第64回カンヌ国際映画祭コンペ部門紹介
第64回カンヌ国際映画祭
第64回カンヌ国際映画祭 64th FESTIVAL DE CANNES From 11 to 22 May 2011
第64回カンヌ国際映画祭が5月11日(現地時間)に開幕。コンペティション部門には、日本から三池崇史監督『一命』と河瀬直美監督『朱花(はねづ)の月』の2作品が選出。世界の巨匠たちと最高賞パルムドールを競います。
© 2010 Cottonwood Pictures, LLC. All Rights Reserved
厳格な父親と愛情深い母親のもとで成長したジャック。母親からは愛情や慈悲を覚え、父はジャックに初めてのことを何でも教えたがった。無垢(むく)な少年だったジャックはやがて大人になり生きることに失望するが、父親との複雑な関係を修復しようと思い立つ。
『The kid with a bike(英題) / ザ・キッド・ウィズ・ア・バイク』
12歳のシリルは自分を児童施設に預けた父親を見つけ出そうと思っていた。そんなある日、美容院を経営するサマンサと出会い、週末をサマンサの家で過ごすことに。サマンサはシリルに愛情を注ぐが、シリルにはそれが理解できない。それでも、シリルの怒りを和らげるにはサマンサの愛が必要だった。
『ロゼッタ』『ある子供』で2度のパルムドールを受賞したダルデンヌ兄弟の新作は、12歳の少年が主人公のヒューマン・ドラマ。オーディションで選ばれたトーマス・ドレと、『ヒア アフター』のベルギー人女優セシル・ドゥ・フランスが共演。そのセシルの故郷の近くで撮影されたため、セリフのアクセントもまったく自然だったとか。実力派ぞろいの今年のコンペでも、特に大注目の作品だ。
『Once upon a time in Anatolia(英題)/
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アナトリア』
小さな町での暮らしは、草原地帯を旅することに似ている。丘を越えると「新しくて異なる何か」があるかもしれないという感覚。しかし、常に同じかもしれないし、単調な道が続いているかもしれない……。
各国の映画祭で高い評価を受ける、トルコの大御所ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督による壮大な人間ドラマ。本映画祭では2003年に『冬の街』で審査員グランプリを受賞、2008年にも『Three Monkeys(英題) / スリー・モンキーズ』で監督賞受賞など、常連でもある。カメラマンとしても活躍し、自国トルコの雄大な風景をスクリーンに盛り込むことも忘れない同監督の作品が今回はどのように評価されるかがポイントだ。
『Drive(原題) / ドライブ』
© Drive Film Holdings, LLC. All rights reserved.
男は昼間、ハリウッドのスタントマンとして体を張って働いていた。そして夜は強盗の逃走車両のドライバーをしていたが、その裏の顔が彼の運命を思わぬ方向へと導いていく。
デンマーク人監督ニコラス・ウィンディング・レフンが、ジェイムズ・サリスの同名小説を映画化したクライムアクション。出演者も『ブルーバレンタイン』のライアン・ゴズリングや、『わたしを離さないで』のキャリー・マリガンら若手実力派が顔をそろえる。今回、アルモドバルやダルデンヌ兄弟といった世界的な監督たちがひしめく中、カンヌ初コンペ出品の新進監督に、ぜひとも一発逆転を狙ってもらいたい。
『The artist(原題) / ジ・アーティスト』
1927年のハリウッド。ジョージはサイレント映画の大人気スター。しかし、音声の出るトーキー映画の出現によって、彼のキャリアに危機が訪れようとしていた……。
長編4作目で、初参加となったミシェル・アザナヴィシウス監督。2006年のコメディー映画『OSS 117 カイロ、スパイの巣窟』(DVDタイトルは『OSS 117 私を愛したカフェオーレ』)で、第19回東京国際映画祭東京サクラグランプリを受賞した経歴を持つ。審査委員長だったジャン=ピエール・ジュネ監督は、「『OSS』はどの国の人が観ても楽しめる映画」とアザナヴィシウス監督の才能を評価しており、その動向が注目される。
『Melancholia(原題) / メランコリア』
地球へと真っすぐに向かっている惑星「メランコリア」。その惑星は地球に衝突する恐れがあった……。
2009年に『アンチクライスト』で本映画祭に衝撃を与えるとともに記者会見でも一悶着を起こしたラース・フォン・トリアー監督が、今度はSF映画をひっさげて登場。ヒロインに迎えられたのは、『スパイダーマン』シリーズのキルステン・ダンスト。トリアー監督いわく、「この映画にはロマンチシズムが詰まっている」とか。今回、コンペ選出は9度目で、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』でパルムドールを受賞しているが、また激しい賛否両論を巻き起こすか!?
