『天国からのエール』阿部寛&ミムラ&桜庭ななみ 単独インタビュー
本気で向かっていけば、夢はかなう
取材・文:斉藤由紀子 写真:吉岡希鼓斗
多くのアーティストを輩出する沖縄県本部町の音楽スタジオ「あじさい音楽村」を創設し、2009年にガンで亡くなった仲宗根陽さんの実話を映画化した『天国からのエール』。小さな弁当屋を営みながら、高校生のために無料の音楽スタジオを作った主人公の大城陽を演じた阿部寛と、余命3か月と宣告された陽を支える妻・美智子役のミムラ、そして、陽のスタジオでバンド活動に打ち込む女子高生の比嘉アヤを演じた桜庭ななみが、作品に込めた熱い思いや、沖縄撮影での爆笑エピソードを語った。
現場で実感した仲宗根さんの思い
Q:まずは、高校生の夢を応援し続けた仲宗根陽さんの生きざまを、どのように感じたのか聞かせてください。
阿部寛(以下、阿部):仲宗根さんは、夢を信じることの大切さを体現しながら、子どもたちに真正面からぶつかっていった人。時には失敗したり、壁にぶち当たりながらも、「若者たちに未来の可能性を示す」という大人の役割を果たした。それには、相当なエネルギーが必要だったと思う。ああいう真っすぐな方が今の日本に存在したことに、驚きました。
ミムラ:実際に起きたことがあまりにも素晴らしいので、それを映画化することに不安を覚えました。実話をなぞるのではなく、作品としてひと工夫をすることで、仲宗根さんのことが多くの人に伝わればいいと思って参加させていただいたのですが、撮影中も「これで実話に追いつけるのだろうか?」と何度も考えてしまいました。
桜庭ななみ(以下、桜庭):わたしは仲宗根さんが応援したバンドのメンバーの役をやらせてもらったのですが、高校生たちが仲宗根さんから大きな愛情をもらっていたことと、その愛を受ける中で成長していったのだということを感じました。人の強い気持ちって、周りを動かせるんだなって実感しました。
Q:実際に仲宗根さんが経営していた弁当屋やスタジオで撮影をされたそうですね?
阿部:はい。彼がなぜ高校生たちを応援しようと思ったのか、その場で日々撮影をしているうちになんとなくわかる気がしてきた。弁当屋の裏に高校があるんですが、撮影の合間に高校生たちの部活に励む姿が何度も目に入ってくるんです。バンドの練習ができなくて困っている生徒のためにも、何かしてあげよう、そう思ったんじゃないかなぁ。あの場所で仲宗根さんの思いをリアルに感じながら、徐々に役をつくっていくのは楽しかった。
ミムラ:わたしも、仲宗根さんご夫婦の存在感を、阿部さんと一緒に現場で感じながら演じさせてもらいました。仲宗根さんもすごかったけど、そのすべてを「バッチコーイ!」って受け止めた奥様も、本当にすごい方だと思うんです。奥様の器の大きさを表現できるよう目指しました。
バンドのメンバーたちは撮影中に大成長!
Q:桜庭さんは、バンドのボーカル役でギターや歌に挑戦されましたが、練習は大変だったのでは?
桜庭:撮影の1か月前から練習したんですけど、ギターは触ったこともなかったので、最初はすごく不安でした。でも、実際に仲宗根さんと高校生たちが過ごしたスタジオで、当時の写真などを見せてもらいながら練習をしているうちに、「自分たちも頑張ろう!」と思うようになりました。
ミムラ:炎天下でバンドの撮影をしていたので、少し見ない間にみんな真っ黒になっていましたね。撮影が進むごとにメンバー間の結束が強くなっていたのもステキでした。
阿部:ライブシーンの最後のほうでは、本当にエキストラのお客さんたちを盛り上げていたよね。それぞれがエンターテイナーに成りきって、「イエイ!」とか言っているやつもいたりして(笑)。
桜庭:でも、最初のライブは本当に緊張したんですよ! そのあと、だんだん人前に立つことが快感になってきたんです(笑)。
Q:そんなメンバーたちの変化を、阿部さんも現場でリアルに感じていたんですね?
