映画『おかえり、はやぶさ』藤原竜也&杏 単独インタビュー
華やかな偉業の裏にある、努力の重みを伝えたい
取材・文:森直人 写真:高野広美
2010年6月13日、7年間に及ぶ60億キロの宇宙の旅から帰還した小惑星探査機「はやぶさ」。この日本の歴史に残る偉業を、3D映像を駆使して描いた映画『おかえり、はやぶさ』で、JAXA(宇宙航空研究開発機構)に所属するプロジェクトチームのメンバーを演じたのが、藤原竜也と杏だ。エンジニア助手の大橋健人と理学博士の野村奈緒子という対照的な男女の役で絶妙なコンビネーションを見せた二人が、撮影秘話や映画に込められたメッセージを、語り合った。
初共演!アットホームなひと夏の撮影体験
Q:お二人のご共演は初めてですよね。お互いの印象はいかがでしたか?
藤原竜也(以下、藤原):僕、杏ちゃんがベラ役で出演したテレビドラマ「妖怪人間ベム」が大好きで。あれは、本当に面白かった!
杏:ありがとうございます。
藤原:今回の映画は人間の話だけど(笑)。杏ちゃんは、テレビなどで見かけても、いつもナチュラルで、すてきだと思っていました。今回、一緒にお芝居をさせていただいて、良い意味で、その“普通さ”に引っ張っていただきました。それに今回は、全体的にとても和やかな現場だったんです。
杏:すごくアットホームでしたよね? わたしも、『カイジ』(映画『カイジ 人生逆転ゲーム』)など、藤原さんの作品はいろいろ拝見させていただいていまして、ストイックなイメージを持っていたんです。実際、ご一緒してもご自分の演技に対する姿勢は厳しいんですけど、その反面、話すと気さくで楽しくて。あと今回、いろいろな年代の俳優さんが集まった現場だったんですが、ある意味“男の子”の集まりみたいだったんです。映画の役柄としても、JAXAチームの根底には、“宇宙へのロマン”という少年性が流れていて、それがキャストの皆さんの中に自然に存在していたので、わたしも楽しみながらやらせていただきました。
藤原:スケジュールも去年の夏、2か月ゆったり取ってもらって。まあ忘れもしない、(前田)旺志郎は僕に初めて会ったときに「藤原さん、はやぶさって何なん?」って(笑)。
杏:旺志郎くん、最高でしたよね!
藤原:すてきでしたよ。僕、まえだまえだの漫才のファンだし。演技も、あのストレートな瞳は大人の役者にはまねできない。本当にみんなで楽しいひと夏を過ごしたよね。
杏:途中で納涼バーベキュー大会をやったりとか。JAXAの方々も来てくださって……。
藤原:杏ちゃんの浴衣姿も見られたし(笑)。本当、近年体験したことのない、ぜいたくな撮影現場でしたね。
JAXAの細かいサポートでリアリティーを追求!
Q:JAXAのメンバーを演じた感想を聞かせてください。
藤原:撮影には毎日、JAXAの方がサポートでついてくださったんです。リアリティーを追求するために、こと細かに伺いながら撮影を進めていったのですが、嫌な顔一つせずに教えてくださった。今回は、一般の僕らがなかなか入れない世界の話なので、JAXAの方々がいなかったら成立しなかった。最初、台本を読んでも意味のわからない個所もあったよね?
杏:「コマンド」「1ビット通信」「クロス運転」とか、専門用語をいきなり理解するのは難しかったです。台本と並行して、資料となる本も何冊か読みました。
藤原:JAXAの方々って一見等身大の“普通の人”なんだけど、やっぱり天才集団ですから。
杏:ただ、映画の中でも工学系と理学系の違いというのが描かれているんですが、工学系の男性である藤原さん演じる健人と違い、わたしが演じる奈緒子は理学系の女性で、ロマンチックな好奇心が仕事の動機になっているんです。だから、奈緒子をやる上では「宇宙ってすごい!」みたいな、未知への興味を純粋に追い求める気持ちも大切にしました。JAXAの方にも「宇宙人って本当にいるんですか?」とか、そんなことばっかり質問しちゃって(笑)。
Q:JAXAの方は宇宙人の存在について、何とおっしゃっていたんですか?
