名探偵シャーロック・ホームズからハードボイルドな私立探偵、そして推理小説というジャンルを生み出したエドガー・アラン・ポーを主役に据えた作品まで、卓越した映像力を誇る探偵映画をご紹介!
『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』 で鮮烈なデビューを果たすもマドンナ との結婚後は残念な作品ばかりだったガイ・リッチー 監督が、離婚後に復活を決定付けた作品が『シャーロック・ホームズ』 。ホームズ&ワトソンのコンビが、19世紀末のロンドンを舞台に、黒魔術で全世界を支配しようするブラックウッド卿の野望を阻止するべく奮闘するさまが描かれる。ホームズにロバート・ダウニー・Jr 、ワトソンにジュード・ロウ という意外ともいえるキャスティングが功を奏し、新たな名コンビが誕生した。
リッチー監督の功績は、言わずと知れたイギリスが誇る名探偵を肉体派のアクションヒーローとしてよみがえらせた点。ホームズの天才的な推理力はそのままに、スローモーションを効果的に用いたアクションシーンも盛りだくさんで、とことんスタイリッシュな作品に仕上げている。ホームズが唯一愛した女性アイリーン・アドラーの登場や、宿敵モリアーティ教授の影がちらつく展開などは原作ファンにもうれしいところ。第2作『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』 ではそのモリアーティ教授との推理バトルが描かれるが、舞台をロンドンから欧州に広げてしまったためかまとまりに欠け、前作ほどの魅力がないのが残念。すでに製作が決定している第3弾 に期待したい。
ワトソン&ホームズの名コンビ!
特技:ボクシング
Warner Bros./Photofest/ゲッティ イメージズ
新たなホームズ像を作り上げたといえば忘れてはいけないのが、BBC製作のドラマ「SHERLOCK(シャーロック)」。「シャーロック・ホームズが21世紀に生きていたとしたら?」という発想を基に、自称“コンサルタント探偵”のホームズ(ベネディクト・カンバーバッチ )が、アフガニスタン帰りの元軍医ワトソン(マーティン・フリーマン )と共に事件に取り組む姿を描くミニドラマシリーズ(1話90分、全3話)でシーズン2まで製作されている。ホームズがスマートホンを駆使して捜査に当たり、ワトソンは捜査日誌をブログにつづるといった描写のほか、二人一緒にいるとよく恋人に間違えられるところなども現代的だといえるだろう。映像はセンス良くスピーディーに展開していき、ホームズの頭に浮かぶ単語を実際に文字として画面に表示するという演出も斬新で面白い。
原作にある卓越した推理力や気難しい性格、女性に関心がないといったホームズの性格は研究の対象になっておりさまざまな理由付けがなされているが、本作での彼は「高機能社会不適合者」という設定。ずば抜けた推理力で真相を突き止めていく本筋に加え、変人として扱われているホームズが事件を通してワトソンと唯一無二のコンビとなっていくさまは必見だ。また原作ファンを喜ばせる小ネタも満載で、例えばシーズン1第1話のタイトルは「緋色の研究」を模した「ピンク色の研究」。それぞれに基となる原作があるものの、借用されているのはタイトルやせりふ、一部シーンのみで、内容は完全オリジナルストーリーになっている。ちなみに第3シリーズの撮影は来年1月開始を予定しており、製作総指揮を務めるスティーヴン・モファット とマーク・ゲイティス (マイクロフト・ホームズ役として出演もしている)が、今シリーズのキーワードは「Rat(ねずみ), Wedding(結婚式),Bow(お辞儀)」 だと明かしている。それぞれがどの原作を表しているのか、ホームズさながら推理してみるのも楽しいかもしれない。
仲良しコンビがロンドンで活躍!
