映画『星守る犬』西田敏行&玉山鉄二 単独インタビュー
きっといつか、あのきれいな景色がよみがえる日は来る
取材・文:シネマトゥデイ編集部・森田真帆 写真:吉岡希鼓斗
余命わずかの“お父さん”と飼い犬のハッピーの旅を描いた村上たかしの名作コミックスを映画化した『星守る犬』。宮城県の東松島市、福島県のいわき市でロケが行われた本作は、映画の完成後、東日本大震災が発生し、映画を彩った美しい光景が、津波にのみこまれることになってしまった。情感あふれる演技で“お父さん”を見事に演じた西田敏行と、両親を亡くした孤独な若者・奥津役の玉山鉄二が、被災地への思い、そして作品に込めたメッセージを語った。
津波で被災したロケ地への思い
西田敏行(以下、西田):いろいろな社会問題をはらんでいる作品ですが、路上生活をしながら人知れず命を終えていく人たちはとても多いのが現状です。僕が演じた役は、原作者の村上たかしさんがそういう人たちの中から見つけてきたキャラクターだと思っています。一生懸命に生きているのに、報われない。でも、本当に報われなかったかといったらそうじゃない。愛は必ず返ってくるということを、役を通して静かに伝えたいと思いました。
玉山鉄二(以下、玉山):僕の役柄は、コミュニケーションが得意ではなかった。両親、おじいちゃん、おばあちゃんと立て続けに亡くした彼は、大切な人を失うのが怖くて人を愛せなくなってしまうんです。すごく孤独なキャラクターではあるんですが、バーチャルな関係しか築けない今の世の中には、ああいう若者が結構いると思うんです。少しずつ心の扉を開けていく彼がとてもいとしくて、出会えて良かったと思いました。
Q:ロケ地である東松島市、福島県のいわき市は、東日本大震災で甚大な被害を受けてしまいました。お二人とも、撮影した土地への思いは格別だったのではないでしょうか?
西田:東松島市では、旅館に泊まり、宿泊客の記念写真にハッピーを連れて乱入するというシーンを撮影しました。実は、その撮影に参加してくださったエキストラさんが、一人津波で亡くなられたんです。皆さん地元だったので、地震があった後は、「どうか無事で……」と祈り続けていたんですが、最後までその方だけ消息がわからず、最近亡くなられたことがわかりまして。とても胸が痛かったです。
玉山:地元の方々は、皆さん物腰が柔らかい、優しい方々ばかりだったので、本当につらい知らせでした。東松島市の旅館は、海岸のすぐそばに建っていたんですが、旅館の窓から見える景色が本当にきれいだったんです。海岸線を漁に出る船がすーっと進んでいく様子が美しくて。カメラが回っていないとき、釣りをした思い出もあります。きっといつか、あのきれいな景色がよみがえる日は来ると、心から信じています。
共演シーンは少なくても、夜はいつでも一緒だった2人
Q:映画の中では共演シーンが少なかったお二人ですが、撮影では度々顔を合わせていたのでしょうか?
西田:時系列では僕が訪れた場所を玉山くんがたどるわけなんですが、撮影場所は同じなので、僕がオフのときは玉山くんたちが撮影して、玉山くんたちがオフのときは僕らが撮影していました。でも、夜は一緒だったもんね。一緒にご飯食べたよね!
玉山:そうでしたね! 移動もけっこう一緒にさせていただいて、楽しかったです。
西田:2人で青函トンネル通ったり、駅で立ち食いそば食べたり、思い出いっぱいだよね。
Q:お互いの印象を聞かせてください。
西田:玉山くんは、本当に今回、青年の孤独感をすごくきっちり演じてくれたなって感謝しています。原作にはいなかった(川島)海荷ちゃん演じる、有希という明日への希望のような存在の女の子と旅をしながら、変化していく様子をきちんと表現している姿にすごく好感を持ちました。
玉山:自分が小さいころから活躍している大先輩とご一緒できて、人としてもいろいろなことを勉強できました。西田さんは本当に情が深い方で、エキストラさんや、地元の方々とのコミュニケーションをとても気を使いながらしていらっしゃって。西田さんは、人間としても大きな目標です。
名犬・ハッピーとの楽しい思い出
Q:ただ悲しいだけじゃなく、思わずクスリとしてしまうシーンもたくさんありました。お二人が一番楽しめたシーンはどこでしたか?
