『アウトレイジ』北野武監督 単独インタビュー
映画の中に、前フリとオチを仕掛けている
取材・文:シネマトゥデイ 写真:高野広美
椎名桔平、加瀬亮、三浦友和、國村隼、石橋蓮司、小日向文世、北村総一朗という豪華キャストを迎え、登場人物が「全員悪人」という前代未聞のヤクザ映画『アウトレイジ』を手掛けた北野武監督。カンヌ国際映画祭で上映され賛否両論を生んだ本作は、これまでの北野映画とは一線を画する異色作だ。涙が出るほどの笑いと痛みがあり、ノンストップ極上エンターテインメントに仕上がった。まさに北野監督の集大成! 男たちの怒号が飛び交う本作の裏側を、北野監督が独特のユーモアで語り尽くした爆笑必至のインタビューとなった。
もうほとんど全員が、「バカヤロー!」しか言っていない
Q:すごく豪華なキャスティングですね!
プロデューサーが、たまには北野組以外の人と仕事をしませんかって言ってきてさ。おれなんかの映画に出たい人がいるのかなあって言ったら、「いますよ!」って。だから、キャスティングの人に、「じゃあ出てもいいっていう役者さんたちの写真持ってきて」って言ったら、わーって集まったんだよ。
Q:配役は、どのように決めていかれたんですか?
組織図みたいに写真を並べて置いていったんだよね。それで三浦さんはどこへ置くんだって言ったら、だんだん上の方に上がっていっちゃうんだよ(笑)。だから、北村さんもそうだけど、あの二人は下のチンピラたちとはちょっと別格にしたの。三浦さんを中心に上下に分けたのは、正解だったかなあ。
Q:三浦さんの静かな迫力が、怖かったです。
まず会長(北村総一朗)が怒鳴るところから始まるんだけど、三浦さんに演じてもらった側近までもが一緒になって怒鳴り散らしたら、もうみんな怒鳴っちゃうってことになるから(笑)。三浦さん以外のほとんど全員が、「バカヤロー!」しか言っていないからね。
Q:加瀬さんも、ごく普通の静かな役が多い役者さんだと思うのですが、いかがでしたか?
加瀬さんには、殴る蹴るだけの暴力じゃなくて、知識があって、ITとか知ってて、金を回すことが主な仕事のヤクザを作ろうと思ったんだよ。でも、それだけだとヤクザらしくないじゃない? だから、キレたときはムチャクチャやるっていうふうにしたくて、一回だけ殴らせたわけ。でもムチャクチャやれって言ったもんだから、カットになったあともまだ必死に殴っててさ(笑)。もう、ハアハア言っちゃって、メガネも吹っ飛んじゃって(笑)。すごい迫力だったよ。
Q:正直、最初は誰だかわからなかったです。
加瀬さんをヤクザにするのが一番大変だった(笑)。オールバックにして、スーツ着させたんだけどまだダメで、色眼鏡かけさせたり、とにかく大変だったね。結果的にはすごいワルになったから面白かったよ。
ヤクザたちが言い合いしているシーンは、ほとんど漫才の間なんだよ
Q:男同士の意地の張り合いが最高に面白いですよね。「やれねえのか、バカヤロー」「やってやるよ、このヤロー」みたいな(笑)。
ヤクザたちがワーワー言い合いしているシーンは、ほとんど漫才の間なんだよ。全員が、漫才のツッコミ状態。セリフの間を編集で、全部縮めてあるからね。役者にも、もっと早くしゃべってって指示したりしてた。こっちがセリフ終わる前に、もう早口で怒鳴っているみたいなね。
Q:あんなに笑えたのは、漫才のツッコミだったからなんですね!
中野英雄さんが罵倒されるシーンなんて、もう言葉のリンチだよね(笑)。「早くやれこのヤロー、てめえまで出てくるんじゃねえバカヤロー」とか、もうすごい(笑)。
Q:ほかにも思わず笑ってしまうシーンがたくさんありました。
映画の中にさ、いろいろな前フリとオチを仕掛けているんだよ。映画の最初の方に前フリがあって、後ろの方にオチがある、みたいな。そこも、面白いと思うよ。
Q:撮影しながら、つい笑っちゃうことはなかったんですか?
