『愛と誠』妻夫木聡&武井咲 単独インタビュー
映画でバカをやるからこそ通す一つの筋
取材・文:高山亜紀
手のつけられない超不良の太賀誠と彼を白馬の王子様と信じ、思い続ける世間知らずのお嬢様・早乙女愛。不釣り合いな二人の運命的な純愛を描いて1970年代に一世を風靡(ふうび)した『愛と誠』がこのたび、鬼才・三池崇史監督のもと、誠役・妻夫木聡と愛役・武井咲で映画化された。オーバー30の妻夫木と撮影当時現役高校生だった武井。キャスティングの段階ですでに不均衡な印象を受けるが、スクリーンでの相性は意外にも抜群。果たして、実際のバランスは? 二人が厳しくも楽しかったという三池組撮影の日々を振り返った。
バカをやるからこそ、現場では大真面目に
Q:『愛と誠』に出演すると聞いたときはどう思いましたか?
妻夫木聡(以下、妻夫木):もともとの作品を知らなかったので、出演も三池さんとの仕事だというのと、台本を読んで面白そうだなと思ったので決めたぐらい。台本の中にはジャンルを一つに絞れないぐらい、いっぱいの内容が詰め込まれて、そこに惹(ひ)かれたし、三池さんが一緒にバカやってくれるのかなっていうイメージが湧いてきたので、面白くなりそうだと思ったんです。
武井咲(以下、武井):わたしも、原作も劇中で歌う曲のこともほとんど知りませんでした。映画化されるのは三十何年ぶりだそうで、わたしの生まれる前の作品でもありますから。三池監督に以前お会いしたときにも「台本を読んだときに自分が感じたままに芝居をした方がいい」と言われたので、その言葉を信じて、そこまで原作にこだわらなくてもいいかなと思いました。
妻夫木:僕らがもし原作を知っていたら、また違う印象になったかもしれないですね。
Q:出来上がった作品は脚本を読んだときの印象と違っていますか?
武井:脚本を読んだときは、正直ちょっとわからなかったんですよね。いまいち想像できなくて、どういう仕上がりになるんだろうと不安でした(苦笑)。でも実際、撮影に入るとうまく進んでいったので、なんだかうれしかったです。
妻夫木:宅間(孝行)さんの脚本はパロっている部分が大いにあって、飛ばしている感があったんです。それを三池さんがやることによって、より研ぎ澄まされていったような気がします。その辺りは三池さんの原作者に対するリスペクトなんだろうなっていうのは感じていました。映画でバカをやるってことは、何でもありってわけじゃない。バカをやるからこそ真面目で一つ筋が通っていなきゃいけないと思いました。
孤独でクールな男とゴミになりたい女?
Q:過去の会見で武井さんが「台本を読まなくていいのかな」と発言して話題になりましたが、現場でかなり変更があったのでしょうか。
妻夫木:その発言だけ取り上げると、咲ちゃんが誤解を受けそうですが、現場で変えることがかなりあったので、逆に読み込んで脚本通りに作り上げてきちゃうと、方向性を変えられないという意味なんですよ。脚本だと愛の世間知らずっぽいところが強調されていて、それに対する誠のツッコミがかなりあったんです。でも、そういうものが削られて監督から「誠はクールでやりたいんだ」って言われたんですよ。それは僕の考えていたものとは真逆だったので、「じゃあ、精神面の役づくりをやっていった方がいいかな」と考え直しました。
武井:お芝居や動きなどが現場で刻一刻と変化していく感じで、脚本にないシーンも結構追加されています。思いも寄らない行動やセリフが当日、増えたりすることも多かったので、まさに監督についていって作り上げた感じがしています。台本には「ここで愛が歌う」などざっくりした指示が書いてあって、現場に入って初めて「こういうことだったのか」とわかることもありましたね。
Q:それぞれのキャラクターを演じるにあたり、一番気を使ったところは?