『Footnote(英題) / フットノート』
エルサレムのヘブライ大学で教鞭(きょうべん)を執る父と息子は、その宗教的見解の違いから次第に対立を深めていく……。
ニューヨーク生まれの新鋭イスラエル人監督ヨセフ・シダーが手掛けた、父子の対立をベースに描くヒューマンドラマ。同監督は前作『ボーフォート -レバノンからの撤退-』で、ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を受賞した実力派。まだ国際的な知名度は低いながらもその腕の確かさには定評があるだけに、今回ずらりと肩を並べる世界の巨匠たち相手に、どれだけ賞レースに食い込んでいけるのかに期待がかかる。
『Polisse(原題) / ポリス』
© 2011 - Les Productions du Tresor - David Verlant
未成年保護班の刑事たちの日常は、小児性愛者を監視したり未成年のすり犯を逮捕したり、昼食時にはカップルの問題を語ったりというものだ。突きつけられる現実と私生活との間で、刑事たちはどのようにバランスを取るのか……。
『フィフス・エレメント』『ハイテンション』などに出演していた女優マイウェン・ル・ベスコが10代のころに付き合っていたリュック・ベッソンの影響もあるのか、監督に転身。長編3作目で本映画祭に初ノミネートとなった。主演は『美しき運命の傷痕』のカリン・ヴィアール。同監督の過去の2作品もユニークだったようだが、刑事の仕事をドキュメンタリー風に映し出す本作もかなり異色。その評価が気になるところだ。
『一命』
© 2011映画「一命」製作委員会
切腹するために庭先を拝借しようと井伊家を訪れた浪人の津雲半四郎。しかし、家老の斎藤勘解由は申し出を断ろうと、数か月前に若い浪人が半四郎と同じように庭先を借りにきたことを話す。その浪人とは半四郎の娘婿、千々岩求女のことだった。
『朱花(はねづ)の月』
© 「朱花の月」製作委員会
日本最古の和歌集である万葉集にもよく詠われた、奈良県飛鳥地方。その地に根を下ろして生きる拓未と加夜子は必然的に出会い、お互いの祖父母が果たすことのできなかった思いを脈々と受け継ぐ。
『玄牝 -げんぴん-』の河瀬直美監督が、奈良県飛鳥地方を舞台に撮り上げた詩情あふれる人生賛歌。これが長編映画デビューとなる、こみずとうたと『ヘヴンズ ストーリー』の大島葉子が演じる、揺れ動きながらも凛(りん)として生きる男女の姿を映し出す。1997年に『萌の朱雀』で同映画祭カメラドールを受賞、2003年に『沙羅双樹(しゃらそうじゅ)』でコンペに初選出、2007年には『殯(もがり)の森』でパルムドールは逃したものの審査員特別グランプリに輝いた国際的評価の高い監督だけに、今回3度目の正直で、パルムドール受賞なるか注目される。本作は9月、日本公開。
『The skin I live in(英題) / ザ・スキン・アイ・リブ・イン』
© Lucia Faraig
形成外科医の男は、自動車事故でやけどをした妻のために新しい皮膚の開発をしていた。12年後、彼はあらゆるものから保護できる皮膚を作ることに成功したのだが……。
スペインの鬼才、ペドロ・アルモドバル監督が、ティエリー・ジョンケ作の「蜘蛛の微笑」を基に映画化したミステリー劇。1982年に同監督の『セクシリア』で映画デビューした後、ハリウッドでも成功を収めたアントニオ・バンデラスが再び古巣に戻り、主人公の整形外科医役を熱演する。本映画祭では『オール・アバウト・マイ・マザー』で監督賞を受賞しているベテラン監督だけに、注目が集まるだろう。
