映画『十三人の刺客』役所広司、三池崇史監督 単独インタビュー
こんなにもイーグルスの曲が似合うような時代劇は観たことがない
取材・文:鴇田崇 写真:吉岡希鼓斗
江戸幕府史上、最凶の暴君を暗殺するために集まった13人の刺客たちの、命を賭した一世一代の戦いを描く大型時代劇エンターテインメントとなる映画『十三人の刺客』が完成。日本を代表する名匠・三池崇史と名優・役所広司が初の本格タッグを組み、無謀なミッションに立ち向かう男たちの生きざまを活写する骨太巨編だ。今回、三池・役所の二人に、表の『七人の侍』、裏の『十三人の刺客』と呼ばれるほどの名作を題材にした仕事、今だから語れる意外な初対面エピソード、そして痛快活劇巨編を世に送り出す現在の心境などを語ってもらった。
映画の13人の刺客同様、スタッフ側も無謀なミッションの連続だった!?
Q:13人の刺客のリーダー、島田新左衛門という男を、どんなことを思いつつ演じていましたか?
役所:暗殺というミッションを成し遂げるチームのリーダーとして、メンバーの命を預かる、また預けられる男というのが、島田新左衛門を演じる上で一番大事なところだと思いながら演じていましたが、まあ、それは監督の映像の魔術によってうまく引き出されていると思います(笑)。それとメンバー、一人一人とちゃんと目を合わせることが大事じゃないかと思っていましたね。
監督:普通の人が新左衛門を演じると、なぜあの人に付いていくの? という疑問がずっと引っ掛かったままになる。映画の持っている説得力というのは、簡単に理解できるセリフ以外にもあるということが(役所さんが演じることで)証明されているなと思いましたね。
Q:13人というのは単純に物量として多いわけですが、演出するにあたっての苦労も多そうです。
監督:それはなかったですね。でも今回自分で撮りながら、作られたカッコよさではなく、ただそこにいるだけでカッコいい映像がわれわれの世代でも撮れるんだと思いましたね。僕らは時代劇を失っている世代じゃないですか。馬10頭を用意したいというだけでプロデューサーが飛び上がる時代に、オープンセットを新規で作らないといけなかったという意味では、現場のスタッフたちはこの13人の刺客たち同様、無謀なミッションに取り組んでいたと思います(笑)。
14人目の刺客として付いて行きそうになる、役所広司のカリスマ性にホレボレ!
Q:初めての本格的なコラボレーションということですが、最初の出会いはどんな印象でしたか?
監督:役所さんと最初にお会いしたのは、ある飲み会で僕が司会者をやっていたときですね(笑)。
役所:今村昌平監督の映画『うなぎ』の打ち上げでしたね。僕はちょっと遅れて会場に行ったんですよ。すると、監督が舞台に立って打ち上げの司会をしていたんです。僕は、その様子からしばらくお店のマスターだと思っていたんです(笑)。
監督:今村昌平さんという人は、何でも使いましたからね(笑)。そのときはどうしてかはわからないけれど、僕に司会者をやれ、ということで呼ばれました(笑)。
役所:そんな初対面でしたね(笑)。
Q:そして今回は映画でガッチリとスクラムを組むことで、お互いのイメージが変わりましたか?
