『ヒミズ』染谷将太&二階堂ふみ 単独インタビュー
衝撃の青春感動作は、ほのぼのした現場から生まれた
取材・文:早川あゆみ 写真:高野広美
2011年のベネチア国際映画祭で、主演の染谷将太&二階堂ふみが日本人初の最優秀新人俳優賞をW受賞して大きな話題となった映画『ヒミズ』。「行け!稲中卓球部」の漫画家・古谷実が約10年前に描いた衝撃作を、『冷たい熱帯魚』『恋の罪』などの鬼才・園子温監督が、設定を東日本大震災後に変更して実写化した青春映画だ。平凡な生活を夢見ながらも過酷な現実に直面する住田を演じた染谷と、彼に恋をし、やがて献身的に支えていく茶沢にふんした二階堂が、そのチャレンジについて語った。
予想と真逆だった楽しい現場
Q:お二人が『ヒミズ』に参加なさったのは、オーディションからだったと伺いました。受けられたきっかけを教えてください。
染谷将太(以下、染谷):僕は園監督の映画が好きで、ずっと出たいと思っていましたから、受けない理由はありませんでした。
二階堂ふみ(以下、二階堂):わたしは原作の古谷実先生のファンで、実写化されるならぜひ出演したいと思っていました。しかも、園監督の書かれた脚本を読んだらすごく力強くて、絶対やりたいって改めて思いました。
Q:園監督の演出は厳しいと評判ですが、実際に参加しての感想はいかがでしたか?
染谷:きっと苦しい毎日を送るんだろうと想像していたんですが、真逆で。とても楽しい毎日を過ごしました。園さんは面白いですし、現場は自由だし、共演の皆さんは楽しいし、ふみちゃんはおかしいし(笑)、面白い要素がありすぎました。もちろん、シーンを撮り始めると尋常じゃない緊張感に包まれて、役者もスタッフも死に物狂いになるんですが、そこがまた楽しいんです。監督や共演の皆さんとみんなでご飯を食べているときは、家族みたいな感じでした。(二階堂に)ね?
二階堂:はい。ほのぼのしていました。
Q:それは予想外の言葉です。殴り合ったりののしり合ったり、水ぬれや泥まみれのシーンなども多くありましたが、それでもほのぼのなんですか?
二階堂:傷や痛みは、役に体を貸している以上、気になるところではないです。
染谷:演じている最中は無我夢中だったので、まったく苦ではなかったです。もちろん、痛いし、冷たいし、寒いんですけど、何か、別なところにいっていたというか。
二階堂:寒いとか痛いとかは三の次、四の次で。むしろ茶沢としては、住田がどんどん追い込まれて苦しんでいるのを見るほうがつらかったですね。現場では演出のひとつひとつをとても楽しんでいたと思います。
染谷:打ち上げで園さんに「楽しかったです」って言ったら、「そんなはずはない!」って怒られました。
二階堂:わたしはちょっとケンカみたいになっちゃって。
染谷:で、次に会ったのはベネチア(笑)。
二階堂:でも、園さんは酔っていらしたし、お互い気にしていなかったです(笑)。
Q:監督は「楽しかった」という感想が意外だったんでしょうか?
二階堂:単純に、そう言わせたくなかったんじゃないでしょうか。
染谷:監督が背負っているものは、役者と違う大変さがありますからね。僕は自主映画ですが(監督の)経験があるので。安易に「楽しい」と言ってはいけなかったのかもしれません。でも楽しかったです(笑)。
現場ではお互いが特別な存在
Q:共演の皆さんとも和気あいあいとした雰囲気だったんですか?
染谷:そうです。父親役の光石(研)さんと思い切りぶつかり合うシーンがあるんですが、夜寒い中、セッティング待ちのときに光石さんが「染谷くん、まだ間に合うよ、IT系に転職とか。今ごろ君らくらいの年代の人は、おしゃれして街でディナーとかしてるのに、おれら泥だらけじゃん」っておっしゃって。大爆笑しました。
Q:では染谷さんと二階堂さんも、カメラの回っていないときは普通にお話しなさっていたんですか?