『Le Havre(原題) / ル・アーブル』
フランスの港町アーブル。マルセルは貧しいながらも街角のビストロと靴磨きの仕事、そして妻との生活に満たされていた。ある日、マルセルはアフリカから密航してきた少年と出会い、友情が芽生える。しかし、妻が重い病に倒れてしまい……。
『過去のない男』でパルムドールは逃したものの審査員特別グランプリを受賞した、フィンランドの鬼才アキ・カウリスマキ監督の最新作。本作はフランスで撮影されたヒューマン・ドラマで、過去のカウリスマキ作品に出演したアンドレ・ウィルムやジャン=ピエール・レオらも出演。チャールズ・チャップリンの『街の灯』にオマージュをささげた前作『街のあかり』に続き、チャップリンの『キッド』を思わせるストーリーと海外メディアは伝えており、カンヌのシネフィルたちの心をつかみそうだ。
『Sleeping Beauty(原題) / スリーピング・ビューティー』
女子大生のルーシーは、研究資金のために高級エスコート・サービスの世界に足を踏み入れる。彼女に与えられた仕事とは、薬で深い眠りに落ちている間、その身を見知らぬ男性に任せるというものだった。
オーストラリアの女流作家ジュリア・リーが、自身の小説を自らメガホンを取って映画化したエロチックドラマ。本作を降板した『アリス・イン・ワンダーランド』のミア・ワシコウスカに代わり、『エンジェル・ウォーズ』のエミリー・ブラウニングが、スキャンダルなヒロインを熱演する。プロデューサーを務めるのは『ピアノ・レッスン』の監督、ジェーン・カンピオン。彼女のネームバリューが、どこまで新人監督を後押しできるかに注目だ。
『We need to talk about Kevin(原題)/
ウイ・ニード・トゥー・トーク・アバウト・ケビン』
息子ケビンが16歳になる2日前、母親エバは高校で恐ろしい無差別殺人を起こす。彼女は自らの深い悲しみと責任感とにさいなまれながら、究極のタブーに手を染めることになる……。
ライオネル・シュライヴァー原作の同名小説を、『モーヴァン』のリン・ラムジー監督が映画化したスリラー。10代の息子を持つ母親が起こした恐ろしい事件の裏に隠された物語を、『フィクサー』のティルダ・スウィントンが体現する。同作でアカデミー賞助演女優賞に輝き、『エドワード II』ではヴェネチア国際映画祭女優賞に輝いたイギリスのベテラン女優の実力が、今回カンヌで試される。
『This must be the place(原題)/
ディス・マスト・ビー・ザ・プレイス』
元ロックスターのシェイエンは、長い間父親と反目し合っていた。だがその死後、彼は初めて父がナチスの収容所で迫害を受けていたことを知り、アメリカに潜伏中の元ナチスの戦犯に復讐(ふくしゅう)を果たそうとする。
イタリアの新鋭パオロ・ソレンティーノ監督が、オスカー俳優ショーン・ペンを主演に迎えたサスペンスドラマ。監督は2008年に『イル・ディーヴォ』で同映画祭の審査員賞を受賞したほか2006年に『L'amico di famiglia(原題)』、2004年に『愛の果てへの旅』を本映画祭コンペ部門に出品。今年の審査委員長はロバート・デ・ニーロだけに、彼と親交の深いショーン・ペンにどんな評価が下されるのかが楽しみだ。
『House of tolerance(英題) / ハウス・オブ・トレランス』
20世紀初頭、パリの売春宿。ある若い女が男と口論になり、顔に傷をつけられてしまう。彼女の顔にはゆがんだ笑顔が永遠に残ることに。彼女を取り囲む売春婦たちの人生にあるのは、ライバル関係、不安や喜び、苦しみ……。売春宿の壁の中ではすべてが可能だった。