役所:監督は、ストレートな思いをガッチリ撮る人だなあと思っていました。今回の『十三人の刺客』を撮ると聞いたときもなるほどと思いましたし、こんなにもイーグルスの曲が似合うような時代劇は観たことがないというのが、率直な印象でしょうかね。
監督:役所さんは、人の気持ちをすっと黙って感じ取れる、共演している俳優さんの気持ちとか、そういうことを含めてすべて吸収して、すっと落としどころを決められるんですよ。自分だけ良くてもどうしようもないことをわかっていらっしゃるから、お互いにさえてくる。場を作る演出家でもあるわけです。
役所:身に余る光栄です(笑)。まあ、でもそういう雰囲気を作っていただいているんですよ。例えば落合宿を見ただけでも、美術部が俳優たちに負けないように作っている気迫があります。僕たちはそういうところにポンと連れてこられて、すごく影響されるんです。どっちにしろお芝居なので本当じゃないわけですが、衣装の扮装(ふんそう)、汚しなどを含めて、気持ちよくウソをつける。そういうものを作ってくれているのが、監督をはじめとしたスタッフなんです。それはとてもありがたいですよね。
監督:それにね、島田新左衛門は情報を発信しないじゃないですか。人を集めて、「お命ちょうだいすることとあいなった」と言うだけ(笑)。呼ばれた人は、穏やかに座っている役所さんに「お命使い捨てにいたす」と言われるだけで納得してしまう。これは撮りながら、おれでも付いて行っちゃいますって思いました(笑)。
時代の流れで作らされた『十三人の刺客』を食らえっ! って感じです(笑)
Q:資料に「日本映画、完全復活」とありますが、映画人としての役割、使命感などを感じますか?
監督:それは僕が勝手に書いたものですが(笑)、そういうのはないですね。映画人というか、そもそもテレビドラマの助監督をやっていて、Vシネマが出てきた。そのうちに映画監督という立場になって仕事をしていて、僕はVシネマでもフィルムで撮っていたので、これは海外からすると映画という扱いになっていました。そういう延長で仕事をしていて、ジャンル分けが行なわれているだけなんですよね。自分の中では全然変わらないし、そもそも映画界は、自分の手に負えないもの(笑)。現状とかよくわからない。そもそも映画界って何? って感じですから。
役所:僕らが俳優になったころはもう時代劇があまりない時代でした。子どものころに時代劇映画を観てチャンバラごっこをしていた世代ですから、これを機にチャンバラごっこをしてくれる世代が増えていってほしいと思いますね。少なくとも今回の『十三人の刺客』で時代劇のエンターテインメントを体験できて、スタッフ、キャストに経験がある人が増えた気がします。そうしていかないと、時代劇を知っている人が、いなくなる感じがありますよね。日本映画の中に残っていってほしいですね。ちょんまげはすごくパンクな頭だけれど、こんな格好が似合うのは日本人しかいないですし。
Q:まさに次代に残す時代劇エンターテインメントになりました。現在の心境はいかかでしょう?
監督:スタッフ、キャスト、一人一人の力があってこその映画ですが、自分自身、こういう映画を作れるとは想像もしていなかったんです。それに今回は、今なぜ『十三人の刺客』なのかという理由がなかった。昔の東映の人たちが映画を作った流れの中から、必然的に、作らされた感じがします。
役所:この13人に入れて、良かったなあという感じですよね(笑)。いろいろな映画を観ていると、うらやましいと思うことがよくあるんですよ(笑)。ああ、この中にいたかったなあみたいなことですよね。まさに『十三人の刺客』はそんな感じがした作品でした。もしこの13人の中にいなかったら、悔しいなと思うだろうなあというのが今の心境でしょうか。
監督:ともかくオリジナル版の『十三人の刺客』を作られた方々がまだ何人もいらっしゃるので、おれらの『十三人の刺客』が生きていたよっ! と思ってもらえると、監督としてはうれしいですね。
役所:いろいろな映画があるとは思いますが、三池監督が作った映画というのは、なまくらではない、堂々としていて、食らえっ! ていう感じの映画です。新鮮な感覚で楽しんでください。
日本を代表する名監督と名優として疑いの余地はない三池と役所だが、意外にもこの映画が初めてのコラボレーション作に。近年の日本映画の好況を受け、中でも特に盛り上がりを見せている時代劇というジャンルに対して、それぞれの思いを抱きつつも、これだけの作品が生み出せる現状に、作り手として喜びや責任を感じているというコメントが印象に残った。三池監督が言うように、いい映画は、それだけが理由で後世に残っていくものだとすれば、2010年版『十三人の刺客』も間違いなくその系譜に名を連ねるはず。ぜひ映画館でそのエネルギーを受け止めてほしい。
(C) 2010「十三人の刺客」製作委員会
映画『十三人の刺客』は9月25日より全国公開