西田:ハッピーとの旅を楽しんでいるお父さんを撮影しているときは、自分の中にも、温かい気持ちがずっとあって、僕自身もすごく幸せでした。東松島の旅館にハッピーと泊まるときに、ハッピーが部屋で大暴れしたシーンは、撮影しているときもすごく楽しかったですね。
玉山:僕は西田さんがハッピーとフェリーに乗っているときに、動物連れを注意されて、目が見えていないふりをしちゃうシーンがすごく好きでした。あれ、台本になかったですよね?
西田:うん、なかった(笑)。あれは、とっさに出ちゃったんだよね。そう言っていただけるとうれしいなあ。
玉山:僕も楽しい思い出はいっぱいなんです。普段から車でドライブするのが大好きなので、かわいい車に乗って、北海道から東北の美しい景色の中をドライブすることができたのは、すごく幸せでしたね。
Q:わんちゃんとの共演は、いかがでしたか?
西田:僕は『植村直己物語』という映画で、犬ぞりの犬たちと共演をしたんですが、あのときの犬たちはすごく野性的だったので、頭をなでたりすることもあまりできなかったんです。ハッピーを演じた犬はチビというんですが、チビはものすごく温厚な犬だったので、温かくコミュニケーションを取りながらきずなを深めることができましたね。ハッピーは、決してこびないんですよ。人間でいえば、現場に「おはようございます」って入ってきて、現場の隅で静かに出番を待ち、黙々と演じる、そんな“役者さん”でした。目を合わせているうちに、気心が知れていく感じがして、ハッピーとお父さんと、西田敏行とチビとの間に流れる情感がシンクロしました。撮影の最終日も、本当に寂しかったです。
玉山:僕は、クロという犬を飼っているという設定だったんですが、実は共演シーンは少なかったんです。でも、僕自身犬を飼っていたことがあるので、そのときの感情を思い出しながら撮影に挑みました。犬とのお別れを経験した方は、誰しも感じることだと思うんですが、みんな「もっと散歩してあげればよかった……」「もっと遊んであげればよかった……」って思うことがたくさんあると思うんです。でも、犬は飼い主を否定することは絶対にない、無償の愛を提供してくれるんですよね。僕は日本人が、無償の愛をもっともっと犬たちから学ぶことで、日本はさらにいい国になっていくんじゃないかと思います。
映画を通して伝えたいこと
Q:お二人が、この映画をご覧になる方々に伝えたいことは何ですか?
西田:今だからこそ見てほしい、と胸を張って言える作品になっていると思います。「今の日本をどう思っていますか?」とゆっくりと問題提起している映画だと思うんです。ちょっと立ち止まって、幸せって、家族って、きずなって何だろうって、つながっているって何だろうってことを感じてもらえる瞬間があればうれしいですね。
玉山:人同士の関係が希薄になりつつある無縁社会は、今の日本の社会問題の一つだと思うんです。昔であれば近所の人同士が仲良くて、家が開けっ放しでも大丈夫だった。そういう人同士のつながりが薄れてきていると感じることは多いですよね。この映画をご覧になる方々には、人同士のきずなをもう一度見つめ直してほしいです。
美しい景観を津波によって奪われてしまったロケ地を思いながら、涙を浮かべた西田と玉山。皮肉にも、この作品は震災が起こる前の東松島と、いわき市の姿を残した最後の作品となってしまった。そんな本作が描いたのは、何の因果か、まさに今日本の人々が求める“きずな”の物語だ。2人が作品に込めた願いは、きっと観た者の心に静かに、ゆっくりと届くはずだ。
(C) 2011「星守る犬」製作委員会
映画『星守る犬』は6月11日全国公開