映画『大奥』柴咲コウ 単独インタビュー
「女子はかわいい方がいい」と、この映画から教わりました
取材・文:シネマトゥデイ 写真:尾藤能暢
若者たちのハートをわしづかみにした映画『木更津キャッツアイ』シリーズの演出を手掛けた金子文紀監督が、初の時代劇に挑戦した男女逆転版『大奥』。「一人の女将軍に、3,000人の美しき男たちが仕える大奥の世界」を描いた、よしながふみの原作を、嵐の二宮和也を主演に迎え、豪華絢爛(けんらん)な美しさで映像化した。本作で、強さと女性らしさを併せ持った女将軍・吉宗を圧倒的な存在感で演じた柴咲コウが、映画の裏側から女性としての生き方まで、赤裸々に語ってくれた。
撮影のときはコンタクトをしないので、顔まであまり見えていないんです
Q:二宮さんとの共演はいかがでしたか?
フラットで壁もなく、すっと人の心に入りこんできちゃう人なんで、すごく演じやすかったです。話しているうちに、いつの間にか大事な話をしちゃったりしているんですよ(笑)。二宮くんは誰にでもオープンだから、すぐになじめました。
Q:撮影の前に、原作はお読みになっていたんですか?
出演のお話をいただいて、読みました。実はわたし、歴史ものが苦手だったんです。今を生きるのに精いっぱいなので、昔のことには興味が持てず(笑)。でも、読みやすくて、何百年も前のことなのに、身近に感じたんですよね。歴史が苦手な方でも楽しく読めると思います!
Q:映画も原作の名シーンを取り入れた部分がいくつかありましたね?
水野とのお褥(しとね)のシーンなんてそうですよね。原作では、水野と対峙(たいじ)する吉宗の格好が、ウンコ座りみたいになっているんですけれど(笑)。あの格好を映画で再現するのは、さすがにやり過ぎってことで(笑)。結局、金子監督とも相談して、ちょっと崩した感じの格好に落ち着いたんです。
Q:御鈴(おすず)廊下で、男子たちがバーッと座っている光景は圧巻でした! あそこの扉が開いたときはどんな気分でした?
あのときは、もう吉宗の気分でしたね。だから、特に「ワオ~ッ」とかは思ったりしなかったです。本当に美しい男子がたくさん並んでいたと思うんですけれど、わたし、撮影のときはコンタクトをしないので、顔まであまり見えていないんです(笑)。クリアに見えていない方が、感覚でできてやりやすいんです。この映画では、馬に乗るシーンだけ、コンタクトを着けました。
Q:あまり目が見えていない中でも、二宮さんの黒い着物は目立っていました?
鮮やかな色ばかりなので、逆にあの衣装が目立っていましたね。もちろん、そこが意図するところなんですけれど、わたしがパッと見てもすぐわかるくらい目立っていて。「喪服?」ってくらいの黒なんですが、実はすごく手が込んだ衣装なんです。黒地に、黒の刺しゅうで、手縫いらしくて……。近くで見ると、すごく粋でした。
男性って、「なんでそんなに未練がましいんだ!」ってことが多い
Q:この映画に出てくる女性は皆、凛(りん)とした強さを持ち合わせていました。女優というお仕事の中で、女性の強さを感じるときってどんなときでしょう?
撮影現場って、ものすごく過酷なんです。特にスタッフさんは、本当に眠れないことが多いくらい大変なんです。でも、前にドラマの撮影で、女性の助監督さんがいらっしゃったんですが、お風呂にも入れなくて、睡眠不足の状態でも、周りの男性たちに負けず、自分に与えられた仕事を全うしている姿に男性にはないかたくなさみたいなものを感じたことを覚えてます。わたしなんて、ほかの人よりずっと気を使っていただいているんですけれど、大変な現場だと、やっぱりピリピリしてきちゃう。そういうときに、女性のスタッフが頑張っている姿を見ると、「甘えていられないな」って、触発されます。
Q:この映画では、女性の強さを描いていますが、逆に男性の弱さを感じるときって、どんなときですか?