妻夫木:監督から言われた「クール」というものを自分で身に付けるためにどうすればいいんだろうと。たぶん、孤独というものを知った方がいいんだろうなと思って、とにかく孤独な日々を送るとか、そんなことに自分の比重を置いていました。今回の映画はアクションや踊りもあったりするから、そこに重点を置き過ぎてもいけないけど、それでも日頃から、孤独というのを頭にとらえるようにしていましたね。
武井:ブルジョアな愛がたばこの吸い殻のそばで横たわっている画(え)などはおかしくって、すごく記憶に残っています。お嬢様な愛があそこまで汚されていくさまを演じるのはとても楽しくて、もっと汚れたメイクをして「ゴミになりたい」って思うほどでした(笑)。
3日間ほとんど寝ずに、歌&踊り&アクション!
Q:歌や踊りに関しては撮影前に稽古期間はあったんですか?
妻夫木:踊りに関しては1日だけですね。振り付けのパパイヤ(鈴木)さんとはもともと仲がいいので、「どれぐらいやればいい?」って聞いたら、「1日でいいや」って言うんですよ。「大丈夫?」って念を押したら、「ミュージカル! って感じにはしたくないから」と。それでも僕はみんなの中で一番、ミュージカルぽい動きをしているとは思うんですが、ステップの確認とかを1日とちょっとやったぐらいですね。
武井:「芝居だから、うまく歌おうとか上手に踊ろうとか思わなくていい」って監督に言われて、踊りも現場で教えてもらったぐらいですから、特にレッスンは受けていません。役で歌う、踊るという経験がこれまでなかったので、最初は大変でした。自分のキャラクターとして歌うって、どういうことなんだろうとか、いろいろ悩んでしまったので。
妻夫木:冒頭のシーンの撮影は3日間ずっと朝から朝までって感じだったんです。ほとんどみんな寝ないでやっていました。アクションもあったので、ずっと動いて、歌って……しんどかったです(笑)。
Q:武井さんが大変だったところは?
武井:とにかく暑かったです。蒸し暑い日が続いた上にわたしはカツラだったので、頭も暑くて。 工事現場のおじさんかっていうぐらい汗をかいていました(笑)。おかげで2キロぐらい痩せたんです。あとは縛られるだけならまだしも、さらに宙づりにされた撮影はすごく痛くて、翌日は筋肉痛になって大変でした。今となってはいい思い出です。
10代とは思えない武井の存在感
Q:お互い共演してみての感想は?
妻夫木:咲ちゃんは頭がいいですからね。監督の要求することにすぐ応えられる。これだけ現場で堂々といられるなんて、とても10代とは思えませんよ。そこがまた、よかったんだと思います。
武井:妻夫木さんは目が優しくて、本当にいい人だと思いました。話していても、トゲがないというか……何でも相談できそうな雰囲気が漂っているんです。でも、お芝居になるとサッと顔つきが変わって、集中されているオーラみたいなものをすごく感じました。何でもできる多才な方なのに、ピリピリしていない。妻夫木さんのおかげで頑張れました。これからもついて行きます!
1970年代ならではの熱く真っすぐな恋愛を歌と踊り満載のエンターテインメントで彩った異色純愛映画『愛と誠』。この不可思議な映画の魅力を支えているのが、いまや日本映画界をけん引する存在である妻夫木と武井のワイルドな組み合わせである。その二人から意外にも過酷だった現場のエピソードや想像以上に真摯(しんし)な作り手の思いが明かされ、ますます『愛と誠』ワールドへの興味が高まるのではないだろうか。なぜ今この作品を作ったかは問題ではなく、今だからこそ楽しめる作品。妻夫木も言っていたが、「だまされたと思って、観て!」。それがこの映画のすべてだろう。
(C) 2012『愛と誠』製作委員会
映画『愛と誠』は6月16日より新宿バルト9ほか全国公開