撮っている間はみんな緊迫してるから、笑っていないんだよね。でも、編集したのを流してみると笑うんだよ。おれ、こんなおかしい映画撮ってたかなあって(笑)。編集する前は痛いだけのシーンも、つなげてみたら、随分おかしいよこれって(笑)。
編集しながら石橋さんが出てくるたびに、大爆笑だった
Q:石橋さんのいじめられっぷりも、本当にすごかったですよね。
石橋さんが一番かわいそう。あれだけひどい目に遭ってさ。でも、編集しながら石橋さんが出てくるたびに、大爆笑だったよ(笑)。
Q:石橋さんが会見のときに「僕は監督のサディズムを刺激するんです」っておっしゃられていましたが、素質はあったんですか?
石橋さんが器用だから、どっちかっていうと話の筋を引っ張って行くより、ちょっと印象に残る方がいいと思って。そしたら結局、笑われ役になっちゃったんだけど(笑)。よく考えると、散々ひどい目に遭わされただけで、何もいいとこないの(笑)。
Q:確かにひどい目に遭わすシーンが本当に痛いんですけど、なんか極限超えちゃって、めちゃめちゃ笑っちゃいました。あれは何なんでしょう? 不思議な感覚ですよね。
人間は追い詰められると笑っちゃうっていうよね。笑うことで、ガス抜いてるんだと思うよ。緊張しても、倒れちまうといけないから、笑っちまうんだろうね。今回の暴力シーンはあまりにも激しいから、つい笑っちゃうというかさ。
Q:なるほど、ガス抜きですね(笑)。
おれも前に、手を切って指がぐちゃってなったときに、始めは泣くんだけどあとは笑っちゃうんだよね。「ひでえな。こりゃ」って(笑)。泣くことと笑うことは表裏一体のところがあると思う。
ヤクザ映画は、アリとイモムシの戦いみたいに、客観的に観るのが楽しい
Q:椎名さんのベッドシーンは、女性にとってはたまりませんでした!
最初はやる予定じゃなかったんだよ。彫り師の人が、せっかく時間かけて入れ墨を描いてくれたんだけど、映してあげられなくってさ。あんまり悲しそうな顔をするんで、「あ。入れ墨、映してあげなきゃ」って。それで入れたの(笑)。
Q:全国の椎名さんファンじゃなくて、彫り師さんのためだったんですね!
考えてみたら風呂場でもいいんだけどさ(笑)。でも、ちゃんと入れ墨を見せるようなシーンがほかになかったんだよ。結局、彫り師の人がラッシュ(試写)を観たあとに、「ありがとうございます」って言ってくれたよ(笑)。
Q:気遣いも大変なんですね(笑)。ほかに、苦労したところはありますか?
今回一番難しいなあって思ったのは、CGを一切使わずに、カースタントの撮影をしたとき。CGを使えばもっと簡単なんだけど、あえて加工しないようにした。まともにやったから、スタントの人が大変そうだったね(笑)。今の車ってコンピューター制御だから、なかなかドカンってぶつからない(笑)。一発で決めないとだめだから、実際は準備が大変だったね。
Q:ヤクザ映画を撮る魅力ってどんなところですか?
生きるとか死ぬとか、死と隣り合わせって言えば軍隊だって同じなんだけど、軍隊は上の命令とか国の命令だから、個人的には動けない。でも、ヤクザは自分の上からの命令にも反発したり、エゴを出したり、どこか人間くさくて、暴力が絡むから、物語の題材としては絶対に面白い要素が多いんだよね。
Q:映画『アウトレイジ』の男たちの狂騒を、どのように楽しんでほしいですか?
もうね、完全なるエンターテインメント・ムービーだから、ヤクザ同士の権力闘争劇ではあるんだけど、アリとイモムシの戦いみたいに、客観的に観ても楽しいんだよ。人間だって思わないで観た方が面白いはずだから、そんな感じで観てほしいね。
映画のワンシーン、ワンシーンについて語りながら、ときおり「フフフ」と思い出し笑いをする北野監督から、映画『アウトレイジ』への愛情あふれる様子がひしひしと伝わってくる。まるで、小さい子どもが楽しんでゲームを作り出していくような、そんなピュアな気持ちを持ちながら北野監督は映画を作っていくのだろう。北野監督が本作で仕掛けた暴力と笑いのわなに、どこまでも引っ掛かってみたい!
『アウトレイジ』は6月12日より全国公開