『津軽百年食堂』藤森慎吾、中田敦彦、福田沙紀、単独インタビュー
故郷や親のありがたさを感じます
取材・文:斉藤由紀子 写真:吉岡希鼓斗
人気お笑いコンビ・オリエンタルラジオが初主演を果たした長編映画『津軽百年食堂』。森沢明夫の同名小説を、数々の映画賞に輝く大森一樹監督が映画化した本作は、100年続く青森県の老舗そば屋を舞台に、家族や仲間のきずなを描く感動の物語。明治時代に津軽そばの店を開いた初代・賢治役の中田敦彦と、現代の4代目となる陽一役の藤森慎吾、そして、陽一と同郷の新米カメラマン七海を演じた福田沙紀が、和気あいあいと撮影時のエピソードを語った。
人と人とのつながりから生まれた作品
Q:見終わった後に心がほっこりしました。皆さんにとっても忘れられない作品になったのではないですか?
藤森:なりましたねえ。僕は撮影場所となった弘前にすごく愛着がわいてしまったんです。撮影が終わったあとにプライベートでも遊びに行って、ロケ地を訪ね歩くほど好きになってしまいました。すごく思い出深い作品です。
中田:本当にいい作品に出演させてもらって感謝しています。僕は明治時代の人物を演じたんですけど、映画を観た人から「明治の感じがよく似合う」と言われるんです。よく「昭和顔」って言うけど、僕は「明治顔」なんだなと認識しました(笑)。
藤森:あの明治の場面があるからこそ、作品がキュッと締まる感じがするんですよね。あっちゃんの演じたシャイな男の生きざまに、思わず泣けてきちゃいました!
福田:完成した作品を観たとき、形としては見えないけど、人と人との心のつながりというものが伝わってきました。実際の現場も、キャストさんやスタッフさんとのチームワークがすごく良かったですし、弘前の皆さんも温かく協力してくださったので、本当に人と人とのつながりから生まれた作品なのではないかと思います。
Q:物語のキーとなる「津軽そば」がとてもおいしそうでした。藤森さんと中田さんは、撮影前にそばづくりの練習をされたそうですね?
藤森:僕は製麺からミッチリやりました。そば打ちってかなり重労働なんですよ! 練習だけで腰が痛くて腕がパンパンになりました。
中田:僕の場合はそばを打つシーンはなかったんですけど、ゆで方は練習しました。津軽そばは麺に特徴があって、どこか素朴な味がするんですよ。
福田:わたしは食べるだけでしたけど、ダシに焼き干しを使っているので、汁に独特の風味があって、すごくおいしかったのを覚えています。こんなおそばは今まで食べたことがないと思いました。
藤森のチャラさは本性? それともフェイク?
Q:藤森さんと福田さんは現代のシーンを、中田さんは明治時代のシーンを演じましたが、3人が現場でご一緒する機会もあったんですか?
中田:それが、全然なかったんです! 相方から「福田さんと一緒にシュシュを作った」とか、楽しそうな話を聞くだけでした(笑)。
藤森:そうそう、沙紀ちゃんが休憩時間にシュシュの作り方を教えてくれたんですよ。そのおかげで打ち解けられて、撮影でもいい空気感が出せたような気がします。
Q:確かに、藤森さんと福田さんは、初共演とは思えないほど息が合っていましたね。
藤森:沙紀ちゃんが現場で僕を引っ張ってくれたんです。本番の直前に沙紀ちゃんが言ってくれた一言でリラックスできたりしましたしね。
中田:どんなことを言ってもらったのか気になるな!
福田:泣いているわたしを抱きしめるシーンで、藤森さんが「どんな顔をすればいいの?」って聞いてこられたんです。だから、「藤森さんが思った気持ちのままでいいと思います」と言ったんです。藤森さんは、すごくまじめに演技に取り組まれていたので、その後にテレビ番組で拝見したとき、あまりにもチャラくてビックリしました。
一同:(爆笑)
藤森:ごめんなさいね、こんなにいい作品で共演させてもらったのにチャラくて・・・・・・。
中田:本当だよ! 映画と福田さんに謝罪してほしいよ!
福田:でも、そのギャップが素晴らしいと思いました。お忙しいのに現場を盛り上げてくださって、セリフも方言のイントネーション以外はNGがほとんどなかったですし、とにかく姿勢が素晴らしかったです!