Colin Hutton©Hartswood Films 2010 John Rogers©Hartswood Films 2010
細身のコートがすてきなホームズ
Colin Hutton © Hartswood Films 2012
「SHERLOCK(シャーロック)」シーズン1、2発売中
価格:税込み各9,975円(DVD-BOX)、各1万2,495円(ブルーレイBOX)
発売元:角川書店
映画史にさんぜんと輝く探偵映画の名作の一つといえるのが、巨匠ロマン・ポランスキー 監督が1974年に手掛けた『チャイナタウン』 。舞台は1937年のロサンゼルス。ジャック・ニコルソン 演じる私立探偵ジェイク・ギテスが、「モウレー夫人」と名乗る女性に水道局幹部である夫ホリス・モウレーの浮気調査を依頼されたことで、水道利権をめぐる巨大な陰謀に巻き込まれていくさまをノワールのムードたっぷりに美しい映像で描き切る。
ジャックは水道局の回し者(ポランスキー監督がカメオ出演!)にナイフで鼻を切られるため、映画の大半を鼻にガーゼを当てた姿で登場するがこれがとてもかっこいい。ピンチでも軽口をたたくのを忘れず、自分の足を使って真相を追い求めるハードボイルドな探偵像を作り上げている。見事に事件を解き明かすも結局何も変えることはできないというラストは秀逸で、ナチス占領下のポーランドで過酷な半生を送ってきたポランスキー監督らしい演出だといえるだろう。モウレー夫人の父親である陰の有力者を演じるのは、こちらも探偵映画の傑作『マルタの鷹』の監督で知られるジョン・ヒューストン 。
『チャイナタウン』(ブルーレイ)発売中
価格:2,500円(税込み)
発売元:パラマウント ジャパン
(C) 1974 by Long Road Productions. All Rights Reserved. TM, (R) & Copyright (C) 2012 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
そしてポランスキー監督が2010年にメガホンを取ったのが『ゴーストライター』 。ユアン・マクレガー 演じる主人公はタイトルの通り、元イギリス首相の自伝を執筆する「ゴーストライター」で探偵ではないが、一つ一つ手掛かりをたどって前任者の不可解な死、そして国家を揺るがす陰謀に迫るさまは探偵映画さながら。基本的には現在進行形で起きている事件ではないものの、画面いっぱいに不穏な空気が漂い、ユアンと一緒になって最初から最後までハラハラすること間違いなしだ。
ユアン演じる主人公には最後まで名前さえ与えられず、真実を手にするも最後に待っているのは悲劇だけで「人間は時に巻き込まれるだけの存在でしかない」という『チャイナタウン』 に通じるポランスキー監督の哲学が色濃く表れている。『チャイナタウン』 ではラストのクラクションが鳴り響くさまだけで何が起きたかをすぐに合点させるなど車の使い方が素晴らしかったが、本作でもオープニングの1台取り残された車の描写からラストシーンまで「車」がとても効果的に用いられている。ラストシーンの映像的な美しさは特筆すべきものといえるだろう。
常に空はどんよりしています
元イギリス首相とそのゴーストライター
Summit Entertainment/Photofest/ゲッティ イメージズ
最後に、推理小説というジャンルの父であり「モルグ街の殺人」などで知られる作家エドガー・アラン・ポーの死の真相を、史実とフィクションを織り交ぜて描いた『推理作家ポー 最期の5日間』 をご紹介。ポーが5日間の空白期間の後に酩酊(めいてい)状態で見つかり、「レイノルズ……」という不可解な言葉を繰り返してこの世を去ったという事実から、その空白期間にはポー(ジョン・キューザック )と彼の小説をコピーした殺人犯との息詰まる頭脳戦があったという大胆な発想が映像化されている。
監督を務めるのは『Vフォー・ヴェンデッタ』 のジェームズ・マクティーグ 。独特な映像表現に定評のある監督だが、製作前に「ある程度スタイリッシュにする必要はあるけれど、スタイルに食われてしまうような作品にはしたくない」と語っていただけあって、映像だけが浮くことなくポー作品特有のゴシック感を見事に作り上げている。物語の創造主で全てを知るポーが模倣犯とどのように対決していくのか、美しい映像と併せて映画館で観る価値のある作品だ。
映画『推理作家ポー 最期の5日間』 は公開中
ポーになりきるジョン・キューザック
仮面舞踏会で何かが起こる!
(C) 2011 Incentive Film Productions, LLC. All rights reserved.
文・構成:シネマトゥデイ編集部 市川遥
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