映画『ツレがうつになりまして。』宮崎あおい&堺雅人 単独インタビュー
2人でいると、ぴたっとはまる気がする
取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美
ある日突然うつ病になってしまった夫との日々をコミカルにつづった細川貂々のコミックエッセイを、映画『陽はまた昇る』『半落ち』の佐々部清監督が映画化した『ツレがうつになりまして。』で、NHK大河ドラマ「篤姫」の宮崎あおいと堺雅人が再共演! マイペースでのんびりとした性格の漫画家ハルこと晴子を演じた宮崎と、きまじめなサラリーマンだった夫のツレこと幹男を演じた堺が、およそ3年ぶりに夫婦役で共演した感想や、うつという病気について感じたことなど、「篤姫」コンビならではの息の合ったトークを繰り広げた。
「篤姫」の名コンビが、再び夫婦役に挑戦!
Q:お二人の再共演を楽しみにしていたファンも多いと思います。まずは、本作のオファーを受けたときの感想を聞かせてください。
宮崎あおい(以下、宮崎※「崎」は正式には旧字。「大」が「立」になります):わたしはすごくうれしかったです。また夫婦役で共演できるというのがうれしくて……。堺さんとだったら、何の心配もなく夫婦を演じられると思いました。
堺雅人(以下、堺):僕も、相手役があおいちゃんだと聞いて、「じゃあ大丈夫だ」と思った部分がすごくありました。病気の役をやるときって、普通よりも不安定な状態になるので、「誰かが受け止めてくれる」という安心感がないと怖いと思ってしまうんです。そういう意味では、安心して身を任すことができる相手だし、非常にありがたかったですね。“安心して不安になれた”という感じです。
宮崎:堺さんと2人でいると、なんだかぴたっとはまる気がするんです。お芝居をしているときでも、写真を撮っているときでも、変に気を使わなくて済むんです。例えば、カメラマンさんに「ちょっとくっついてみてください」と言われても、すごく力を抜いて体を預けることができるんですよ。本当に、「ぴたっとくる」という表現がぴったりな感じがします。
Q:ハルとツレのほんわかとした夫婦のやりとりがとてもリアルでした。
堺:今回は、夫婦だから「これをやらなきゃ」というのではなく、夫婦だから「これを省いていい」という感覚でした。無理に2人の距離を近づけることもなく、いろいろなことを間引く作業が自然にできたのは、3年前に「篤姫」で共有した時間によるところが大きかったですね。
特別ではない、普遍的な夫婦の物語
Q:撮影中は、原作者の細川貂々さんが漫画を描くシーンの指導に来てくださったそうですね?
宮崎:そうなんです。ペンの持ち方から輪郭の描き方まで、貂々さんのクセを直接教えていただきました。貂々さんのだんなさんやお子さんが一緒に来てくださることもあったんですよ。
堺:3人でいらっしゃるときのたたずまいが、とても幸せそうですてきでした。
Q:ちなみに、お二人は原作を読んでから撮影に臨まれたのでしょうか?
堺:僕は、ずっと前に読んでいたんですけど、撮影に入る前にもう一度読み直しました。原作からは、「うつは特別な病気ではない」というメッセージを感じていました。それから、病気のお話というよりも、一組の夫婦の話だということが強く印象に残っていたので、その気持ちが撮影しているときも影響していたように思います。
宮崎:わたしは、台本と同時に原作も読ませていただいたんですけど、もともとうつ病というものに対して特別な意識がなかったので、とても読みやすかったですし、先ほど堺さんがおっしゃったような……あれ? 何ておっしゃったんでしたっけ?
堺:いっぱい言いましたからね(笑)。病気の話というよりは、一組の夫婦の話というところかな?
宮崎:そうそう(笑)。病気の話というよりは、一組の夫婦のお話だと思いました。
堺:オウム返しじゃん!