中田:バラエティーでは無理にチャラいフリをしているんですよ(笑)。
藤森:いや、無理はしてないって。その時々でモードがありますから(笑)。
3人それぞれが思う役柄との共通点
Q:夢と現実との間で揺れる陽一と七海、苦労の末に津軽そばの店を開いた賢治、それぞれ、役柄と自分との共通点を感じましたか?
中田:賢治は素朴で愚直な男で、好きな女性にも自分の気持ちをなかなか言い出せないんです。僕も女性にはガンガンいけないタイプなので、そこはわかるような気がします。
藤森:陽一とは年齢も一緒ですし、僕も上京したころは将来のことで迷っていて、故郷の長野で就職しようかなと思ったこともあったので、共感する部分は多かったです。それに、出会ったその日に七海ちゃんを自宅に連れていっちゃうとか、現代的なところも似ているかもしれません。
中田:現実の藤森くんは、陽一よりちょっとハードかな(笑)。
藤森:ハードってどういう意味だよ。でも、知り合ったその日から一緒に暮らすなんて、ちょっとドキドキしますよね!
福田:映画の七海はそういう方向にいっちゃいましたけど、わたしはイヤです!
中田:普通はイヤだよね(笑)。
藤森:でも、陽一は七海ちゃんの機材を壊しちゃったおわびにルームシェアを提案したわけじゃない?
福田:だからといって、会った日からいきなり一緒に住むことになるなんてあり得ないです! 七海の行動で唯一共感できないのはそこですね。あとは、わたしも地方出身ですし、七海との共通点がいくつかあったので、演じていて楽しかったです。
作品を通じて改めて感じた両親への感謝
Q:親子や家族のきずなが感動を呼ぶ本作。皆さんも、故郷のご両親のことを改めて考える機会になったのではないですか?
福田:そうですね。両親にはできるだけ恩返しをしていきたいです。父がゴルフやギターが好きなので、わたしも一緒にできるようにゴルフやギターを始めましたし、いつか母と一緒に海外旅行をしたいので、語学の勉強を始めたんです。それから、いつか故郷の熊本でお仕事ができたらいいなと改めて思いました。実は、撮影前に大森監督とお話をする機会があったんですけど、監督が「今の若い子たちは、故郷に錦を飾りたいという気持ちがない」とおっしゃったとき、悔しくて泣いてしまったんです。
藤森・中田:そんなことがあったんだ!
福田:監督は学校の講師などもされていて、若い人と接する機会が多いからそう思われたのかもしれません。だから、自分がこういった作品に出演することで、同世代の方に故郷を大切にする気持ちを伝えなきゃいけないと思いました。
Q:すごく説得力のあるエピソードですね!
中田:今の福田さんの言葉でハッとしました。僕は反抗期の真っ最中なんですけど(笑)、親は大事にしないといけないですよね。オリエンタルラジオというコンビ名は、僕の親父が「カローラとか、ラ行が付く名前の車はいい!」と言っていたことがヒントになっているんです。そういった意味では、僕も親父のこだわりを受け継いでいるのかなと思います。僕らも「百年食堂」ならぬ「百年コンビ」ということでがんばってきたいです!
藤森:確かに、故郷や親のありがたさを感じますよね。僕は、若いころよりも今のほうが親と仲がいいんです。自分が仕事をしている中で自信を持てるようになったからなんでしょうね。この間も、母と2人で京都旅行を楽しんできましたし・・・・・・。まあ、いくら恩を返そうとしても返しきれないかもしれませんが、これからもできる限り親孝行はしていきたいなと思っています。
津軽弁の特訓をしながら芝居に挑み、バラエティー番組とは一味違う役者としての顔をスクリーンに焼き付けた藤森と中田。そして、自分の本当の夢を模索する女の子を魅力的に演じた福田。3人が痛感したという故郷や両親への思いこそ、この映画が一番伝えたいことなのではないだろうか。風光明媚(めいび)な弘前の景色に癒やされ、綿々と続く人の営みに胸を打たれる映画『津軽百年食堂』は、入学や就職などで、この春に人生の岐路を迎える人や、何かに迷っている人にこそ観てほしい良作だ。
【福田沙紀】ヘアメイク:北一騎(aiutare) スタイリスト:藤井エヴィ
映画『津軽百年食堂』は4月2日より有楽町スバル座ほか全国公開