『闇金ウシジマくん』山田孝之&大島優子 単独インタビュー
収支に個人差があるから決められない、金銭感覚の「普通」
取材・文:南 樹里 写真:奥山智明
「金は奪うか奪われるかだ」が合言葉の非情な闇金業者・ウシジマが張り巡らす借金地獄というクモの巣に、欲望を抱えた若者が捕食されていく。真鍋昌平の人気コミックが深夜ドラマを経てついに映画化。ドラマ版に続きウシジマ社長を演じる山田孝之と、母親の借金を返済するフリーターの未來を演じた、アイドルの顔も持つ女優・大島優子が、債権者と債務者という関係で共演。映画に絡め、金銭感覚から芸能界のサバイバル談議にまで話が及んだ。
どんな人間にも善悪の二面性がある
Q:待望の映画化となりますが、撮影はいかがでしたか?
山田孝之(以下、山田):汗をかかないウシジマを真夏に演じるのは大変でしたね。ドラマ以来なので、役柄の感触を早く取り戻さなければとクランクインは不安でした。ですが僕なりのウシジマを精いっぱいやりました。
大島優子(以下、大島):個性派&演技派の役者さんがそろった作品に出させていただけることがすごくうれしくて、全力で演技してぶつかっていきたい! と思いました。でも気負い過ぎたのか撮影初日はセリフをかみまくってしまって、何度もテイクを重ねて迷惑を掛けてしまいました。未來の役柄は、普通の19歳の女の子なので肩に力が入り過ぎないように気を付けて撮影に臨みました。
山田:大島さんと林遣都くんの役は、すごく大変だったと思いますよ。
Q:ウシジマにも仏心があるなど、どんな人間にも良い面・悪い面があると描かれていますね。
山田:鈴之助くんが演じているネッシーこと根岸裕太に、遣都くんが演じた純が会いに行き、相談を持ち掛ける場面があるんです。そこで根岸が先輩風を吹かして、正論っぽく薄っぺらい助言をするくだりが気に入っていて。悪知恵が働いて、美人局(つつもたせ)までやらせているコイツは何なんだ!? と思ったところで、いきなり(援助交際少女)まいたんをぶっ飛ばす!
大島:あの行動はびっくりしました!
山田:で、その次の瞬間何もなかったように「純、お前なぁ……」と話を続けるという、根岸の切り替わりぶりに「えっ!」と驚くんですけど、人間ってこういうところあるよなと思うんですよね。
ウシVSマムシ!人生はサバイバルの連続
Q:山口雅俊監督は、映画で再現したいと思った原作のシーンを山田さんに提示されたそうですね。
山田:ウシジマがフェンスの上から飛び降りて、(新井浩文演じる)肉蝮(まむし)の腕をガッと折る場面です。僕はウシジマに関しては、独特な動きも含めて普通のアクションにしたくなかったんです。
Q:それほど役への思い入れは強いと。ウシジマと肉蝮の対決には目を奪われました。
山田:ケンカではなく殺し合いなので、異物同士がぶつかり合う異様な空気感を出したかったんです。今回アクションコーディネートを担当された方とは何度も仕事をしてきたので、多少ですが自分の意見も言いつつ、動きを作り上げました。観た方々が不穏さを感じてくれたそうなので、成功したのではないかと思います。
Q:大島さんは男性のガチ対決をご覧になって、どう思われました?
大島:ウシジマ社長と肉蝮のシーンは一番ハッとして、ずっと目を見開いていました! 二人の存在感がすごいですし、山田さんがおっしゃるように「異物と異物の対決」なので、結末を予測できない面白さでした。
Q:サバイバル要素を含む本作にちなみ、サバイバル体験を教えてください。
大島:人生では思いつかないんですけど。お仕事で言うと、山田さんもご存じでしょうけど、AKBの活動のほとんどはサバイバルの要素を含んでいるんじゃないかと思います。ステージ上では、どんな状況に置かれても、常に最高のパフォーマンスを! と思っていますし、あらゆる場所で自分の個性を発揮し続けていかないといけないですからね。
山田:僕は仕事がありますし、ご飯も食べれていますからあまり感じないですね。ヘビーなことがあって、そのときは途方に暮れても、過去を振り返ればその程度だったかという感じで。世の中にある厳しいことや苦しいことと比べたら、自分の精神的なキツさはたいしたことじゃないと思います。
個人差があるから難しい、お金との距離感!