ブラジルの性同一性障害について描いた『Tiresia(原題)』で、2003年の本映画祭コンペ部門にノミネートされたベルトラン・ボネロ監督。ミュージシャン出身という経歴をもち、今でも音楽と映画の両方で活躍するフランスの鬼才だ。主演のアフシア・エルジは『クスクス粒の秘密』で2008年のフランス・セザール賞の新人女優賞を受賞した若手の有望株。地元フランスの映画関係者には大いに注目されるだろう。
『Pater(原題) / パテール』
アランとヴァンサンはまるで父と息子のように親しい友人同士。港のバーで飲みながら、一緒にどんな映画を作ろうかと語り合う2人。ときどきスーツを着て権力者を演じ、笑いのために問題を起こしてみたり、ホラを吹いてみたり。しかし、いつもある疑問が残っていた……。
1986年の本映画祭において、『テレーズ』で審査員特別賞を受賞したアラン・カヴァリエ監督。その後ドキュメンタリーに転向し、さらに自分の身の周りに起こったことをテーマにした映画を撮るようになるという異色の経歴を持つ。今回は『君を想って海をゆく』のヴァンサン・ランドンとコラボレーションした、実験映画のような一風変わった作品のよう。ほかの作品とは一線を画すだけあり、話題になりそうだ。
『The Source(英題) / ザ・ソース』
Julian Torres / © Elzevir Films - Oi Oi Oi Productions
北アフリカの小さな村では、昔から女性たちが山の頂きにある泉に飲み水をくみに行くのが伝統だった。働かない男たちを見かねた若い花嫁・レイラは、仲間の女たちにセックス・ストライキをしようと提案する。
『オーケストラ!』のラデュ・ミヘイレアニュ監督と脚本のアラン=ミシェル・ブランが再びタッグを組んだ最新作。ミヘイレアニュ監督はベルリン映画祭やヴァネチア映画祭など国外の多くの映画祭での受賞経験があるものの、カンヌでは初の作品のお披露目となる。また主演のアフシア・エルジは、『House of tolerance(英題)/ ハウス・オブ・トレランス』と本作の2作品がコンペ部門に選出されている。ミヘイレアニュ監督とブランの脚本で『オーケストラ!』のような笑って泣けるドラマが期待できそうだ。
『Habemus Papam(原題) / アベームス・パーパム』
PHILIPPE ANTONELLO © Sacher Films ? Fandango ? tous droits reserves ? 2010
気が重い上に居心地も悪いと感じながらも、いやいやながら就任した新ローマ教皇。サン・ピエトロ広場では群衆たちがバルコニーに現れるのを待っていたが、閉ざされたドアの向こうでは、心の準備ができていない新教皇に対し、ローマ教皇庁の面々が大慌てで危機を回避しようとしていた。
『Michael(原題) / ミシェル』
ある日、10歳の少年が突然連れ去られ、見知らぬ場所での生活を強要されることに。彼は救出されるまでの最後の5か月間を、35歳のミシェルという男性と過ごしていたが……。
ミヒャエル・ハネケ監督の『白いリボン』などのキャスティングディレクターとして知られ、脚本家や俳優としても活躍するマーカス・シュラインツァーの初監督作。監督同様オーストリア出身の俳優マイケル・フイスを起用し、誘拐された少年と30代の男性との緊迫した日々をつづる。オーストリアで実際に起きた少女監禁事件をベースにした作品によって、カンヌ初登場で栄冠をつかめるか。