杏:「僕らもいるといいなと思います」って(笑)。
藤原:「そう思うことが大事」っておっしゃっていましたね。あと、今回はセットもすごくリアルに作ってくれたんですよ。JAXA側から「もう、これは完ぺきです」ってお墨付きをもらったくらい。
杏:だから本当にJAXAで体験学習しているみたいでした。
この二人なら宇宙の話で一晩酒が飲める!?
Q:今回の映画をきっかけに「はやぶさ」や宇宙への関心は高まりましたか?
藤原:もちろん。それに僕ね、宇宙空間や未知の生命体の話が昔から大好きだったんです。それをさかなに一晩酒が飲めるくらい。
杏:あはは。
藤原:追いかけても追いかけても無限の世界だから、どこまでも想像力が広がるんです。今も夜に外を歩いていると、ずーっと星空を見てしまうし。
杏:わたしも小さいころから宇宙への関心はすごくありましたけど、歴史を好きになってから、ますます興味がわいて。宇宙と歴史ってすごく関連があるんです。今、わたしたちが見ている夜空の星の輝きは、平安時代や奈良時代のころから届いている光だったりするわけで。そういう「今と昔と未来」をつなぐものが、宇宙をめぐるロマンの中にある。今、わたしたちが放っている光も、ほかの星には500年後にいる人に届くのかなって考えると、まるでタイムスリップしているような、不思議な気分になります。
Q:なるほど。杏さんは“歴女”としても有名ですもんね。
杏:ただ好きなだけで(笑)。
藤原:歴女って何?
杏:歴史が好きな女の子のことです。中学2年生の3学期に突然ハマったんです。
藤原:へえ~。杏ちゃん、すてきだね! 僕の興味はもっとチープだな。宇宙人とかUFOとか。
杏:いや、わたしもやっぱり宇宙人のことが一番知りたいですよ(笑)。
映画に乗せた未来に向けてのメッセージ
Q:『おかえり、はやぶさ』には、「はやぶさ」の偉業を通して、今の日本に勇気を与えるメッセージを強く感じました。
藤原:そうですね。「あきらめないで思い続ける」という作品のテーマには、僕自身も学ぶべきところが多かったし、完成した映画を観てもグッと来るものがありました。
杏:わたしがこの映画から学んだことは、「はやぶさ」のミッションが成功したとき、世間でフィーバーが巻き起こったけれども、実は7年の歳月がかかっていたという重みですね。「もっと早くから応援できたら良かったのにな」ってすごく思ったんです。ちょうど撮影中は「なでしこジャパン」がワールドカップで優勝したときだったんですが、どちらの偉業も、達成されてから華やかにニュースで大騒ぎになったじゃないですか。やっぱり「成功した後じゃないと注目されない」っていう傾向が、日本の社会にはあるのかもしれない。だからもっとわたしたちは「結果より、その前の努力」を知らなくちゃいけないと思いました。
藤原:7年だもんね。そこに至る過程は奇跡以上に、努力の連続であったと思う。
杏:わたし自身は、お芝居や表現のお仕事って、観た人が何かしらポジティブになれるものを発信していくことが必要だと考えているんですね。特に小さい子は、1本の映画体験にもすごく影響を受ける気がするので。この映画にはすてきなメッセージが詰まっていますから、できるだけたくさんの子どもたちに観ていただいて、宇宙や「はやぶさ」のことを知ってほしいなと思います。
藤原:僕もまったく同じ気持ち。家族全員で楽しめる映画ですけど、特にこれからの日本の未来を担う若い子たちに観てもらって、自分が成長する一つのきっかけになってくれたらうれしいですね。
インタビュー中も撮影中も、自然体で会話を続ける二人。彼らの間に流れるリラックスした空気は、充実した撮影現場の様子をそのまま伝えるかのようだった。「不安定な時代だからこそ、僕たちはブレないで仕事することが大切」と藤原が言えば、「映画は未来に残っていくものですからね」と返した杏。その作品作りに対する真摯(しんし)な思いが、逆境に負けない不屈の精神を描く『おかえり、はやぶさ』という映画の感動に結実したのに違いない。
(C) 2012「おかえり、はやぶさ」製作委員会
映画『おかえり、はやぶさ』は3月10日より3D、2D同時全国公開