Q:金銭感覚や生き抜く力の必要性を感じさせる内容でした。貧困問題を抱える現代の若者に、お二人が掛けたい応援の言葉といえば?
山田:(大島に向かって)じゃあ、(若者を)勇気づけてください!
大島:はい。実母が作った借金をウシジマ社長へ返済するという義務を背負って、人生の目的を見失い「出会いカフェ」にハマるフリーターの未來。彼女を演じたことで、ラクにお金を稼ぐことよりも、自分の力でお金を稼ぐことの大切さを痛感しました。何かを得るために努力や苦労は必要なこと。目の前にある逃げたくなるような事柄にちゃんと向き合うことで成長すると思うので、壁にぶつかることがあっても自分で乗り越えるべきだと思います。何だか金銭感覚の話ではなくなってしまいましたが。
山田:大島さんに若者を勇気づけてもらっておきながら、僕は真逆の現実的なコメントをしようと思うわけですが(笑)。
大島:えっ!
山田:もし勇気がほしい人がいるのならば、「それは誰からももらえない。自分で努力してがんばれ!」と声を掛けます。では、金銭感覚の話にいきましょうか。
大島:わたしの金銭感覚は(芸能人だから)ズレていると思われそうですけど、普通ですよ。
山田:金銭感覚って「普通」が決められない。お金との距離感をつかむのがなぜ難しいかといえば、みんなそれぞれ収入や支出が違うから。収支に個人差があるため他人は参考にならなくて、自分で意識して考えなければ崩れるんですよ。もちろんお金だけじゃなく、何事も距離感を誤ると破滅したり人間関係が崩れたりする。本作は、難しいからこそお金について改めて考える必要があるのだと言いたい映画です。
山田孝之、会話の糸口に「検索」
Q:先ほどのサバイバル話で大島さんが、山田さんも「AKBの活動のほとんどはサバイバルの要素を含んでいる」のをご存じとおっしゃっていましたが?
山田:それは山口監督に「AKB48のドキュメンタリーはすごく面白いよ」と勧められまして、本作の撮影後に鑑賞したからです。大島さんが自ら「サバイバルの要素を含んでいる」と表現するのもわかります。大ブレイクしている分大変なこともあるでしょうし、体は一つなのに全てやり遂げている。すごいですね、アイドルの裏側って厳しいなと思いました。
Q:厳しいといえば、未來は母親や幼なじみからキツイ言葉を投げ掛けられます。よく耐えられましたね。
大島:もちろん言われたことがないから、すごく衝撃的でヘコみましたね。
山田:上原役のムロツヨシさんには「こじき」って言われていたし。
大島:ありましたねぇ。そういう撮影の日は山田さんが励ましてくれました!
山田:僕が?
大島:はい、「コリス」(昔の愛称)って呼んで励ましてくれましたよ。あまり呼ばれることがないので恥ずかしかったですけど(笑)。それを知っていてくださったことがうれしかったです!
山田:同じ芸能界ですけど全然違う環境で仕事をしているので、会話の糸口を見つけようと考えて「ウィキペディアだ!」と。本当のことは70パーセントぐらいしか書いていないかな? と思ったんですが、「あまり呼ばれたことがない」と見事に言われました(笑)。でも逆に僕はそう呼ぼうかな、みたいな。
大島:ありがとうございます! それでは、これからはコリスでお願いします。
AKBの「ヘビーローテーション」を歌って踊れると監督に暴露されていた山田。今をときめくアイドルグループの中心メンバーである大島との2ショット撮影では、「山田さんが目を合わせてくれない」とこぼす大島に「恥ずかしいでしょ」と破顔一笑。一方「成功するための武器は?」と問えば、山田が「大島優子の武器は○○! って見出しに書かれるよ」とちゃかし、大島が「ビジネス本みたいですね」と返すなど、劇中で対峙(たいじ)したかいがあり、設定が変われば名コンビになれそうな雰囲気の二人だった。
(C) 2012 真鍋昌平・小学館 / 映画「闇金ウシジマくん」製作委員会
映画『闇金ウシジマくん』は8月25日より全国公開