に出てしまう気持ちは理解できました(笑)。
のだめと千秋の恋の行方にドキドキ!
Q:今までとはテイストの異なるラブストーリーになっているからこそ、のだめと千秋の恋を見てきたシリーズファンへの気配りも感じられました。
上野:のだめがミルヒーと演奏するシーンの裏話なんですが、最初は赤いドレスが用意されていたんです。それがのだめらしい色だという理由で。でも、定番の赤は千秋との色であってほしかったから、わたしは紫のドレスを提案しました。紫って、欲求不満の色らしいんですよ(笑)。そういった細かいところからも、シリーズを観てきてくださった方は何かを感じ取っていただけると思います。
玉木:細かいところも含めた連ドラからの変化が、二人の恋愛を描く上での重要なポイントですからね。二人とも、大人への階段を一歩上っていますから。今まで以上にリアリティーにこだわったのも、そういった思いからです。
上野:今回、「千秋先輩の背中に飛び付きたくて、ドキドキ」というセリフが出てくるんです。それは連ドラにも登場したセリフなんですが、そのときはギャグで言って笑いを取るシーンだったんですよね。でも、今回は最初のころとは違う、より深みを増したセリフにする必要があった。だからこそ、言い方をいろいろ話し合いましたね。言葉自体は明るいけど、まじめなラブの気持ちが込められているセリフがいくつかあるんです。
Q:演奏シーンも、ある種のラブシーンですね。
上野:演奏シーンで恋愛を表現するというのは原作者の二ノ宮先生もおっしゃっていて、監督もすごく気になさっていました。
玉木:その中でも特に重要なのが、のだめと千秋の連弾シーン。二人の気持ちや雰囲気が演奏しながら変わっていくシーンなので、すごく難しかったですね。現場でも話し合いに時間をかけました。
上野:演奏しているうちに、千秋に対するのだめの思いが高まっていくんです。色が付いていくというか、ピンクになっていく感じ。顔の血色もどんどんよくなっていくし、最後にはキュン(笑)。「このタイミングで千秋と視線を交わしてほしい」「でも、この部分はピアノを弾く指が忙しいから、視線を交わすなんて無理」といったように、監督の指示を受けながら、何度も確認し合いました。実は、最初のリハーサルに臨んだときは、気持ちの変化を表すことができなかったんです。映画版の撮影に費やしてきた数か月間、あまりにも重い感情を抱えてきたので、それを数分間で変化させるのなんて無理だった。でも、それくらい意味のあるシーンになっていると思います。
玉木:自分で言うのも何ですが、僕が観ても心揺さぶられるシーンになっていましたね。現場で感じた以上のものがそこにある気さえしました。映画ってすごいと思いました。
のだめと千秋のこれからに……期待!
Q:シリーズファンの妄想を満たす優しい気持ちで答えていただきたいのですが、原作の番外編が映像化されるとしたら出演してくれますか?
玉木:本当にそういう期待の声があったら、それはもちろん純粋に考えます。でも、今は体が完全にフィニッシュしているので、気持ちはともかく、体が驚きますよね(笑)。
上野:そう、だいぶやり切ったので(笑)。それに、今回のラストがわたしはすごく好きです。
玉木:のだめと千秋って、どこまで行ってもその関係にゴールはないと思うんですよ。壁が出てきたり、その壁を乗り越えたりの繰り返しなんです。
上野:のだめと千秋はこれからもけんかして飛びげりし合うかもしれないし、のだめが遅刻して千秋のコンサートを見られなかったり、千秋が大事なコンサートを失敗したりするかもしれない。
玉木:失敗しちゃうの?(笑)
上野:(笑)。これからの二人をにおわせるような、そんな味わいのラストになっていると思います。
玉木:観てくれる方の心に残っていくものであれば、僕たちも幸せですね。
シリーズに長年携わり、のだめと千秋として存在してきた二人が『最終楽章 後編』でこだわったのは「感情」。のだめの心情について熱心に語る上野と、そんな彼女に優しいまなざしを向けながら、的確に言葉を添えていく玉木の姿が印象的だった。二人の作品に対する愛が、感動のグランドフィナーレをより感動的なものにしている。
映画『のだめカンタービレ 最終楽章 後編』は4月17日より全国公開