阿部:そうですね。監督がみんなの成長を描けるように、ちゃんと計算しながら撮っていた。
ミムラ:わたしは最後のライブシーンを現場で見ていたんですけど、ななみちゃんたち自身が頑張ってきたところと、台本上のそれぞれの役柄が見事にリンクしていて、本気で感動しました!
阿部寛が沖縄でやらかした大失態とは?
Q:阿部さんは、役のためにかなり減量されたのではないですか?
阿部:そうですね。台本の順番通りの“順撮り”ができなかったので、やせなきゃならないときは、一日でやせなきゃならなかった!
ミムラ:ある日突然やせてこられたんですよ! おとといまで普通だったのに、アレ!? みたいな(笑)。2日間くらいで絞られたんじゃないですか?
阿部:食事も取らなかったし、風呂に入って汗を出したり、ジョギングしたりね。撮影の合間に周辺を走ってあと30分絞ろうとしたら、そのまま道に迷って帰れなくなっちゃって、携帯電話も持っていないしパニクッたこともありました(笑)。
ミムラ:命を削っている表現をしていたのではなく、実際に命を削っていたんだと思います! 歩いていてもフワフワしていて、どんどん生気が失われていったというか……こんなにガタイがいいのに、わたしでも倒せそうなくらいでしたよね(笑)。
桜庭:本当に病魔に侵されてしまったんじゃないかと思うくらいゲッソリしていらしたから、心配になっちゃいました。
阿部:体中の水分が抜け出てしまったような、声も出せないくらいのときもあった。撮影が終わった瞬間に、すぐ食事をさせてもらいました(笑)。
Q:キャストの皆さんで沖縄料理を楽しんだこともあったそうですね?
阿部:撮影の初日にみんなで食事に行ったんですけど、僕が記憶をなくすくらいベロベロに酔っ払ってしまって、次の日にななみちゃんから「サイテーでした!」って言われてしまって(笑)。
桜庭:最初は、阿部さんが仲宗根さんについて熱く語っていらしたんです。でも、だんだん横道にそれていって、最後は下ネタのような感じになっちゃったんです!
一同:(爆笑)!
ミムラ:でも、卑猥(ひわい)な気分にさせようとしたのではなくて、ある名作映画のエピソードを話しているうちにいつの間にかそんな方向へ。わたしの横でななみちゃんが、「ミムラさん、どうしたらいいですか?」って聞いてくるから、「聞いていないフリをしようか!」って言ったりしていました(笑)。
桜庭:でも、すっごく楽しかったです!
阿部:よく覚えていないんですけど、その後はみんなで食事に行っても話が脱線しないように気を付けました。
高校時代に大人の優しさを痛感!
Q:皆さんは本作の高校生たちのように、学生のころ何かに夢中になったことはありますか?
桜庭:何かあるかなあ……今はただ、いただいたお仕事を全力でやるのみですね。
ミムラ:ななみちゃんは、あと2、3年たって振り返ったら、何か思うのかもしれないよね。わたしは至ってマジメな高校生だったんですけど、いろいろと悩むこともあって、先生や親は気付いていないと思っていたら、ちゃんと気付いてくれていたんですよね。そのときに、「大人って、黙って見守ってくれるんだな」と安心感を覚えて、大人の優しさと、自分が子どもだということを思い知らされました。
Q:この映画にピッタリなエピソードですね!
ミムラ:本当ですか? よかったです(笑)。
阿部:僕はミムラさんのようないい話はないです。ですからこの映画を観て、「あきらめないで本気で向かっていけば、夢はかなう」ということを感じてもらえたらうれしいです。
心身ともに仲宗根さんに成りきりたいと、生前に彼が着ていた洋服を借りて撮影に挑んだという阿部。そして、仲宗根さんと共に「あじさい音楽村」で過ごした人々の思いを、それぞれの役で精いっぱい表現したミムラと桜庭。そんなキャストたちの情熱を目の当たりにした仲宗根さんのご家族は、撮影現場で何度も涙ぐんでいたそうだ。私財を投じてまで高校生たちを応援し、本気でしかって本気で愛した仲宗根さん。彼の強さと優しさは、映画を通じて多くの人に伝わることだろう。
映画『天国からのエール』は10月1日より全国公開