染谷:ふみちゃんに対しては、ほかの役者さんとは違った感覚でした。なんというか……なんなんですかね……。
二階堂:一言で「こうでした」って言えないような現場の雰囲気がそこにあって。やっぱり、住田と茶沢の関係性は、普通に笑い合っているだけではできないところがあったんだと思います。
染谷:悪い意味ではなく、ふみちゃんに一番気を使っていましたし、一番気になる人でした。普通なら朝、共演の方と会っても「おはようごいざます」ってだけだけど、ふみちゃんだと「あ、来た」ってドキッとするというか。
二階堂:わたしは現場ではそういうところまで気を使えませんでした。とにかく目の前にあることとどう向き合うかでいっぱいいっぱいだったので。でも、染谷くんはわたしの中で特別でしたし、なくてはならない存在でした。
ものすごく愛にあふれた青春映画!
Q:演じられた住田と茶沢というのは、どういう人だと思いましたか?
染谷:どういう人だろうとか、まったく思わずにやっていたので、言葉にならないです。結果論でいうと、自分で自分を追い込んでいる人、かな。住田って単なる名称で、住田になっているとか、そういう感覚もなかったんですよ。バックボーンとかもまったく考えなかったし。単に僕が感じたことをそのままやっただけなんです。
Q:では、茶沢についてはどう思いますか?
染谷:二人で部屋で寝転がっているシーンがあって、茶沢さんは末来を語っているんですけど、「なんなんだ、この愛は」って思いました。とてつもない愛を持った人ですね。
Q:二階堂さんは、住田と茶沢の関係をどう感じられました?
二階堂:茶沢として住田を感じているときは、目の前の住田を守りたいって気持ちが優先的に出てくるので、こういう人とかああいう人だとか、ものすごく言いにくいんです。二人については、たぶん関係で言ったほうがわかりやすくて、「恋から愛になっていった関係」ってことだと思います。二人は計り知れない愛で満ちあふれていて、最終的には少しですけど幸せな末来を見ることができる。ものすごく愛にあふれた青春映画だと思います。
Q:東日本大震災後を舞台にしたり、実際に被災地の映像を盛り込んだりしていて、さらに時代の閉塞性を描いた点なども話題になったりする作品ですが、お二人にとっては「愛の映画」なんですか?
二階堂:わたしはそう思います。(染谷に)どうですか?
染谷:社会性とかをまったく無視すると自分にうそをつくことになる気はしますけど、演じた身としては単純に住田として茶沢と向き合っていたので、そういった設定を僕は意識しませんでした。それは園さんが作るものって感じで。僕の中でも、青春と愛が根本にあります。
これから、そして、その先のこと
Q:この作品を経験したことで、一番大きく変わったことは何ですか?
二階堂:まだわからないです。何年か後に、ようやく「あのとき変わったのかもしれないな」って気付けるんじゃないかなと思っています。
染谷:僕もはっきりとはわからないけど、現時点の物理的なことでいうと、この作品の後では、前よりも自由にやっている気がします。園さんに、自由に演じることを教えていただいたので。他人から見たらわからないくらい小さな部分で、気持ちの問題だと思うんですけどね。
Q:この先にチャレンジしたいことはありますか?
二階堂:変な話、映画の現場って仕事だと思っていないので、これからもいい出会いを大切にしていきたいと思います。「よっしゃ、がんばるぞ!」って感じではなく、変わらずマイペースでやっていければいいなと思っています。
染谷:僕は……死ぬ前に1本、長編映画を商業で撮りたいですね。もちろん、役者が本業なのでそちらもがんばりますが(笑)。
東日本大震災の被災地の映像を盛り込み、過酷な環境に置かれた人間の心の闇や醜さを赤裸々に描き出しながらも、予想外のさわやかな感動に心が揺さぶられる本作。それは、染谷と二階堂の痛々しいほど見事な演技と、それを引き出した園監督の手腕によってもたらされるものだろう。取材現場の二人は10代らしい率直さや軽やかさ見せるが、そこにはやはり大きなことを成し遂げた達成感と、さらにその先に向かおうとする鋭い感性が光っていた。園ワールドで壮絶にはじけ、変化した若き才能を、見逃す手はない。
映画『ヒミズ』は全国公開中