宮崎:そうですね(笑)。でも、完成した映画を観て、本当にそう感じました。決して特別な夫婦の話ではなく、いろいろな夫婦の形の中の一つを描いているんですよね。
誰もがうつになる可能性を持っている
Q:原作ファンの間では、「キャストが原作にぴったり!」と言われていますが、お互いから見て、ハルとツレは実際のお二人と重なるところがあると思いますか?
堺:どうだろう? あんなふうにだらんとご自宅で過ごされているような気もするんだけど、逆に、ものすごくシャキシャキしているあおいちゃんも想像つくんですよね。女性は本当にわからないですよ。「あれが素です!」って言い切るほど底の浅い人ではないと思います(笑)。
宮崎:わたしは、あのキチっとしたマジメなツレさんと、堺さんには共通するところがあると思います。堺さんってO型なんですよね?
堺:そうですけど?
宮崎:O型ということが信じられないんです! わたしもO型なんですけど、堺さんはどちらかというとA型っぽいというか(笑)。
堺:そうかなあ(笑)。
宮崎:そうですよ! 堺さんは、ツレさんのように几帳面なところがたくさんあるような気がします。
Q:マジメなゆえに自分を追い込んでしまうツレに、共感を覚える人も多いと思います。お二人はどう感じましたか?
堺:この映画のツレさんは、頭が良くて自分自身でルールを決めて、そのルールでうまくいかないときに、自分ごと否定してしまうところがあるのですが、僕にもその傾向はまったくないとは言えなくて、むしろ、ある方だと思うんです。僕に限らず、誰もがその可能性を持っているような気がするんですよね。
宮崎:わたしは今まで、「うつ病は治したほうがいい」と思っていたような気がするんですけど、そうではなくて、「うつ病とどう付き合っていったらいいのか」を考えるべきだと感じました。「うつ病とうまく共存していく」という選択肢があるのだということを、ツレさんとハルから学ばせてもらいました。
もしも長い夏休みがあったとしたら……?
Q:「人生の夏休み」というツレたちの言葉が印象的ですが、もしも長い夏休みを過ごすことになったとしたら、何をしたいですか?
宮崎:夏休みかあ……。
堺:僕は別にいらないかなあ(笑)。例えば、45日くらいの夏休みがあったとしたら、あおいちゃんは何をしたい?
宮崎:仕事がしたいです(笑)。
堺:そうだね、45日もあれば、一本の作品が撮れちゃいますからね(笑)。あー、でも、夏休みの自由研究なんていいかもしれないですよね。朝顔の観察とか、やったら面白いかもしれません。
Q:最後になりますが、この作品をどんな方におすすめしたいですか?
堺:どなたが観ても心が温まる、とてもすてきなラブストーリーになっていると思います。大事な方と一緒にご覧いただけたらうれしいです。イグアナのイグも素晴らしい演技をしているので、イグアナ好きの方にもオススメしたいですね。
宮崎:「10分に1回くらいクスっと笑える作品にしたい」と佐々部監督がおっしゃっていたのですが、本当にその通りの映画になったと思います。うつ病を扱ってはいますけど、作品自体は病気のことだけでなく、優しさにあふれたすてきな夫婦の物語になっていますので、多くの方に楽しんでいただきたいです。
カメラの前でごく自然に堺に体を寄せる宮崎と、そんな彼女を優しい笑顔で受け止める堺。2人のくつろいだ様子は、宮崎の言葉通り「ぴたっとくる」という表現が的確で、ほほ笑ましい。「篤姫」では時代に翻弄(ほんろう)されながらも深い愛情で結ばれる将軍と正室を演じた2人が、本作ではうつ病と正面から向き合いながら、共に成長していく夫婦を熱演している。宮崎と堺の絶妙なコンビネーションによって、また一つ、誰もが心を動かされるエモーショナルなラブストーリーが誕生した。
映画『ツレがうつになりまして。』は10月8日全国公開