いっぱいあり過ぎて、わからないな(笑)。恋愛でも、女性は「もう終わり」って一度覚悟を決めたら離れられるじゃないですか。男性って、「なんでそんなに未練がましいんだ!」ってことが多いですよね(笑)!
Q:確かに、女性より男性の方がメソメソしているところが多いかもしれませんね!
その男の弱い部分が、この映画が成立しちゃう要因の一つかなって思いますね。そういった弱い男性をバックアップする、強い女性たち、みたいなね。男性が病に倒れて、少なくなっても、女性たちの元気で町は活気づいているって感じがすごく納得できたんです。とはいえ、女性が「わたしたちだけで、何でもできちゃうし」ってなったら、本当にパワーバランスが崩れていって、人間は滅亡しちゃうと思うので、ほどほどがいいですね。
女性が観たら、学べるポイントがたくさんあると思います
Q:中村蒼さん演じる垣添の水野への恋心はすごくかわいらしかったですね。柴咲さんの女性目線では、いかがでしたか?
すっごくキュンキュンでした! わたし、中村くんのシーンを見て、女性として反省しましたもん(笑)。もっとかわいげある女にならなきゃって(笑)。
Q:「何もいらないから、思い出をください」ってなかなか言えないセリフですよね!
ね~! なんか、ズキッとくるものがあったんですよね。何なんだろう、この気持ち……みたいな(笑)。垣添に教わりました。女子はかわいい方がいい! 女性が観たら、学べるポイントがたくさんあると思います。
Q:本当に色とりどりでしたもんね。男の人同士で、「それすてきだね~」とか着物を褒め合っているシーンって、今まで観たことがなかったので、新鮮でした(笑)。
わたし、ああいう男たち、嫌なんです(笑)。そんなこと考えていないで、もっとほかに考えることあるだろ! って言いたくなりましたね!
仕事をしていても、やっぱり女としての幸せがぬぐい去れない
Q:この吉宗という役は、すごく存在感のあるキャラクターでした。女優として、昔と今、振り返ると役の選び方も変わってきましたか?
そうですね。10代のころは自分にとって刺激になる挑戦をしたいっていう時期でした。だから、シリーズものとかは嫌だったし、どうせ同じ期間撮影をするなら、違う作品で、違う役柄で、違う現場で、違う空気を感じたかったんです。でも今は、同じ作品で同じスタッフさんでも空気っていろいろと変わることがわかってきたんです。それから、一貫したメッセージ性のある作品をやりたいなって思うんですよね。
Q:最後に、柴咲さんご自身について質問させてください。30歳近くって、女性は一つの転機を迎える時期ですよね? 女性として、今の時期をどう過ごしたいと思いますか?
今、わたしも、すごく考え中です。仕事をしていて、やっぱり女としての幸せがぬぐい去れないっていう部分もありますが、でも今はいろいろな人に会って、いろいろなことを吸収して、人をたくさん見ることで、悪いことにも良いことにも気付きたい。そういう学びの時期ですね。
1998年にデビュー以来、女優として活躍してきた柴咲は、最近ますます魅力を磨き上げてきた。映画『食堂かたつむり』をはじめ、個性的な作品にも出演し、圧倒的な存在感を見せつけてきた彼女だが、本作でもまた、決して多くない出演シーンにもかかわらず、まさに3,000人の男たちを凌駕(りょうが)するオーラで強いインパクトを与えている。瞳の奥に見える意思の強さと、女性らしさは、本作で彼女が演じた吉宗そのもの。男でも女でも、思わず「かっこいい!」とファンになってしまう、柴咲の「男気あふれる」将軍・吉宗に注目してほしい。
(c)2010 男女逆転『大奥』製作委員会
映画『大奥』は10月1日より全国公開