映画『メリダとおそろしの森』大島優子 単独インタビュー
今ではメリダはわたしの分身です
取材・文:高山亜紀 写真:Hiroyuki Tsutsumi
ディズニー/ピクサーが初めて女性を主人公に据えた『メリダとおそろしの森』。その日本語吹き替え版本編・王女メリダ役に抜てきされたのがAKB48の大島優子だ。王女でありながら自由を愛し、赤毛をなびかせて、森の中を馬で疾走するヒロイン・メリダ。「自由奔放で好奇心旺盛、活発なところが共通点」と自他共に認めるメリダをアフレコするにあたって感じた楽しさ、難しさとは? 収録時を振り返りながら、さまざまな思いを語った。
家族の大切さに改めて気付かされた作品
Q:どんな作品なのか、大島さんの言葉で聞かせてもらえますか。
もう感動します! これまでのディズニー/ピクサー作品同様、ファンタジーでありながら、とても感情移入しやすい作品でした。主人公のメリダが魔法によって危険にさらされた家族と王国のために果敢に立ち向かっていくお話なんです。皆さんもそうだと思いますが、わたしも家族のことが大好きなので、この作品でその大切さを改めて気付かされました。劇中、メリダが家族のために戦う場面があるんですが、アフレコしながら思わず泣いちゃいました。
Q:それほど、メリダ本人に気持ちが入っていたんですね。
一場面ずつアフレコをしていくので、じっくり時間をかけて、映像を観ることができたんです。その分、余計にメリダの人生を味わっているような感覚になって……。今ではメリダが心からいとおしくて、収録が終わってしまうのがとても寂しかったですね。彼女にはたくさん勇気をもらいました。
Q:自由奔放でおてんばなところなど、メリダとはやはり共通点が多かったですか。
かなり似ていますね。自然や森が好きで、家族のことが大好きで、ちょっと気が強いんだけど、おちゃめなところもあって、おてんばで……そういう姿を見て、全部に共感できました。しぐさや考え方とか、よくわかります。ナチュラルヘアで、着飾ったドレスもそんなに好きじゃない。「わかる~。息苦しいよね~」って、共感していました。
メリダと一緒に成長した自分の発見
Q:メリダは、なりたい自分と王女として自分に与えられた役割にジレンマを感じます。その点はいかがでしたか?
慣れないことをやったり、自分に合わないなと思うことをやるって大変じゃないですか。とてもつらいことだと思うんです。それはすごくわかります。でも、それが国のためってなるとどれぐらい大きなことなのかなあって、すごく悩みました(笑)。そういう状況になったときは、迷いや不安に支配されることもあると思うけど、自分で決めたことを信じて、目の前のことに全力で取り組むことが大切だと思います。困難に立ち向かうメリダの成長ぶりに注目していただければと思います。
Q:声の表現は演技とはまた違う難しさがあると思いますが、特に苦労したところはありますか。
全部、苦労しました。アニメーションはすごく表情豊かなので、その表情に合った声のトーンを出していかないと、伝わるものも伝わらない。だから、一つ一つの言葉を丁寧に言って、皆さんが聞いたときにスッと頭に入って理解してもらえるようにしなきゃと心掛けました。そう思うと、プレッシャーも大きかったですけどいい経験になりました。
Q:聞いているだけでも、難しそうです。
大変でした。アフレコが1回でOKになるシーンもありましたが、だいたい10回、多いときは15回ぐらいやり直しました。でも監督さんからいただいたアドバイス通りにアフレコをやってみると全然違うものになるので、驚きましたし、演じる上で役に立つように普段の自分の話し方を意識するようになりました。やりながら、自分自身の変化に気付いて、今ではメリダと一緒に成長できた気がします。
自分の声が好きじゃなかった!
Q:王女役ということで、普段なら使わない言葉遣いのせりふも多かったですね。
「お母様」という言葉一つ取っても、いろんなバリエーションがあるんです。もちろん普段の生活で「お母様」なんて言ったことないですし、「お父様」もありません。それから、弟たちのことを「坊やたち」って呼ぶんです。台本を読んだときは、「坊やたち? うわっ、どうすればいいんだろう」って、頭を抱えちゃいました(笑)。馬に乗ったときの「ハイヤ!」っていう掛け声もそう。どう言うんだろうと思いましたね。
Q:自分の声を改めて聞いてみて、どうでしたか。
メリダの体の中に自分の声が吹き込まれたと思ったときは、「ああ、わたしのメリダができた~っ!」って、本当にうれしかったですね。「わたしの」って言うとちょっと変な感じですけど、オリジナルの声の方のメリダもあれば、わたしが吹き替えを務めたメリダもありますから。実は声優に抜てきされる前は自分の声が好きじゃないから、「どうしてわたしなんだろう? わたしでいいのかな」という思いがずっとあったんです。
Q:自分の声が好きではないとは意外です。
全然、好きじゃないですよ。ハスキーな声なのに、よく通る。メンバーたちとワーワー騒いでいる映像を見ると、自分の声だけがトーンと入ってきてがくぜんとすることがよくありました。「誰? このうるさい声? あ、自分じゃん」って(苦笑)。でも、今回はそんなことを言っていたら、良い作品ができない。逆にチャンスを与えられたのだから、しっかり自信を持ってやらなきゃとすぐに気持ちを切り替えました。
メンバー全員に観てもらいたい!
Q:公開アフレコの映像を見て、ぴったりだと思いました。
そうだとうれしいです。今回、メリダをやってすごく自信がつきました。母も、ディズニーが大好きで、「あなたにできるの?」とずっと心配していました。でも、あのアフレコ風景をテレビで見て、「上手だった!」ってとても喜んでくれて、公開も楽しみにしてくれています。家族が楽しみにしてくれる仕事ができたことはうれしいですし、一人でも楽しみにしてくれる人がいたら、やってよかったなと思いますね。
Q:AKB48のメンバーも楽しみにしていますか。
「声優やるんでしょ? すごく楽しみ。観たい~」と言われています。AKB48のメンバー全員に、観てもらいたいです。そこは宣伝しまくります!
Q:この仕事を機に今後も声の仕事が増えるといいですね。
動物や自然を扱ったドキュメンタリー番組のナレーションは、やってみたいですね。でも、アニメーションに声を入れるのは今回だけでいいと思っているんです。メリダのことを大切にしたいから。自分に似ていることもあって、今ではメリダを分身のように感じています。一つ一つの表情も愛くるしくてかわいい。わたしがメリダを好きになったように皆さんもきっとメリダのことを好きになってくれると思います。
インタビューが行われたのはAKB48選抜総選挙の直前。そんな超多忙な時期にもかかわらず、疲れた表情一つ見せず、一つ一つの質問に真摯(しんし)に、丁寧に答えてくれた大島。メリダと一緒に成長したというだけあって、プリンセスの気品も手に入れたかのようだった。その誠実さから周囲の誰もが彼女のファンになってしまうように、彼女が声を吹き込んだメリダもまた多くのファンを獲得する存在になっていくのだろう。オリジナルキャストのケリー・マクドナルドのメリダは勇ましく大胆な印象なので、いつもキュートな大島優子が、どうなふうに勇ましいメリダになっているか、注目したい。
衣装:MERCURYDUO
スタイリスト:片岡麻弥子
メイク:円谷歩美
(C) Disney / Pixar. All Rights Reserves.
映画『メリダとおそろしの森』は7月21日(土)より全国ロードショー